第2話:日常に潜む規律
地方都市、Y市。
山々に囲まれたこの街の朝は、都会のような喧騒とは無縁だ。私は出向先の事務所へ向かう道すがら、時折、通勤中の神代麗子を見かけることがある。
高校の同級生。大学時代、東京の小平にあるT大へ通っていた彼女と再会し、20代の最後に恋人として深い仲になった。163センチの、しなやかで均整の取れた肢体。81-68-90。かつて私の腕の中で、その柔らかな曲線を晒し、情熱的に愛を求めていた頃の彼女を、私は今でも鮮明に覚えている。
今の彼女は、膝丈のタイトスカートにジャケットを合わせ、母校で英語を教える「厳格な教師」だ。だが、その知的な装いの裏に、彼女が何を「秘めている」のかを、私は知っている。
彼女は今、戦士の姿ではない。
セイントレディへの変身には、セカンドバッグに忍ばせたあのロイヤルブルーの衣装を、自らの手で物理的に着用するプロセスが必要だ。だからこそ、学校での彼女の装いは、常に変身を前提とした、しかし極めて無防備な「準備段階」のままであった。
(……麗子。君は今、あのクリスタルをどんな気持ちで身につけているんだ?)
彼女のスーツの下。素肌の上に直接穿かれた、一点の曇りもない白いパンティ。
その中央、下腹部の位置には、正義の象徴である「ブルークリスタル」が固定されている。入浴時以外、彼女はこれを決して外さない。
クリスタルは彼女の体温と同調し、常に微かな熱を放ちながら、下腹部を硬く圧迫し続けている。その上から、ナチュラルな肌色のパンストが、白い布地とクリスタルの無骨な膨らみを覆い、彼女の滑らかな肌へと密着していた。
教壇に立つ麗子の意識は、常にその「下腹部の違和感」に割かれていた。
チョークを握り、英文を書き連ねる。腕を動かすたび、パンストの中で白いパンティのゴムが、彼女の腰の肉に微かに食い込む。
(……はぁ。少し、歩くだけで……クリスタルが当たる……)
授業中、彼女は無意識に脚を固く閉じ、姿勢を正す。生徒たちにはそれが「教師としての凛とした姿」に見えているが、実際は、パンストの中でズレようとする下着とクリスタルを、自らの筋力で抑え込んでいるだけだった。
変身してレオタードを纏えば、全身が凄まじい弾性によって「戦士」として固定され、この不安定な不快感は消える。しかし、生身の今、彼女を支えているのは、自分自身の意志と、この薄い下着の感触だけだ。
放課後、私は私用で高校の近くを通り、正門から出てきた彼女を見かけた。
「神代先生。お疲れ様」
声をかけると、彼女は一瞬、肩を強張らせた。かつての恋人である私に見せる、ふとした瞬間の動揺。
「……あ、あなた。お疲れ様です」
彼女は立ち止まったが、その瞳はどこか落ち着きがない。
「どうした? 何か、顔色が悪いようだけど」
私が一歩踏み出すと、彼女は反射的に、スカートの上から下腹部のあたり――クリスタルのある場所――を手で隠すように押さえた。
「……いえ。少し、腰のあたりが気になるだけ。……気になさらないで」
彼女は無理に微笑んだが、その表情には焦燥感が滲んでいた。
もし、今ここでパンストの締め付けが緩み、下着がずれてしまったら。もし、このクリスタルが誰かの目に触れるようなことがあれば。その恐怖が、彼女の神経を極限まで尖らせている。
彼女は、レオタードを纏っていない日常の時間さえも、あの「不自由なまでの窮屈さ」をどこかで求めていた。自分を物理的に抑え込んでくれる「鎧」がない不安を、下着とパンストのささやかな食い込みで必死に埋めようとしているのだ。
「……麗子。あまり、無理はするなよ」
私がそう告げると、彼女は悲しげな、それでいてどこか救いを求めるような瞳で私を見つめた。
「……私には、これしかないの。……今の自分を支えるには、これが必要なのよ」
彼女は私を振り切るようにして、足早に立ち去った。
向かうのは、人目のない物置か、それとも放課後の更衣室か。
彼女はそこで、セカンドバッグからあの圧縮された「ロイヤルブルー」を取り出し、誰にも見られることなく、自らの身体をねじり込むようにして変身を遂げる。
パンストの上から、強靭なレオタードを引き上げる。
肉体が万力で締め上げられ、白いパンティとクリスタルが「神聖な空間」へと封じ込められる、あの凄まじい圧迫感。
彼女は、その苦しさの中にしか、自分のアイデンティティを見出せなくなっていた。
「……っ……ふぅ……。これで、いい……。これで、戦える……」
暗闇の中で、レオタードの裾ゴムを指で引き、腰の肉へ「パチン」と弾き入れる麗子。
だが、今日の彼女の身体は、いつもとは違う嫌な予感に震えていた。
自らを厳格に律し、余計なものを削ぎ落としてきた30代の肉体は、これから訪れる「蹂躙」を、本能的に察知してしまったのだ。
彼女が命よりも大切に守り続けてきた、パンストの奥の「白い聖域」。
それがドロルたちの卑俗な嘲笑の下に晒される第3話の悲劇が、刻一刻と近づいていた。
会社員である「私」の視点と、麗子の日常における「下着・パンスト・クリスタル」の生々しい感触を重視して執筆しました。




