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【外伝 File04】:ニップレス・プロトコル ー「最後の理屈」を貼る指先ー

ロイヤルブルーの聖衣コスチュームを纏う前、私には欠かせない「儀式」がある。

それは、教師としての仮面を脱ぎ捨て、一人の戦士へと自分を「矯正」するための、あまりにも無機質で孤独な時間。

鏡に映る自分の肉体を憎み、同時にその制御不能な過敏さに怯える私が、最後に縋る薄い防壁。それが、この円い粘着布――ニップレスだった。

これは単なる装備ではない。

私の肌を打つ冷気や、レオタードがもたらす強烈な着圧が、卑猥な「快感」へと翻訳されてしまうのを防ぐための、文字通り「最後の理屈」。

特に、右側の先端に刻まれた拭い去れない過敏な記憶を封じ込めるため、私は震える指先で、自らの女としての感覚を押し潰す。

けれど、完璧だと思っていたその防壁が、あの男――ゾディアックの指先によって無残に剥ぎ取られた時、私は知ることになる。

防壁であったはずの「規律」が、いかに容易く私を裏切り、逃げ場のない悦楽の罠へと変質してしまうのかを。

これは、一人の聖女が自らに課した「欺瞞」と、それが音を立てて崩れ去った夜の自白録である

第一章:断絶の白

放課後の更衣室、あるいは冷え切ったアジト。私は鏡の前に立ち、先ほどまで「神代先生」という記号であったはずのスーツを脱ぎ捨てる。ブラジャーを外せば、そこにあるのは戦士の誇りなどではなく、30代の成熟を湛えた、あまりにも無防備な私の肉体だ。

そして、この「制御不能な呪い」――自分の意志とは無関係に、外気や緊張に反応して硬く尖ってしまう、過敏な二つの突起。

私はポーチから、無機質なプラスチックの包装を取り出す。中に収められた使い捨ての、薄く円い粘着布。

「……これは、私が私であるための、最後の理屈」

自分に言い聞かせるように呟き、剥離紙を剥がす。指先に伝わる、わずかな、けれど逃げ場のない粘着剤の重み。私はまず、自分でも触れるのが恐ろしい「右側」へとその指を向けた。

第二章:右側の呪縛 ―偶発的な接触という原罪―

なぜ、私はこれほどまでにこの薄い布一枚に固執するのか。目を閉じれば、今もあの日の「事故」の感触が蘇る。

活動を始めて間もない頃。下級怪人との乱戦中、振り回された怪人の腕が、偶然私の胸元を強くなで上げた。

『おっと……聖女様は、こんなところも敏感なのか?』

怪人の下卑た声。意図せぬ、ほんの一瞬の接触。けれど、レオタードの薄い生地を介して直接先端を擦り上げられたその衝撃は、私の脳内に、あろうことか甘く鋭い「震え」を叩き込んだ。

戦士としての規律が、一瞬の「事故」で瓦解しかけた恐怖。羞恥と、処理しきれない感覚の奔流。

特に右側は、絶望的なまでに過敏だった。わずかな生地の擦れ、冷気、あるいは戦場での恐怖といったあらゆる刺激が、私の脳内で「悦楽」の信号へと不本意に書き換えられてしまう。一度そのスイッチが入れば、私は正義を説く戦士ではなく、ただの震える肉の塊へと堕ちてしまう。

私は冷たい粘着布を、右側の頂点に押し当てる。

指先に力を込め、執拗なまでに肌に密着させる。これは防御のための最終手段。女としての感覚を物理的に封印し、冷徹な正義の器へと自分を「矯正」する儀式。

この不自由な粘着剤の中に閉じ込めることでしか、私は「セイントレディ」という規律を維持できない。

第三章:欺瞞の防壁 ―ゾディアックの宣告―

ニップレスを装着した上から、ロイヤルブルーのレオタードを纏う。

ファスナーのない強靭な生地に身体をねじ込み、首元まで隙間なく密着させる。全身を万力で締め上げるようなこの「着圧」の中で、ニップレスが生む偽りの静寂に、私はいつも安堵していた。

生地の張力がニップレスを介して先端をギュッと内側へ押し込める。生身であれば耐え難い圧迫だが、盾があるおかげで、それは「正義の重み」という心地よい緊張感へと昇華されるから。

けれど、あの埠頭でゾディアックは、私のこの防壁を冷酷な言葉で射抜いた。

『まずは、この無意味な欺瞞を剥いでおこう』

彼が呼んだ「欺瞞」という言葉が、私の意識の底に澱のように沈殿する。

自分を律するための「最後の理屈」が、敵の目には単なる「欺瞞」に映っているという事実。私はその不吉な予感を振り払うように、より深く、レオタードの規律へと身を沈めるしかなかった。

第四章:剥離と翻訳 ―二つの盾を失った夜―

「さて、その『最後の理屈』を剥いでやろう」

ゾディアックの冷たい声が響いたのは、私が虚空に吊るされ、四肢を奪われた時だった。

自由を失い、極限まで生地が張り詰めた私の襟元に、彼の指が滑り込んでくる。

「やめて……っ! そこは、触らないで……!」

私の悲鳴を嘲笑うように、彼の指先が、私の肌に癒着していたニップレスの端を捉えた。

じりじり……。

まずは右側。続いて左側。

二枚の粘着布が、一枚ずつ丁寧に、無慈悲に肌から引き剥がされる。

体温を吸っていた粘着剤が失われた瞬間、夜の冷気が、最も無防備で過敏な二つの場所を直接打ち据えた。

「ああああああっ……!!」

直後に襲ってきたのは、言葉にできないほどの絶望だった。

剥がした二枚のニップレスを捨て去った彼は、わざとらしくレオタードの襟元を元の位置に戻した。

ニップレスという緩衝材を失った裸の肌に、強固な着圧を誇る生地が直接密着する。

もはや、そこに防壁はない。

彼がレオタードの表面をなぞるたび、高密度の繊維が「翻訳機」となって、彼の指先の微細な震えを数百倍の摩擦へと増幅させ、過敏な先端へと直接叩き込んでくる。

「ひ、あ、あああぁっ! レオタードが……生地が、私を……っ!!」

私は狂ったように痙攣した。規律であったはずの着圧が、今は私を絶頂へと追い詰める拷問へと変質していた。

第五章:ゴミ箱への残響

戦いから戻り、アジトの静寂の中で私は立ち尽くしていた。

彼の指によって奪われ、冷たいコンクリートに捨てられたあの二枚のニップレス。私を「聖女」に繋ぎ止めていた最後の理屈は、今や汚れ、踏みつけられたゴミに過ぎない。

私は自らの胸を抱きしめる。けれど、そこに触れる自分の指先さえも、彼がもたらした「翻訳された快感」を再現してしまうようで、激しい眩暈が私を襲う。

そこに、聞き慣れた足音が近づいてきた。

現れた健一は、震える私の指先を制し、ニップレスという人工の防壁ではなく、彼の「唇」という熱い体温で、私の過敏な場所を包み込んだ。

「……健一……あ、ああ……っ」

冷たい粘着布で隠さなければならなかった自分の弱さを、他者の温度で肯定された瞬間。

私を縛り続けていた孤独な呪縛は、彼の愛という共鳴の中に溶けて、消えていった。

アジトの静寂の中。かつての「規律」の残骸は、もう二度と私を孤独な戦士へと縛り付けることはなかった。

(完)


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