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セイントレディ・麗子の憂鬱  作者: はまちゃん
第1章 揺らぎの果てに立つ物語
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【外伝 File 02】】白いパンティと聖なる空間 〜境界線の美学と戦士の矜持〜

本編の10話完了時点での、語り手(健一)視点の背景、補足説明です。


10話 https://ncode.syosetu.com/n6052ls/12/

アジトの奥に設けられた、狭く、清潔な保管庫。私は一人、予備の装備品が収められた棚を整理していた。


棚には、ハンガーに吊るされた数着のロイヤルブルーのレオタードが、その重厚な光沢を湛えて並んでいる。その下には、対照的に柔らかく、丁寧に畳まれた「白」の予備が積み重なっていた。 予備の下着。 指先に触れるその綿混の生地は、驚くほど厚みがあり、しっかりとした質感を持っている。それは、過酷な戦場に身を投じる彼女が、その肌に最も近い場所で自分を律し続けてきた、沈黙の物証のように思えた。


なぜ彼女は、今どきの機能的なスポーツインナーではなく、この「白の下着」を聖域の守りとして選んだのか。 その理由を紐解くことは、神代麗子という女性が歩んできた、不器用で真っ直ぐな道のりを辿ることと同義だった。




かつて、私たちは同じ空の下で、もう少しだけ近い距離にいた。 地方都市Y市の高校時代。当時の彼女は、今のような「聖女」の光を放ってはいなかった。 校則を遵守し、目立つことを極端に避けていた彼女は、おそらく何の飾りもない、ただ清潔であることだけを目的とした白を身につけていたはずだ。そこに自意識や色気などは微塵も存在せず、ただ「正しくあること」だけを自分に課していた時代。


転機は、東京の有名女子大への進学だった。 伝統ある女子大の門を潜り、都会の華やかさに当てられた彼女は、それまでの地味な自分を塗り替えるように、色彩豊かなランジェリーを手に取るようになった。


「これ、最近の流行りなんだって」


武蔵野の面影を残すキャンパスの近くで、彼女が照れくさそうに見せてくれた、淡いピンクや繊細なレース。 だが、その色彩は彼女の肌に馴染んでいるようには見えなかった。 当時の彼女にとって、それらは自分を「等身大の女の子」に見せるための、いわば背伸びの道具だったのだ。色を選びながらも、彼女の心は常にどこかで、その華やかさに居心地の悪さを感じていた。


結局、私たちは一線を越える手前ですれ違い、彼女は再びこの街へ、教師として戻ってきた。 そして、あのブルークリスタルに選ばれた時、彼女は迷うことなく、かつての色彩を脱ぎ捨てた。あの頃の違和感から逃れるように、彼女は自らを律するに相応しい、最も厳格な「白」へと回帰したのだ。




彼女がスポーツインナーという「現代の合理性」を切り捨て、この厚手のフルバックを選んだのには、明確な理由がある。


まず、物理的な必然だ。 重量のあるブルークリスタルを股間の中央にブローチ固定し、激しい運動下でも一ミリのズレも許さずに保持するためには、スポーツインナーの薄く滑らかな生地ではあまりに心許ない。 クリスタルの角をしっかりと受け止め、肉体の一部として定着させるには、この適度な摩擦と支持力を持つ綿の生地こそが、唯一の正解だった。


さらに、レイヤーの調和という側面もある。 肌色のパンストを重ね、その上からロイヤルブルーのレオタードで全身を締め上げる。この三層構造において、スポーツ素材は「滑りすぎる」のだ。 生地同士が噛み合わず、激しいアクションの最中に下着の位置が動くことは、即、聖域の崩壊を意味する。


彼女にとってこの選択は、決して「戦いに不利なもの」ではない。 むしろ、セイントレディとしての力を維持し、神聖な空間を守り抜くための、彼女なりの最も誠実な回答だった。



しかし、私がこの予備の白を見つめ、背徳感にも似た疼きを感じるのは、そのデザインに込められた、彼女のあまりにも無防備な矜持を知ってしまったからだ。


彼女が選んでいるのは、純白の中に、黒い月下美人の棘を思わせる緻密なステッチが施されたデザイン。 麗子本人は、それを「華美に走らず、聖女としての品格と規律を保つための境界線」だと信じている。白をベースに、最小限の黒。それが彼女にとっての、清潔な戦士の正装なのだ。


だが、私は想像せずにはいられない。 その「守りたい」という真面目な一心で整えられた意匠が、侵略者たちにとってどれほどの呼び水になっていたかを。


裾ゴムを強引に広げられ、純白の中に引かれた「黒い境界線」が白日の下に晒される瞬間。 彼女が必死に、一生懸命に隠し通そうとしてきたその空間が、卑俗な怪人たちの好奇に晒される。 彼女が高潔であればあるほど、そのデザインに込めた規律が厳格であればあるほど、それを暴き、汚したいという敵の嗜虐心は臨界点に達する。


彼女は、自分が一生懸命に守ってきたその美学が、皮肉にも「最高の標的」を作り上げていたことに、今も気づいていない。 敵に蹂躙され、名前を呼ばれ、絶頂の波に飲み込まれながらも、彼女はこの白を信じ、自らの誇りをそこに託してきたのだ。


その健気なまでの無自覚な危うさが、今の私には愛おしく、また残酷に感じられた。




保管庫の整理を終え、私は畳み終えた白を静かに棚へと戻した。


このデザインは、もう孤独な戦いの象徴ではない。 彼女が自分を律するために選んできた白。そこに刻まれた黒いステッチ。 これからは、その規律を誰かに暴かせるのではなく、私が隣で、その聖域ごと受け止めていく。


敵の視線がなぞったであろうその境界線を、今度は愛という名の解釈で共鳴するために。 私は保管庫の明かりを消し、彼女の待つ部屋へと足を向けた。


【セイントレディ愛用の下着】

挿絵(By みてみん)


File 02:完



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