第1話:聖女の誕生と「神聖な空間」
地方都市、Y市。
山々に囲まれ、夜になれば駅前の数少ない街灯だけが弱々しく灯るこの街は、神代麗子にとって「逃げ場所」であり、同時に「聖域」でもあった。
マンションの自室、月明かりだけが差し込む静謐な空間で、麗子は姿見の前に立っていた。
30代という成熟の季節。163センチの均整の取れた肢体。鏡に映る81-68-90の曲線は、かつて東京の小平にあるT塾大へ通っていた頃、華やかな合コンや遊びに明け暮れ、「はじけ飛んだ」20代を謳歌していた頃の名残を、その豊潤な肌の弾力に秘めている。
私は、出向先であるこの街の高校で、教師として働く彼女に再会した。
高校時代の地味な彼女。大学時代、東京で再会し、情熱的に私を求めて肌を重ねた恋人としての彼女。そして今、知的な眼鏡の奥に一切の迷いを許さない、厳格な英語教師としての彼女。
そのどれもが麗子であり、同時に、今の彼女はそれらすべての過去を、ロイヤルブルーの「規律」の下に封印しようとしていた。
「……規律を。私を、正しい形へ」
麗子は誰に聞かせるともなく呟くと、静かに服を脱ぎ捨てた。
これから始まるのは、戦うための準備であり、同時に彼女自身の精神を「セイントレディ」へと矯正するための孤独な儀式だ。
まず、彼女は素肌の上に直接、純白のパンティを穿いた。
清潔を象徴する、何の飾りもないフルバック。その中央、下腹部の位置には、正義の象徴である「ブルークリスタル」がブローチのように固定されている。それは常に硬質な輝きを帯び、彼女の肉体へ超常的な力を送り込んでいる。
次に、彼女はその白い聖域を覆い隠すように、ナチュラルな肌色のパンストを引き上げた。指先で慎重に、伝線を防ぐように腰まで手繰り寄せる。パンストの薄い膜越しに、白い布地の質感と、その中央に鎮座するクリスタルの無骨な膨らみが、うっすらと透けて見える。この「下着の上にパンストを穿く」という、秘められた多層構造こそが、彼女にとっての第一の防壁であった。
麗子は次に、圧縮携帯されていたロイヤルブルーのレオタードを手に取った。
ファスナーもボタンも存在しない、ただ一つの開口部を持つ、不自由なまでの檻。彼女は脚を一本ずつ滑り込ませ、身体をしなやかにねじりながら、肉体をその窮屈なレオタードへと「押し込んで」いく。
レオタードの素材は、超高密度の強弾性繊維。
それは麗子の体温を奪い、代わりに冷徹なまでの圧迫感を返してくる。30代を迎え、より女性らしくなった90センチのヒップラインが、レオタードの暴力的な弾性によって強引に圧縮されていく。肉体がその狭い空間を奪い合い、繊維の一本一本が彼女の肌に密着していくが、そこには派手な音も、光もない。ただ、彼女の吐息がわずかに荒くなるだけだ。
「っ……ふぅ……」
麗子の喉から、押し殺した吐息が漏れる。
腕を通し、レオタードが全身を覆った時、彼女は万力で締め上げられるような凄まじい拘束感に包まれた。脇腹、腰、そして最も敏感な胸元。豊かな乳房は無慈悲な圧力で平坦化され、戦闘中の過敏な反応を抑えるために装着されたニップレスが、生地の裏側から押し返される強い圧力を受けて、彼女の意識に鋭い緊張を走らせた。
続いて、パンストの上に強靭なブーツを履き、目元を隠すマスクを装着する。
仕上げに、彼女はレッグラインの裾ゴムを両手で掴み、力任せに引き下げてから、静かに手を離した。
裾ゴムは彼女の股間と臀部の境界に深く、容赦なく食い込み、柔らかな肉を強引に区分けする。痛みにも似たその強烈な食い込みの感触は、彼女の脊髄を駆け抜け、脳に「戦闘開始」の信号を送った。
鏡の中のセイントレディは、寸分の狂いもない左右対称の美しさを体現していた。
どこにも「たわみ」も「隙」もない。レオタードはパンスト越しに肉体を限界まで締め上げ、白い下着とクリスタルの存在を、外界から隔絶された「神聖な空間」へと封印している。
「完璧……。これが、私の規律」
彼女は、この裾ゴムの結界がある限り、自分は決して汚されないと、盲目的に信じていた。
だが、その強烈な食い込みが、男性視点では「隠すからこそ煽情的な弱点」であることを、彼女はまだ無自覚なままだった。
その時、脳内にアラートが響いた。
「エクリプスの構成員、怪人ドロル群がY駅前の商店街に出現。セイントレディ、出動せよ」
「了解。……セイントレディ、行きます」
彼女は凛とした声で応じると、一気に夜の街へと飛び出した。
Y駅前の商店街は、恐怖と混乱に包まれていた。
街灯が点滅する下、泥のような粘液を垂らす下級怪人ドロルたちが、逃げ惑う人々を追い詰めている。
「そこまでよ、醜い怪物たち!」
低層ビルの屋上から、鮮やかなロイヤルブルーの軌跡を描いて、彼女は舞い降りた。
セイントレディの戦いぶりは、まさに「規律」の具現化であった。
「はあっ!」
鋭いハイキックがドロルの頭部を砕く。その際、どれほど脚を高く上げようとも、レオタードの裾ゴムは微動だにせず、パンストの下の白いパンティを死守していた。
激しい格闘、地を這うようなステップ。肉体が躍動するたび、レオタードは強烈な締め付けで彼女の筋肉をサポートし、疲労を「正義の重み」という快感へと変換していく。
(……このレオタードがある限り、私は負けない。私は、誰にも屈しない)
ドロルたちの触手が彼女の周囲をかすめるが、クリスタルのエネルギーで強化されたレオタードは、その邪悪な接触をことごとく弾き返した。彼女は戦いの中での全能感に酔いしれていた。この窮屈な規律こそが、自分を律し、敵を退ける唯一の法であると信じて。
だが、麗子はまだ知らない。
自分を無敵にしていると信じているこのロイヤルブルーの生地が、やがては自分を裏切り、敵の愛撫を「翻訳」し、増幅させる絶望の媒介へと変質していく未来を。
そして、その強靭な裾ゴムの向こう側に秘められた「白い聖域」が、ドロルたちの卑俗な嘲笑の下に晒される日が、すぐそこまで迫っていることを。
戦いを終え、夜の静寂が戻った商店街。
セイントレディは、乱れた呼吸を整えながら、自らの身体を抱きしめるようにしてレオタードの弾性を確かめていた。
それは、自分を律するための「正しい痛み」であるはずだった。
しかし、その指先がわずかに震えていることに、彼女自身もまだ気づいていなかった。




