転落
鉄の重い扉が開き、アリシアは首輪の重みを感じながら、静かに顔を上げる。
かつて誇り高き令嬢だったアリシアは、今や“商品”として置かれていた。
「買い手が来たぞ。立て」
看守の声に従い、アリシアは立ち上がる。
その瞬間、視線が交差した。
黒髪に青い瞳の青年――ルーク・ヴァレンティア。
「……もっと丁重に扱うよう言ったはずだが?」
その声は静かだった。だが、空気が震えた。
奴隷商会の主人が慌てて頭を下げる。
「も、申し訳ございません、ルーク様! ですが、これでもかなり大切に扱っているつもりでした」
粗末なベットしかない暗い部屋。これで大切なら、他の商品たちはどんな扱いを受けているのか。
ルークの青い瞳が、鎖に繋がれたアリシアを射抜く。 その視線は冷たく、熱かった。
「やっと、この日が来た」
アリシアは顔を上げる。
「……あなたが、私を……?」
「そうだ。俺が買う。俺のものにするために、お前を奴隷にした」
ルークはゆっくりと歩み寄り、彼女の頬に触れようとした手を、アリシアは振り払った。
「私は、あなたの思うようにはならない!」
ヒィッ!と奴隷商会の主人が震え上がった。
それに反して、ルークは満足そうに微笑んだ。
「それでこそアリシアだ。普通では手に入らないから、この方法を取ったまで。俺を恨む気持ちでいっぱいなら、それも悪くない」
アリシアの瞳が揺れる。
憎しみと、理解不能な感情が混ざり合う。
ルークは奴隷商会に告げる。
「契約金は倍払う。彼女には一切触れるな。
今後、彼女に傷一つでもつけたら――お前の商会ごと消す」
その言葉に、誰も逆らえなかった。
そして、ルークはアリシアの首輪を外す。
「こんなゴミのような空気を吸わせてしまった。すぐに帰って消毒だ」
ルーク・ヴァレンティア
国で一番の富豪とも噂される男。
この男のしようとすることが、全くわからない。今はただ、奴隷として付いていくことしかできなかった。




