第8話:笑いのない町にて
【ピポピポ……清掃依頼 No.2406 受信】
依頼元:惑星クラティル=トーン 第四都市圏
依頼内容:「町全体が、笑わなくなった」
心のモヤ度:都市全域平均78%(沈黙汚染・拡大傾向)
汚れランク:都市級B→A変異中(笑顔不足・心閉鎖・声の不使用)
備考:この町では“静かにしていること”が美徳とされてきましたが、近年、誰も本当に笑わなくなったそうです
惑星クラティル=トーン。
静かな、静かな星。
第四都市は、まるで“息をひそめて”いるように沈んでいた。
人々はすれ違っても目を合わせず、
店に入っても声は出さず、
子どもたちすら、笑わなかった。
理由は――わからない。
ただ、ある日を境に“笑う”ことが、なんとなく恥ずかしいことになっていった。
【ススノヴァ号・着陸】
「……音、ありませんね。鳥の鳴き声も、風の音も、心の音も――消えてる」
コロコの声も、どこか小さくなる。
フィッシュが、町に足を踏み入れる。
彼を見た住人たちは、一瞬たじろぐ――が、無言ですぐ目を逸らす。
「……ぬめってる」
と、ひそやかな声。
でも、フィッシュはただ一言。
「……よごれてる」
【掃除開始:無言の町】
フィッシュは、公園のベンチを拭き、
壊れた噴水の水を循環させ、
くすんだ壁に浮かんでいた“過去の落書き”を泡で浮かび上がらせる。
それは――
「わらっちゃえ!」
子どもの手描き文字だった。
町の隅に、小さな広場がある。
そこに、ひとり座っていた老婆にフィッシュが近づく。
「……誰も、声を出さんようになってね。
きっかけ? そんなもん、なかったよ。
“そういう空気”になっただけ。
空気は、強いんよ」
フィッシュ、ゆっくりと目を閉じて――
ぽつりと呟く。
「……かんき、する」
ヒレをひらいて一閃。
空気清浄泡が、町じゅうにふわっと流れ出す。
それは、ほのかに甘い匂い。
なつかしいような、くすぐったいような。
誰かが、笑ってくれた時の香り。
【最初のひと笑い】
ふと――
ひとりの子どもが、泡を追いかけて転んだ。
「ぴたっ! いたたっ……あ、でもおしりが、ぷにっ! って!!」
笑った。
次の瞬間、となりの子どもも、
通りがかったおじさんも、
商店の奥でお菓子を並べてたおばあさんも――
「あはは」「ふふっ」「……ぷっ」
それは、ほんの少しのほころび。
でも、そこから空気が変わっていった。
【出発】
「旦那様、すごいですわ。町の“音”が……戻ってきてます」
「……ぴかぴか」
「え?」
「笑いって……空気の、つや……みたいなもの」
それをぽつりと言い残し、
ススノヴァ号は再び宇宙へ。
次の依頼:惑星未登録・個人名義
内容:「亡くなった人の部屋を、どうしても片づけられません」
コロコ補足:感情濃度、高。魂の掃除が必要な案件となります。
……向かいますか、旦那様?
…いくよ