第5話:迷い子の中の宇宙
【ピポピポピ……清掃依頼 No.2403 受信】
依頼元:該当者なし(自動発信信号)
発信元:宇宙ドリフトエリアD9-ZF、緊急ビーコン
依頼内容:「居住者不明/生命反応あり/SOS」
モヤ度:100%(識別不能)
汚れランク:不明(精神ノイズ多重検知)
補足:少年のような声が1度だけ確認されました――「……誰か、きて」
ススノヴァ号、無音の空間を漂う。
星もなく、光もない。
ただ一艘、小型ポッドが浮かんでいた。
「……閉じてます。完全に、全部」
コロコの声にも、滲む焦りがある。
フィッシュ、ゆっくりと宇宙ポッドに近づく。
自動ドアをこじ開け――内部へ。
【内部:小さな居住空間】
ぬいぐるみがひとつ、浮いている。
床に散らばったキャンディの包み紙。
壁一面に描かれた、クレヨンの絵――
「家族」「青い星」「大きな犬」「ごはん」
だが、どれも途中で止まっている。
ベッドに、小さな少年。
眠るように膝を抱え、動かない。
だが、かすかに呼吸している。
「……たすけて、くれたの?」
少年の声。か細く、かすかに――
その心の中は、ぐちゃぐちゃに絡んでいた。
【フィッシュ、動く】
「……よごれてる」
にゅるっと伸びたヒレが、部屋の空気をなぞる。
空間に漂っていた「悲しみの粒子」「寂しさの染み」「怒りの塵」が、ひとつずつ光に変わっていく。
ぬいぐるみを撫で、クレヨンの線をそっとつなげる。
キャンディの包み紙を、小さな花の形に折る。
少年の目が、少しずつ開く。
「……なんで、掃除なんてしてくれるの?」
フィッシュ、ぽつりと呟く。
「……ここは、まだ……生きてるから」
【外に出る】
ドアが開き、ススノヴァ号へ少年を乗せる。
彼は静かに、船内の泡風呂に足を浸ける。
「……なんか、あったかいね」
「わたし、もうちょっと、生きててもいいかな」
フィッシュ、無言でうなずいた。
少年の目に、ほんの少しだけ、色が戻っていた。
【出発】
「救助信号、完了。少年は一時保護リストに登録。
しばらく、ススノヴァ号で“仮の居場所”として預かります」
とコロコが報告しながら――
フィッシュがそっと少年のそばに、新しいぬいぐるみを置く。
それは、お掃除フィッシュそっくりの、ぬめぬめぬいぐるみだった。
次の依頼――
「家じゃない場所を、家にしてください」
出発準備、整っております。
……行きますか、旦那様。
…いくよ