第4話:ウルトラヒロイン、完璧の裏側
【ピポピポピポ……清掃依頼 No.2402 受信】
依頼元:ウルトラヒロイン・オフェリア様(惑星アーシュベル)
依頼内容:「汚れなどないと思いますけれど、念のためお願いして差し上げるわ」
心のモヤ度:?(診断不能・エレガンスでマスキング)
汚れランク:B(表面は清潔・だが見えない何かが)
備考:「完璧なヒロイン」として有名。自宅は美術館のような住空間。
惑星アーシュベル。
宝石のように輝く街並みと、白亜の塔が連なる芸術星。
そこに住むのが、ウルトラヒロイン・オフェリア。
完璧な美貌、エレガントな所作、スキャンダルゼロの英雄。
その住まいは、まるで宇宙美術館――
光沢ある大理石の床、手入れの行き届いた観葉植物。全てが**“完璧”**だった。
フィッシュが無言で扉の前に立つ。
「……ごきげんよう。貴方が“お掃除フィッシュ”ですのね?」
オフェリアは、微笑みながら出迎える。
だが――
(コロコ・小声)「旦那様、……おかしいです。空気に不自然な緊張が。
まるで、**“絶対に汚れてはいけない空間”**を保とうとしているような……」
【掃除開始】
フィッシュが足を踏み入れる。
「……よごれてる」
オフェリア:「え?」
見た目は一分の隙もない。だが、
――フィッシュの泡ノズルが、“床の奥”をなぞった瞬間。
カツン
そこに隠されていた、ひとつの割れたアクセサリーが現れる。
古びたブローチ。微かに“母のにおい”が残る。
「……これは……」
オフェリアの微笑が、ふっと揺らぐ。
【沈黙の中で】
フィッシュ、何も言わず、そのブローチをそっとぬめ泡で包み、磨く。
記憶が溢れる。
母と過ごした日々。
“完璧でなければならない”と教えられた子ども時代。
「私は……汚れてなどいませんわ」
「私は……“そうでなければ”いけないのですもの」
フィッシュが、静かに近づく。
「……おちつけ」
そう言って、ひとつだけ――
彼女の涙を、そっと、泡でぬぐった。
【掃除完了】
室内の空気が、ほんの少しだけやわらかくなる。
「……また来てくださっても、構いませんのよ?」
オフェリアが背を向けたまま、そっと言う。
フィッシュは何も言わず、くるりと振り返り――
「……きれいになった」
【ススノヴァ号・出発前】
「旦那様、すごいですねぇ……。完璧すぎる人の“ほころび”を、
そっと修復してみせるなんて……ふふ、さすが我らが清掃職人!」
船窓にうつるオフェリアの住まい。
あの白い塔の灯りが、どこかあたたかく見えた。
「次の依頼:到着済み」
「種別:迷い子対応――“宇宙漂流少年”」
「現場:居住無し・本人要救出」
…旦那様、次はちょっと、特別な清掃のようです。
よろしいですか?
…いくよ