第2話:怪人の心のゴミ取り
【ピポピポ……清掃依頼 No.2400 受信】
依頼元:怪人アトリエ・バグロス
所在地:惑星アートス・旧彫刻工房跡地
依頼内容:「作品制作の気が散って仕方がない。部屋と心、まとめて頼む」
心のモヤ度:92%(創作欲求と承認欲求のねじれ)
汚れランク:S(物理的にもやばい)
ススノヴァ号、静かに惑星アートスの大気を滑空する。
灰色の空、崩れかけた工房群。
その一角に、異様なオーラを放つボロ小屋があった。
「うぉあっ!? 来たな!? 美の神に祝福されし“芸術怪人”バグロスのアトリエへようこそ!」
ドアが爆音で開く。
全身に絵の具、墨、金粉、ぬめりまでまとったアーティスト怪人が派手にポーズを決めていた。
だが、その背後のアトリエは――
「……よごれてる」
(by フィッシュ)
散乱したキャンバス、破られた詩集、腐った果物、埃まみれの彫刻。
床に転がる「自己否定の断片」たち。
「ふん! 誰が頼んだんだよ! ……いや、頼んだのはオレだけど!
他人の手でこの“創造のカオス”をどうにかできると思うなよ!!」
「……おちつけ」
フィッシュ、作業開始。
【掃除中】
泡ボールたちが飛ぶ。
シュワ:「キャンバスの下から“誰にも見せられない詩”発見!」
ピュン:「感情のしこり、ホコリと一体化してるっす!」
フィッシュ:「……ここ、なにか言いたがってる」
ひとつ、ふたつ、溜まっていた心のモヤが形を持って現れる。
《“なんで誰もわかってくれないんだ”》
《“俺はバカじゃない、俺は…”》
フィッシュ、何も言わずに――
埃の中から一枚の詩が描かれた紙片をすくい上げ、布でゆっくり、ていねいに拭く。
バグロス、動けない。
「……それ、捨てたやつ」
「……よごれてない」
その瞬間、フィッシュの瞳がきらりと光る。
埃が舞い、アトリエの空気がすうっと澄んでいく。
【数日後(アフター報告)】
バグロスの展示会が宇宙通信で話題に。
「“あの詩が沁みた”」「“本音に触れた気がした”」と絶賛の嵐。
でも、バグロスはただ、机に座って呟く。
「……あの詩は、掃除のとき見つかった。オレが、俺自身を見つけた日だ」
そして、そっと一筆添える。
“Special thanks to Fish.”
【ススノヴァ号にて】
「ふふ、旦那様。今のご依頼、SNSでもバズってましたよ。
“謎のぬめっとした影が、天才を救った”って。」
フィッシュ、無言。だが、背ビレが――ほんの少しだけ、揺れた。
「……つぎ」
次の依頼、受けてよろしいですか?
…つぎ、いくよ。