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剣とは


 

 翌朝、ハロルドは再び訓練場に立っていた。

 

 昨日の稽古のせいで全身が軋む。腕を上げるたびに鈍い痛みが走ったが、戦場を生き抜いてきた彼にとって、この程度の疲労は日常だった。

 

 バルドはすでに待っていた。大柄な体格に似合わず、軽快に木剣を回しながらニヤリと笑う。

 

 「今日は昨日より厳しくいくぞ。覚悟しろ」

 

 「……手加減する気はないんだな」

 

 「当たり前だ。戦場で甘さを見せれば死ぬ。お前もそれは知ってるだろう?」

 

 その言葉にハロルドは苦笑した。

 

 「そうだな」

 

 戦場では、相手に容赦する余裕などない。剣を振るうことを躊躇えば、自分が斬られる。何度もそれを経験し、泥の中を這いずって生き延びてきた。

 

 だが——

 

 (戦場と訓練場は違う)

 

 ここでは「生き残るための剣」ではなく、「戦うための剣」を学ぶのだ。

 

 

異なる剣技

 

 バルドは構えを取ると、素早く踏み込んだ。

 

 「——っ!」

 

 ハロルドは咄嗟に剣を振るい、衝撃を受け止める。しかし、その瞬間にはすでにバルドの木剣が別の角度から襲いかかってきた。

 

 (速い……!)

 

 とっさに身を引いて回避するが、次の瞬間には足元を払われ、バランスを崩す。

 

 「おっと」

 

 バルドが間髪入れず木剣を突きつけた。

 

 「また俺の勝ちだな」

 

 ハロルドは悔しさを噛み締めながら立ち上がる。

 

 バルドの剣は洗練されている。無駄がなく、流れるような動きだった。対してハロルドの剣は、戦場で培った変則的なもの。生き残るために磨かれた剣筋は、理論的な剣技の前では隙が多すぎた。

 

 「お前の剣は確かに戦場向きだ。相手の虚を突き、不意打ちや変則的な動きで勝機を掴む。それが悪いわけじゃない」

 

 バルドは木剣を回しながら続けた。

 

 「だがな、剣の基礎を知らなければ、通じない相手がいる」

 

 「通じない相手……?」

 

 「騎士だよ」

 

 バルドの顔から笑みが消えた。

 

 「騎士団の剣士は、戦場の雑兵とは違う。お前がこれまで戦ってきた連中とは、まるで次元が違うんだ」

 

 ハロルドは黙って聞いていた。

 

 「彼らは徹底的に鍛え上げられ、体系化された剣技を身につけている。真正面から戦っても、力も技も段違いだ」

 

 ハロルドは過去の戦場を思い出す。

 

 戦場では、主に同じような雑兵と斬り結んできた。もちろん腕の立つ兵士もいたが、基本的には数の勝負だった。

 

 だが、時折遭遇する——「格が違う剣士」たち。

 

 彼らは敵軍の中で異質な存在だった。まるで舞うように剣を振るい、雑兵たちを圧倒していた。

 

 「お前も見たことがあるだろう? そういう『本物の剣士』を」

 

 ハロルドは小さく頷いた。

 

 (俺は、あいつらのような剣士になれるのか……?)

 

 そう思った瞬間、バルドが木剣を肩に担ぎながら言った。

 

 「心配すんな。お前にはセンスがある」

 

 「センス……?」

 

 「ああ。お前は戦場で培った勘を持ってる。その上で、正しい剣技を覚えれば、どこまででも強くなれるさ」

 

 バルドは軽く剣を振るい、構えを取った。

 

 「さあ、もう一度だ。今度は、さっきの反省を活かしてこい」

 

 ハロルドは、ゆっくりと木剣を握り直した。

 

 (俺は……強くなりたい)

 

 「——いくぞ!」

 

 再び、二人の剣がぶつかり合った。


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