戦場
「……やはり、戦場は厳しいな」
ハロルドは泥と血にまみれた手を見つめ、低く呟いた。
王都での闘技場の試合に勝ち、次の戦場へ志願したハロルドは、ある小規模な戦闘に参加することとなった。戦場は東部の国境地帯。ゲルマニア王国とバジルス王国の小競り合いが絶えない場所だ。
ハロルドは**「剣技F」**を持っていたが、これは最低限のスキルであり、戦場では決して優位に立てるものではない。
(俺と同じような「無能力者」も戦場には大勢いる……だが、生き残れる者は少ない)
戦争に駆り出される兵士の多くは、農民や町人から徴兵された者たちだ。彼らのほとんどはスキルを持たず、ろくな訓練も受けずに最前線へ送り込まれる。
9割が無能力者——この現実は、戦場をより過酷なものにしていた。
剣技を持たぬ者たちは、まともに戦うことすらできず、次々と倒れていく。
敵の騎士や熟練兵の前では、スキルの有無が生死を分ける明確な要素となる。
「くそっ! また仲間がやられた!」
「前衛が崩れたぞ! 後退しろ!」
周囲の兵たちが混乱し始める。
バジルス王国の軍勢は、精鋭部隊を前線に送り込んできた。彼らの多くは「剣技E」や「槍技E」以上のスキルを持っており、戦場での経験も豊富だった。
一方、ハロルドの部隊は徴兵されたばかりの兵が多く、ほとんどが「無能力者」。
(……無理に戦えば全滅する。引くべきか……?)
だが、その判断をする暇もなく——
「来るぞ!」
バジルス軍の精鋭が突撃してきた。
ハロルドは剣を構え、歯を食いしばる。
「剣技F」——それは、戦場で生き残るための最低限の力。
敵兵が剣を振り下ろす——
ハロルドは、無意識に体を動かしていた。
(避けろ——!)
ギリギリで敵の一撃を回避し、逆に剣を突き出す。
刃が敵の喉元を貫いた。
戦場での経験がなければ、恐怖で動けなくなっていただろう。
しかし、ハロルドはすでに数多の戦場を潜り抜けてきた。
(「剣技F」でも、戦い方を知っていれば生き残れる)
問題は、このままの実力でどこまで持つか、だった。
——このままでは、いずれ死ぬ。
スキルを高める必要がある。
戦場におけるスキルアップの条件は、いくつかある。
1. 実戦での経験(戦いを重ねることで、成長する可能性がある)
2. 鍛錬と修行(熟練者から学ぶことでスキルが向上する)
3. 特殊な覚醒(極限状態で潜在能力が開花する場合もある)
だが、どれも簡単ではない。
(戦場で経験を積めば、いつか「剣技E」に上がれるのか……?)
ハロルドは、冷静に考える。
戦場に出るたび、死と隣り合わせだ。
(俺に時間はあるのか……?)
その疑問を抱えながらも、ハロルドは剣を握り直した。
「生き残るしかない」
この戦場を、生き抜くために——