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2ー1

 ルーナは思わず絶句してしまった。

 その中でもアルジェントは二人分の荷物を受け取ると、馬車はすぐに出発していってしまったのでした。


 屋敷の外観はどう見ても、アルジェントのような良い家柄の人が住んでいるような雰囲気を感じることが出来ません。

 廃墟のような外観をしており失礼を承知の上、ルーナはアルジェントに尋ねます。

 それは、屋敷の周りを囲んでいる塀にはツルが伸び放題、窓ガラスは割れておりクモの巣だらけで、草は生え放題だった。

 

 「本当にここですか?」

 「もちろん」


 アルジェントは、自信ありげにルーナに言ってくるではありませんか。


 「あ、忘れていたよ」


 そういうとアルジェントは、内ポケットからネックレスを取り出したのでした。

 (ネックレス?)

 ルーナは首をかしげ、アルジェントはネックレスについて説明します。


 「これはね、魔法が付与されたネックレスだよ」


 アルジェントは、ルーナに後ろを向くように言うとネックレスを着けてくれる。

 月の形をした青色に輝くネックレスです。


 「キレイ」

 「君の名前をイメージして作ってもらったんだ」


 私の名前であるルーナは『月』を意味します。


 「ありがとうございます」


 ネックレスから目を離し、再び屋敷を見るとさっきとは違いキレイな屋敷に変わっているではありませんか。

 (ど、どういうこと!)

 ルーナの目に見えた屋敷の周囲を緑色の何かが囲っているのが見える。


 「これが本当の屋敷の姿だよ。僕の魔法で他の人たちには、少し古びてみえるだけなんだよ」

 「そうなんですね。あのシャルル様、この屋敷を囲っている緑色はなんですか?」

 「ああ、それは結界だよ。さあ、そろそろ中に入ろう」


 シャルル様にとっては当たり前のことが、私にとっては当たり前でなく、呆気にとられてしまう。


 「そうですか……」 


 門が音を立てて開くと、屋敷まで続く道を歩き玄関を開ける。

 開くとそこには、一人の年老いた男性が立っていたのでした。


 「おかえりなさいませ、シャルル坊っちゃま」

 「ああ、戻ったよ。エドモンド、二人

 は?」

 「二人は、ただいま買い物に出掛けており留守にしております」

 「そうか」


 アルジェントは、その男性を近くに呼び寄せる。

 

 「まず彼のことを紹介するよ。彼は、執事のエドモンド。僕の身の回りをしてくれているんだ。あと二人メイドがいるのだけど、個別でルーナに挨拶するように言っておくよ」


 エドモンドと呼ばれた、男性にルーナはお辞儀をする。


 「エドモンド。こちらは、ルーナ」


 ルーナは、思わずエドモンドの姿をじっと見てしまう。


 歳を重ねているのに、背筋が伸びていて、黒色のタキシードに髪は白髪で片目には、小さな眼鏡をしている。

 気品が溢れていて、優しそうな雰囲気が伝わってくる。


 「初めましてルーナ様。お目にかかれて光栄でございます。執事のエドモンドでございます」


 ルーナも続いて挨拶をする。


 「ルーナと申します。よろしくお願いいたします。あ、あのエドモンド様とお呼びすればよろしいですか?」


 「いえ、エドモンドでよろしいでございますよ。ルーナ様」


 年上なのに呼び捨ては、出来ない。


 「では、エドモンドさんとお呼びしてもよろしいですか?」

 「承知いたしました。では、そのようにお呼びください」

 「はい。エドモンドさん」


 挨拶が終わると、アルジェント様とエドモンドさんが会話している。

 そんな中、ルーナは、まだ見ぬメイド二人のメイドのことを考えていた。

 (どんな人たちなんだろう?勝手にどんな人か想像を膨らませてしまう)


 玄関ホールを見ると、ホコリもなくキレイで汚れのない床や階段の手すりをみて圧倒させられてしまう。

 いつもメイドの方々がこまめに掃除されている証拠なのであろう。


 「ルーナ、二階に行こうか」


 エドモンドと別れ、アルジェントと共に階段を上りルーナの部屋になる部屋まで向かいます。


 歩きながらアルジェント様は、簡単に結界のことを教えてくれた。


 アルジェント様によると、この屋敷はアルジェント様の魔法で結界が作られていて、人間には、古びた屋敷に見えている。

 この結界を解除するアイテムを持っている人には、本来の屋敷の姿に見えていているのだという。

 結界を作っているのは、魔法使いということもあり、妙なものを寄せ付けないようにするためだという。


 「着いたよ。ここがルーナの部屋だよ」


 ルーナは、ゆっくりとドアを開く。

 一番最初に目に入ったのは、天蓋のついた大きなベッドだった。

 室内に入ると、横のテーブルにはランプが置かれている。

 ドレッサーや棚が備え付けられ、窓の近くには、木目調の丸いテーブルに一人用のソファが置かれていた。


 「どうかな?」


 息をすることさえも忘れてしまう。

 私のことを考えてアルジェント様が選んでくれた部屋なんだろうか。


 「素敵です。素敵すぎます。アルジェント様」

 「こんなに喜んでくれるなんて思っていなかったから嬉しいよ」

 「あの、ベッドに座ってもいいですか?」

 「もちろんだよ、ルーナの部屋なんだから」


 ルーナはベッドに座る。

 フカフカで埋もれてしまいそうになるほどであった。

 嬉しさのあまり何度も部屋を見渡すのでした。

 (ここが私の部屋なのか。夢みたい)

 あの屋根裏部屋の薄暗い部屋からこんなにも明るく立派な部屋が、私の部屋になるなんて思いもしなかった。


 「ルーナ疲れただろう。しっかり休んで」


 アルジェントは話し終えると、丸いテーブルにダークグリーンの紙袋を置いた。

 部屋を出ようとした瞬間、アルジェントがこちらを向いた。 


 「ルーナは、これからはアルジェントではなく、シャルルと呼んではくれないだろうか?」


 「え、あ、シャルル様?」

 「何で疑問系なんだ」

 「まだ、慣れていく、ぎこちなくなってしまいました」


 シャルルは、ルーナに微笑むと部屋を出ていった。

 (これからは、シャルル様って呼ぶのか)


 シャルルが出ていくと、丸いテーブルに置いてある紙袋から箱を取り出す。

 ムーン横丁で、シャルルが洋服屋で受け取っていたものである。

 箱を持ってみると、重さはあまりない。

 そっと蓋を開けると中には、空色のワンピースと花が散りばめられた髪飾り、ラベンダーの小瓶が入っていた。

 ここに入っているものは、ルーナが欲しいと思ったものだ。

 ラベンダーのいい香りがする。

 箱からワンピースを取り出し広げてみる。


 「素敵」


 (お出掛けしたときにでも着ていこう)



 まだ明るかったはずの空の色が、暗くなった頃、ドアをノックする音がした。


 「はい」


 ドアを開くと、一人の可愛らしい女性が立っていた。


 「初めましてルーナ様。このお屋敷でメイドをしております。リリーと申します」


 ルーナも慌てて挨拶する。


 「は、初めまして、ルーナと申します。これからよろしくお願いいたします」

 「よろしくお願いいたします」


 リリーは栗色の髪で、クリクリした瞳とぷっくりした頬で印象的な女性であった。

 優しいその見た目からか、リスに似ているとルーナは思った。


 「ルーナ様、夕食の準備が出来ました」

 「そうでしたか」

 「ルーナ様、参りましょうか」

 「はい」


 ルーナは扉を閉めると、食堂までリリーとともに歩いていく。


 「実は、もう一人メイドがおり、明日にでも紹介出来ればと思っております」

 「はい」


 やはりルーナは、もう一人のメイドの人も気になる。

 話をしているうちに、食堂に着く。


 「ルーナ様、こちらでございます」

 「ありがとうございます」


 リリーさんが、椅子を引いてくれて席に着いた。

 少し長めのテーブルに真ん中に花が飾っていて、フォークやナイフが並べられている。

 ほどなくしてシャルル様がやって来た。


 「お待たせ、ルーナ」


 シャルル様が椅子に座ると、料理が運ばれてきた。

 最初に前菜が運ばれてきて、チーズのようである。

 ルーナは、慎重な面持ちで一口食べた。

 (美味しい)


 「どうかな?口にあうかい?」

 「はい。美味しいです」

 「それはよかった」


 次々と料理が運ばれ、最後にデザートが運ばれきた。

 初めてみる食べ物で、形は三角に切られている。


 「シャルル様、これは何と言う名前の食べ物ですか?」

 「それはね、アップルパイで、果物のリンゴが使われているんだよ」

 「リンゴですか」


 一口食べてみる。


 「美味しい、美味しいです」


 美味しさのあまり大きな声を出してしまいました。


 「す、すみません。大きな声出してしまって」

 「アップルパイがお気に召したようだね」


 私が今まで食べたものの中で、一番好きな食べ物だった。


 「はい。とても」


 夕食を終えて、部屋に戻り、日記を記していく。

 『ようやくフルスに到着した。月の形のネックレスとワンピース、髪飾り、小瓶を頂いた。屋敷には、私の部屋があり、家具もこだわりが詰まっていた。執事のエドモンドさん、メイドのリリーさん、二人ともとても優しそうで、素敵な人たちだった。早くもう一人のメイドさんに会いたい』


 日記を書き終え、しばらくしてから温かいベッドに入る。

 こんなに温かく受け入れてくれるなんて思いもしなかった。

 受け入れられたと感じられた瞬間、本当に嬉しかった。

 そんなことを思い返していると、いつの間にかルーナは眠ってしまった。




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