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6ー1

 あのようなことがあったが、その後も変わらず平穏に過ごしていた。


 あの後、シャルルが書庫の部屋から出ていく。

 ルーナは、書庫に留まると、他の医学書を探してみるが、結局見つけることは出来なかった。


 このことは、忘れようと決めた。

 考えていると、あの時の冷やかで冷静な男性の声が思い起こされるからである。

 もしかしたら、あの声は夢の中の出来事かもしれないからである。


 シャルル様は、最近よく留守にすることが増えた。

 質問してみると、貴族の方々が、多数の契約を結んでくれたため、忙しいという。


 だからといって寂しいわけではない。

 皆さんがいてくれているし……。

 寂しくない……はずなのに。

 ……本当のことをいうと、とても寂しい。


 もちろん、仕事だから仕方がないということは分かっている。

 気を紛らわせようとする。


 他のことをしようと部屋を出る。

 すると、ちょうどリリーが前から歩いてくるのが見える。

 一度部屋に戻ると、あるものを手に取ると、再び廊下に出る。

 ルーナは、リリーに話しかける。


 「リリーさん」

 「ルーナ様、どうかなされましたか?」

 「リリーさんは、今は何をしていたんですか?」

 「廊下などの掃除を終えたところでございます」

 「そうなんですね。今、お時間大丈夫ですか?」

 「もちろんですよ」


 二人は、場所を移動し、長椅子に座った。

 若干前のめりになっていて、姿勢を正した。


 「リリーさんにお願いがあります。実は、リナーさんにリリーさんが、編み物が得意だとお聞きして、私にも教えていただけないかと……」

 「はい。編み物は出来ますが…」

 「これなのですが……」


 ルーナは、持っていた本をリリーに見せる。


 「一度、編んでみたのですが、上手くいかず悩んでいました」

 「そうだったのですね。私は、てっきり何か失敗してしまったのかと思ってしまいました」

 「いえ、私も前のめりすぎました」


 リリーは、ルーナから本を受け取る。

 ページの内容を確認すると、ルーナに説明する。


 「これなら、簡単に出来ると思いますよ」

 「そうですか!」


 ルーナの顔が明るくなっていく。 


 なぜルーナが編み物の本を持っているか。    エミリオの荷物の中にこの本が入っていたのだ。


 「編み物か……」


 ルーナは、少し残念そうに呟きました。



 ある日。

 気分を変えようと、廊下に置かれている長椅子に座っていた。

 その本を読んでいると、リナーがやってきた。


 リナーは、ルーナに挨拶をする。


 「ルーナ様。何を読んでいるのですか?」

 「編み物の本です」

 「編み物でございますか」

 「編み物が出来る人は器用だなぁと思っていました」 


 リナーに編み物の本を見せる。 


 「そうでしたか」


 ルーナの隣にリナーが座ります。


 「本以外の趣味も増やしてみるのも良いのかなと…」

 「良いの考えだと思いますよ」

 「リナーさん編み物をしたことがありますか?」

 「一度やったことがあります」

 「やったことがあるんですね」

 「ですが、私も上手く出来ずやめてしまいました」

 「そうですか」


 ルーナは、がっかりしてしまう。


 「リリーが、編み物が得意ですよ」

 「リリーさんが!」

 「私はもう辞めたので、編み物のセットをお譲りいたします」

 「本当ですか!」

 「ええ」


 そういうと、リナーは編み物セットを取りに戻ります。


 しばらくすると、リナーが戻ってくる。


 「こちらでございます」


 ルーナは、缶に入った編み物のセットを受け取る。


 編み物のセットを開けると、中には、かぎ針が数本と編み用の糸、ハサミが入っていました。


 「こんな立派なもの頂いて良いのですか?」

 「私は、上手く道具を使いこなせませんでした。道具も誰かに使ってもらった方が喜ぶと思います」

 「大切に使わせていただきますね」

 「はい」


 このような経緯があったのである。



 そして現在。

 二人は、談話室にいた。


 リリーは、自分専用の編み物セットから刺繍糸とかぎ針を用意する。

 本に載っているものからある花を選びます。


 「ルーナ様、まず一つ作ってみますね」


 リリーは作り始める。

 その手さばきは、まるで職人技でした。


 ルーナは、夢中でその姿を見ていました。

 何を作っているのだろうか。

 そう思いながら、工程をみる。


 リリーは、一つの花の作品をあっという間に完成させてしまいました。


 「出来ました」


 リリーは、完成した花の作品を見せます。


 一同やってみたときは、何度もやり直し、何時間も掛かり出来上がった。

 完成品を見ると、どこか不格好な形だった。


 しかし、リリーが、作った物はイラスト通りに編まれている。


 「キレイに編まれた見事なバラですね」

 「ありがとうございます」


 リリーは、恥ずかしそうに顔を明らめました。

 ルーナは、リリーにやり方を教えてもらいながら編み始める。


 「これは、このようにすれば良いのですか?」

 「これは、こうすればよいのですよ」

 「本当ですね。出来ました」


 楽しい雰囲気が、談話室を包んでいます。


 ふと、ルーナは談話室の時計を見る。

 すると、長い時間編み物をして、時間が経っていた。


 「リリーさん、時間が……」


 リリーも時計を見ると驚いた様子です。


 「本当だ。こんなに時間が経っていたなんて思いませんでした」

 「楽しくて、つい時間を忘れてしまいますね」

 「そうでございますね」

 「そろそろ、お開きにした方がいいですね」

 「そうですね」


 二人は、編み物セットを片付けていく。

 ルーナは、リリーにお礼を伝える。


 「また一緒にやってくださいますか」

 「もちろんでございます。私もまた一緒に出来ればと思っておりました」


 二人は、微笑み合い分かれた。


 「では」

 「はい。では」


 部屋に戻ると、机に編み物セットを広げる。


 ルーナは、リリーの作品をお手本にして作っていきます。

 やはり、イラストだけでは、理解できない糸の方向などの細かいところまで見ることが出来ます。


 本当に、リリーさんは何でも出来て尊敬する。


 さっき作った花の編み物が机に並んでいる。


 バラ、デージー、チューリップ、そしてラベンダーである。


 ラベンダーを手に取ると、あの花畑の風景を思い出す。



 ルーナは、いつしか自分とシャルルを繋げた思い出の花になっていた。

 忘れられない思い出の一ページである。


 引き出しからあるものを取り出す。

 ラベンダーの小瓶。


 それを机に置くと、編み物の続きをする。


 一人で作ったときに比べて、教えてもらっお陰か、少しは形が出来てきている。


 「でも、難しい。でも、楽しい」


 その日、ルーナは沢山の小物を作り続けました。




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