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(5)女王

 今日から王城でお母様と暮らすことになった。お母様の部屋の調度品は昔のままだった。私はお母様の部屋の隣だ。お母様に案内されると、そこには私によく似た子供の姿絵があった。


「誰?」

「気がついた?」

「この子は誰ですか?」

「あなたのお母さんよ」

「え???どうしてここにあるの?」

「そこに座りなさい。今から話してあげるわ」


 お母様はお母さんがどうしてヤメルダ王国で平民の暮らしをすることになったのか話してくれた。


「私は二女で継承順位4位、国王は二男で継承順位3位だったわ。あなたのお母さんは末っ子の三女で継承順位6位だったの。先代の国王が亡くなった頃から私たち兄弟姉妹は仲が悪くなったわ。

 あなたのお母さんの本名はマーガリータ・ガデットと言うのよ。次期国王の椅子を争って兄弟姉妹間で毒殺や暗殺など殺し合いが起きたわ。私はエウラリオと結婚したから早々に後継者争いから離脱したから関係なかったけどね。マーガリータも何度か毒殺されそうになったから私がウドリシナ国に留学させることにしたのよ。たぶんそんな争いが嫌になって偽名を使って平民の生活をしていたのね。


 継承順位3位のフリオが国王になったのはアナベルのおかげと言われているわ。彼女の親は伯爵で短期間だったけど金鉱が見つかり、その金と軍力でアナベルをフリオの婚約者にしたあたりから、兄たちが亡くなったわ。残ったのは私とマーガリータだけだったけど、私は子供が産めない体だったから結果的に生き残った。マーガリータは行方不明だったから、残ったフリオが国王になったのよ。今の宰相バルドメロはアナベルの側近だった者よ。私が疑っているのはバルベとナデージュの出自よ。アネットの存在がわかるまでは、たとえやつらの出自が偽であってもこの国のために尽くしてくれればいいと思っていた。でも、そうはならなかった。


 フリオはマーガリータとは母親が違うからマーガリータに会ったことがなかったのよ。マーガリータは別棟で育ったから、フリオがあなたの顔を見てもたぶん気づかなかったと思うわ」


 再び私にウドリシナ国に行くようにアナベル王妃の命令が下った。何事かと思えば、金鉱脈が尽きかけているからせめて国王一族を救出した私に餞別金を取り戻してこいというものだった。勝手に婚約を破棄したのは王妃だよ。完全に嫌がらせだわ。命令だから仕方なく行くことにしたが、お母様は心配してボリスを付けてくれた。ボリスは今でもガデット王国の将軍職も兼ねている。戦争が起これば将軍として出陣することなっている。今回は債権回収だから数名の護衛だけだったため執事としてのボリスと一緒だ。


 ウドリシナ国はガデット王国軍が駐留していたから平穏だった。宮廷魔法士筆頭となったため王城まですんなりと入れたと思っていたが、ボリス将軍がいたからと気づいたのは王城で指揮官がボリス将軍に最敬礼していたからだ。私が宮廷魔法士筆頭というのはまだ周知されていなかった。


 ユリウス第二王子はいなかったが、国王と王妃が私を迎えてくれた。私はナデージュと婚約していたミッチェル第一王子よりユリウス第二王子の方が好ましく思っている。自信なさげだけど小国だから大国にビクビクして暮らしていたからだろうか。でも私の知っている貴族の中では言葉遣は優しい。

 ウドリシナ国はヤメルダ王国に侵攻され、ガデット王国との戦場となったため国内は荒れていた。ヤメルダ王国軍が駐留しているから見た目は安定しているが、ナデージュとの婚姻が解消されたため近々ヤメルダ王国軍は引き上げることになっている。そうなれば金鉱脈も細々としてきて他に産業のないこの国は困窮するだろう。


 そんなときに餞別金を戻せというのは酷すぎる。なかなか言い出せずにいると、国王から先に『餞別金の返金を催促に来られたのではないですか』と言われてしまった。

「どうして分かったのですか。だって婚約破棄をしたのはアナベル王妃ですよ。普通は破棄した方が損害金を払うべきと思います」

「これまでも、毎月なにかの記念日と言って金塊を上納されるように言われてきました。私達にとってはガデット王国に守ってもらうのと、ヤメルダ王国に支配されるのとは、同じことなのです。きっと王妃のことですから、餞別金を戻せと言うと思いました。これまで王妃に上納した金塊は餞別金の100倍以上ですが、そう思って餞別金に手をつけていません。あなたには助けていただいた恩がありますからお返し致します」

「そんなことがあったと知りませんでした。すみません。私を派遣するなんて卑怯だと思ってます。本当にすみません」

「いいんですよ。それより、これから食事です。一緒にどうですか?」

「はい、いただきます」


 食事は豪勢ではないけれど、一般貴族よりいいものだった。

 私の目前にはお酒はまだ早いのでオレンジジュースが置いてあった。

 国王が乾杯の音頭をとった。

 さあ、飲もうと思ったら、ボリスが私のオレンジジュースを取り上げた。


 え!何?


 ボリスはオレンジジュースを水槽に入れた。毒の確認をするためだろうが、そんなことしなくても安全だよ。腹を割って話してくれたんだもの。


「アネットお嬢様、毒が入ってます。それにすでに包囲されてます」


 確かに水槽の魚は浮いている。


「どうして、私を殺そうとするのです?」

「すまない死んでくれ。そうしないと、ユリウスが殺される。アナベル王妃に人質に取られているんだ」


 私の胸中は複雑だった。ただボリスが逃げるように言ったので、転移魔法でボリスをつれて王城の外に出た。ガデット王国軍が待機していたが、ボリスはもう一度転移するようにせき立てた。転移した直後に矢が降ってきた。ここにいる軍は治安のための軍ではなく国王が私を殺すのを見届けるために配置されていたのだ。私たちが王城の外に転移したから国王が毒殺に失敗したことに気付き攻撃してきた。


 何度か転移を繰り返し、ボリス将軍の率いる精鋭軍100名が駐留している場所まできて、やっと落ち着くことができた。


 ボリス将軍は侯爵邸が狙われます。すぐに精鋭軍を率いて侯爵邸まで出発しますと告げた。だがすでに侯爵邸は国王軍に包囲されていた。ボリスはショックを受けている私の側に来て、

「心配しなくていいですよ。早鳩便で知らせておきましたから、奥様は事前に打ち合わせしていた場所にいるはずです」


 ボリス将軍は安全のため迂回(うかい)してお母様のいる場所に行くことにした。ボリス将軍の軍本隊は国境警備に駆り出されているため合流できていない。これも直前に王妃が命令したから最初からそのつもりだったのだろう。


「あら~来てくれたのね。もうここは蝙蝠(こうもり)が多いから(ふん)の匂いがきつくて、迎えに来てくれてよかったわ。侯爵家の者がこんな山中の洞窟にいると思わないだろうと考えたけど、確かにここは酷いところだわ。できれば早く出たいわ」


 王妃による反乱が現実のものとなったからもう戦うしかない。たぶんロズモンド伯爵とミーゲル伯爵も敵となるだろう。


 そう思っていたら、洞窟の奥から二人が出てきた。

「アネット様も来てくれたのね」

 ミーゲル伯爵が声を掛けてくれた。

 ロズモンド伯爵も

「宮廷魔法士の半数は別の入り口からここに向かっています」

 続いてミーゲル伯爵も答えた。

「騎士のほとんどは私と来ているから、もう少しで合流できます」


 ロズモンド伯爵が王城の現状を話してくれた。


「バルドメロ宰相と王妃アナベルが国王は乱心したと幽閉してましたが、たぶんもう殺害されていると思われます。王妃は国王を殺したのはダールベルク侯爵とそれに協力する者たちとして大規模な派兵をしてくるでしょう。ここもいずれ発見されてしまいます。ここはただの山なので守り切るのは難しいでしょうから、これから先制攻撃をするほうがいいと思います」


 ボリス将軍も同様のことを進言した。


 王妃の用意できた兵は5千人程度だが、こちらは全員で300人程だ。街道の監視もあるから王城の警備に当てることができる人数はせいぜい半分だ。


 ロズモンド伯爵とミーゲル伯爵と供に王城前で警備をしていた兵士2千人を見下ろす場所まで転移して私は雷魔法を放った。以前より威力の増した雷は王城警備の兵士を戦闘不能の状態にできた。たぶん感電死した者もいるはずだ。


 あとは城内の兵士だけだからこちらの兵でも十分に戦えた。王妃はまさか乗り込んでくるとは考えてなかったようだ。アナベル王妃は暢気(のんき)にバルドメロ宰相、バルベ、ナデージュとともに食事をしていた。すでに勝った気でいたようで王妃と宰相はほろ酔い状態だった。


 アナベル王妃は私とミーゲル伯爵とボリスが突然目前に現れて慌てていた。


「誰か侵入者を廃除しなさい!」


 ボリスが答えた。

「アナベル様、もう誰も来ません。王城警備の兵士は全員感電して動けません。他の兵士もここにくるまで時間がかかるでしょう。お覚悟を!」


「あなたたち、王族にこんなことをして、許されると思っているの!国家転覆罪で死刑よ!!」


「それは違うわよ。国家転覆罪はあなたよ!!」

 お母様が入ってきてアナベル王妃に大声で叫んだ。


「あら、あなた生きてたの?」

「残念ね。蝙蝠の糞まみれだけど生きてるわ」

「そう、それは残念だわ」

「もう、覚悟したほうがいいわよ」

「そうかしら。今からフリオが崩御したからバルベが次期国王と発表することにするわ。そうすれば、あなたたちは国王に対する謀反(むほん)で死罪ね。それにそろそろ私の兵がここに来るわよ。とてもあなたたちの兵力では対抗するのは無理ね。それにこの建物の中で一斉に雷魔法を使うことはできないから、どのみちアネットは死ぬことになるわ」

「それは絶対にないわ。バルベとナデージュは国王の承継はできないわよ。そもそもその二人はあなたの子であってもフリオの子ではないでしょ。そこにいるバルドメロの子よね。あなたたちの関係は伯爵のときから続いているわよね」

「な、なにを言ってるの!!」

「あなただって知ってるのでしょ。王族にだけ現れる紋章があることを」

「それなら、二人ともあるわよ。フリオは右手に、ナデージュは肩に、それぞれあるわ」

「そうね。確かにあるわ。でもそれはあなたが彫り師に彫らせたものよね。あなたは王族の紋章のことを知らないようね。その子たちの紋章は成長とともに薄くなるから、あなたは定期的に彫り師に色つけをさせていたようだけど、その度に隠蔽のために彫り師を殺したのが運の尽きね。おかげで真相が掴めたわ」


アナベル王妃が一瞬黙った。


「な、何を言ってるの!こ、これは本物です」


「そうね。今は彫り師に色つけさせて間がないから分からないようになってるわね」

「本物だから分からないのよ。馬鹿なことを言わないで」

「王族しか知らない秘密をあなたは知らないのよ。あなた浮気ばかりしてフリオと一緒にお風呂に入ったことないでしょ」

「ふん。私は一人で入るのがすきなのよ」

「違うでしょ。他の男と入るのが好きなのよね」

「あなただって、ぶよぶよ腹の年寄りより、若いピチビチした男のほうがいいでしょ」


「私達はこの紋章が嫌で嫌で仕方なかったからお風呂に入るときだけが普通の体になれたようで嬉しかったものよ」

「何を言ってるの?この期に及んで能書きを言ってるの?」

「見てなさい」


 お母様は左手にある紋章に水を垂らした。

 紋章が消えている。


「ふん、そんな嘘を信じると思って!」

「あら、だったら、フリオの死体を調べてみる?」

「ふふ、フリオの死体はもう焼いているはずよ。だからあなたの言ったことを証明する根拠は何もないのよ。それにあなたは女王になれないわよ。すでに王席を廃除されているからね」

「私は女王になるつもりなどさらさらないわ。あなたが危惧していたアネットがなるからね」

「その子?何を言ってるの?平民だった子よね」

「とぼけなくてもいいわよ。あなたも、もしかしたらと思ったからアネットを殺そうとしたのでしょ」

「知らないわ。そろそろ私に忠誠を誓う兵がくるわ。茶番ももう終わりにしない」

「そうね。もう終わりにしましょう。アネット、ここに来なさい」


 お母様が私を呼んだ。何の用かな?


「この子の(うなじ)にあるのは王家の紋章よ」


 お母様は私の髪を上げて王妃に見せた。


「どう、私と同じ紋章があるでしょ。それにこうして水を掛けると消えるでしょ。マーガリータの子だから当然ね。あなたに疑われる可能性があったから髪を染めたけど、本来マーガリータと同じ金髪よ。今唯一国王承継ができるのはアネットだけよ。言っておくのが遅れたけどフリオの死体は焼かれてないわよ。あなたに忠誠を誓ったと言った将軍たちが確認しているはずよ。全員があなたに従ってると思った?私の部下も配置していたのよ。ごめんねー」


 アナベル王妃は膝から崩れ落ちた。

 それから中立軍が王城に入り、お母様の指示に従い、アナベル王妃とバルドメロ宰相に縄を掛けた。中立軍の将軍たちは私の前で跪き忠誠を誓った。


 あれから1週間経った。私は国王の椅子に座っている。あれからアナベル王妃は重犯罪人が入る牢に幽閉されている。いずれ国王殺しで処刑されるようだ。バルベとナデージュは定期的に彫り師が色付けをしていたから自分たちが王族でないことに気づいていたようだ。この度の件は知らなかったようなので、二人とも教会送りとなった。私が女王である間は二度と世間に出ることはない。


 バルドメロ宰相はアナベル王妃と同じ日に処刑された。


 ウドリシナ国の国王は人質を取られていたとはいえ、私を毒殺しようとしたことは事実だから退位してもらった。第一王子のミッチェルが即位したからガデット王国女王としてお祝いをすることにした。


「じゃじゃ~ん。即位おめでとう」

「アネット女王様どうしてあなたが?」

 そう言ったのは第二王子のユリウスだ。

「ふふん、私は働く女王なのです。ロズモンド元帥とミーゲル侯爵が護衛してくれるから安全だし、国政は後見役のお母様とボリス宰相がやっているから当面私のすることはないのよ。私は金鉱脈を見たことがないのよ。見せてくれない?」

「いいけど、知っての通りもう鉱脈が細っているからそれほど参考にならないよ」

「いいの。確認したいことがあるの」


 金鉱脈に案内されて理解した。奥に行くにつれて石層がどんどん薄くなっている。


「このままではあと1年で採算が合わなくなる。ウドリシナ国には他に産業がないから将来のことを真剣に考えないといけないんだ」

「だったら新鉱を探せばいいのでは?」

「それもできないんだ。前王妃アナベルに採掘量の7割を上納していたから新鉱を探す余裕がなかった」

「この山のどこかにあるのでは?」

「可能性は十分にあるが掘削費用の捻出ができない」

「だったら私が表土を除去してあげるわよ」

「山一つだよ。無理だよ」


 採掘場の隣の山を何個かウインドカッターと爆撃魔法で廃除した。


「あったわ。ここ沢山光ってるわよ」

「これは。大発見だよ。今までの金鉱山より遥かに埋蔵量が多い。石層も十分だ」

「だったらこれでお金に困らないわね」

「ああ、十分だ。君が発見したから慣習により50%の採掘権はアネットにある。それに露天掘りできるから採掘費用も少なくて済む。すぐ契約しよう」



 金鉱山の発見もでき、第二王子ユリウスと会えて機嫌よくガデット王国に帰ったのに、一人の男がやってきた。


 私の専属護衛官となったミーゲル侯爵が、ヤメルダ王国の貴族がアナベル王妃に謁見に来たと知らせてくれた。ミーゲルは一代伯爵から私が侯爵に任命したから今はミーゲル侯爵だ。ダールベルク家が王家となってしまったから、これまでのダールベルク家をミーゲルに任せることにした。女性の味方は心強い。


 やってきた貴族はヘルゲ・ドレイヌだった。ヤメルダ王国の旧国王派だったドレイヌ男爵は戦争犯罪人として処刑されたらしい。ヘルゲはアナベルの発した『伯爵任命状』を持参していた。国王のサインまでしてあったから有効な契約だった。たとえ前国王のものであっても正規のものだから受けないわけにはいかない。そうしないと民主国のように首相が替わるたびに国際契約を反故にしていたら信用を失う。


 ボリス宰相が承認許可証に私のサインを求めてきたので、サインはしたが、ヘルゲは王城に止め置いた。


 ヘルゲを応接の間に案内してもらい、私は私服に着替えて『応接の間』に会いに行くことにした。

 ミーゲルはヘルゲの方を向いて『毛虫男』と呟いた。私に近づく男はミーゲルがことごとく廃除しているらしい。ヘルゲは喜色満面で待っていた。


「ご機嫌よう。久しぶりね。まだ損害金をもらってないわよ」

「お前がなぜここにいるんだ」

「あら、そんなこと言っていいの?あなたに、『伯爵任命状承認許可証』を届けに来たのよ」

「お前、ここで働いているのか?」

「そうね。働いているわ」

「しぶとい奴だ」

「これ、いるの?」

「そのために来たんだ。よこせ」

「いいわ。でも受け取ったら大変よ。このまま帰った方がいいわよ。これを受け取るまではヤメルダ王国の者として対処しないといけないから、国境まで送るわよ」

「馬鹿な。小国の落ちぶれ男爵より、大国ガデット王国の伯爵のほうがいいに決まっている。それを早くよこせ」

「一応、忠告はしたわよ」


 ミーゲルの顔が怒っている。どうなっても知らないわよ。


 ヘルゲが私から「伯爵任命状承認許可証』を取り上げると同時にミーゲルがヘルゲを羽交い締めにし、近衛兵に縛り上げるように命令した。


「この男をどうしましょうか。いますぐ処刑しますか?」

「いいえ。父と母を殺害した経緯を聞き出してください。関係者はドレイヌ男爵だけではないと思うわ。あまりにも手際が良すぎるもの」

「お前は何だ。俺は伯爵だぞ。ただの官吏程度が俺に縄をかけるなど無礼だぞ」


 ミーゲルがヘルゲにグーパンチをした。


「気絶してるよ。ミーゲルは手が早いんだから」

「女王様に失礼な口をきくからです」


 ヘルゲはこの国の貴族となったから、ガデット王国法で裁かれる。最終決定するのは私だ。


 ヘルゲを投獄してわかったことは、アナベル元王妃はヤメルダ王国国王弟と繋がっていたことだ。アナベルの言うことを王弟がドレイヌ伯爵に命令していた。現国王となった王弟も父を殺した犯人だった。


 これからヤメルダ王国をどうするか協議をしていると急報が入った。

「大変です。ヤメルダ王国軍がまたウドリシナ国に進軍しました」

「どうして?」

「なんでも新鉱山が発見されたので奪うためのようです」

「あそこは私の金山でもあるからガデット王国軍を駐留させてあるのよ。ガデット王国と戦争する気なの?」

「どうもアネット様が即位したことを知らないようです」

「前王妃に加担した者たちの処罰も終わっていないから大々的に発表していないけど、間者を放ってるでしょうから私が即位したことぐらい知ってるでしょ?」

「いいえ、ヤメルダ王国の新国王は経費削減を挙げて間者の数を著しく減少させてました。その浮いた分をハーレム作りのために若い女性を(はべ)らせているようです」

「さすが兄弟ね。前国王にも比肩するくらい(くそ)だわね。久しぶりにユリウスにも会いたいから私が行くから、ロズモンド元帥も暴れてよ」

「はは、いいのですか。私が行くと全軍を連れていくことになりますよ」

「そうね。元帥となってしまったから、今回だけ特別に大将に降格してあげるわ」

「そうですか。嬉しいですな」

「降格されて喜んでいるのはロズモンドぐらいね」

「では第八軍団を連れていきましょう。あそこは元王宮魔法士で構成されてますからな。私の直属の部下も多い」


 ヤメルダ王国侵攻軍との戦いは1日で終わった。ヤメルダ王国軍1万人に対してガデット王国軍は5万人で対処したことで、戦火を交えることなく降伏してきた。前国王に続き現国王も圧政をしたことで軍人も辟易(へきえき)していた。白旗を掲げ司令官が私に謁見(えっけん)を申し出てきた。

「アネット女王様お願いがあります。我が国をお救いください。国民はヤメルダ王国出身の女王様を歓迎します。私は最初から戦争をする気はありませんでした。命を()して女王様に窮状(きゅうじょう)を告げるつもりでしたが、直接出向いていただいたのでお訪ねしました」


 白旗を掲げた総大将は、父からヤメルダ王国で一人だけまともな人間がいると聞かされていたリシャール・ブラン辺境伯だった。彼は私に一度ヤメルダ王国を支配してほしいと懇願した。その上で私の好きなようにしていいというのだ。私は国が欲しいわけではない。大国ガデット王国でさえ持て余している。ヤメルダ王国の窮状を聞いてしまったら、あの頃の長屋の人たちのことも走馬灯のように浮かんできた。平民は食べる物もなくて餓死している者もいるらしい。平民がそんな状態では貧民街の者はとても生きていけない。私はリシャール・ブラン辺境伯に協力することにした。彼の軍と私の軍が合同で国王軍を囲み戦うことなく投降させた。リシャール・ブラン辺境伯はヤメルダ王国を改名し、父の偽名から取ってラインマー共国とした。初代大統領はリシャール・ブランとした。軍政下でなくなったら国民投票により大統領を選ぶらしい。現国王はラインマー共国の法律によって裁かれることになる。私の父母の殺害がなくても、十分に悪行を重ねていたから死刑となるだろう。

 国民は私の軍といっても他国の軍隊が入ったのに紙吹雪で迎えてくれた。沿道には沢山の人々が手を振ってくれた。

長屋の人たちもいた。横断幕を揚げて”アネット・エーゲル万歳”。私は嬉しくて一生懸命彼らに手を振った。ボリスに彼らが希望するならガデット王国に入れて欲しいとお願いした。


 私は、まだ国内が安定するまで結婚する気はないけど、一応ウドリシナ国第二王子ユリウスとはいい関係が続いている。彼はよい友達だ。金鉱山は思ったよりも埋蔵量が多くて、鉱脈は途中から二股に分かれ、どちらも当初見込みの数倍の含有量のある超優良鉱脈だった。これでウドリシナ国も復興できる。私はまた労せずして金鉱山を手に入れてしまった。溢れる金を国のためにどう使うかこれから私にかけられた宿題だ。


 私はまだ12歳だ。女王というしがらみもあるが、まだ先は長い。お父さんのように四畳半に住む者であっても結婚してくれる男性がいい。


 今日も新しくダークベルク家の空き地に作った長屋の一室にお邪魔している。以前報償金で長屋を造ったが、全部で100棟ある。それも私用の長屋だけ木造の四畳半で、残りは長屋とは言えない立派なつくりの住宅だった。イザベルお母様が貰えるものは何でも貰うといって、造った建物群だった。元々はダークベルク家の産業発展のために職人などを住まわす予定だったが、いろいろなことが起こりすぎてそのままになっていた。

そこに長屋の人達が入ることになった。彼らは手に職のある人達の集まりだったから、産業発展に寄与してくれる。一石二鳥だ。


「ふ~やっぱりお茶は豆茶に限るわね。それもお母さんとよく飲んでいたピーピー豆茶、カラスエンドウというらしいのだけど、どこにでも生える雑草だから貴族は飲まないのよね。あ~癒やされるわ」


この長屋に来ると昔食べていた物が食べられる。

ミーゲルも私の隣でほへ~としている。

二人で話すのは話題はいつも


「いい男いないですね~」





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