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(4)交戦

 ガデット王国軍は侵攻してからは怒濤(どとう)のごとくヤメルダ王国軍を()散らした。宮廷魔法士となった私も、もう一度ウドリシナ国に入り、ガデット王国軍の王城侵攻に合わせて国王一族を救い出した。それで今回の任務は終わるはずが、そのまま学校を休学して両国の紛争に参戦することになった。


 ミーゲル伯爵は女性だけど先頭に立ってヤメルダ王国軍をなぎ倒していた。私と言えば、広域重力魔法で敵兵の足止めをし、魔法弓で遠距離から倒した。そんなとき後方を警戒していなかったため、ヘルゲの率いる軍が私達の後方から攻めてきた。挟み撃ちになる形となり、私のいる軍は危機を迎えた。私は周囲の敵兵すべてに雷を落としてみた。怒濤のごとく流れ込んできたヤメルダ王国軍2千人は感電し、白目を()いて失神した。

 この一撃でヤメルダ王国軍は恐れをなし、後退した。それからはもう戦いにならなかった。あっというまに紛争が終結することになった。ヤメルダ王国は兵を引き上げたが、国運をかけた起死回生のウドリシナ国侵攻が失敗したことで国王派貴族は力を失い、弟派が実権を握ることになり、まもなく国王の弟が即位した。


 私は帰国したら第一等勲章を受けることになった。それに伴い宮廷魔法士筆頭となってしまった。学校では宮廷魔法士筆頭が敵軍を壊滅させたと(うわさ)になっていたが、それはロズモンド伯爵となっていた。おかげで平和な学校生活を送れる。


 久しぶりに侯爵邸に戻った。メイドが列になって迎えてくれるが未だに慣れない。どこかに四畳半の長屋を造ってほしい。愛があってご飯が食べられたら四畳半であっても幸せだ。ヤメルダ王国の国王のように広い城に住み、贅沢(ぜいたく)を尽くしても家族間に愛はないし、心を許せる者もいない生活を幸せとは思わない。


「お母様、ただいま戻りました」

「ご苦労様、大変だったわね。エウラリオもきっと喜んでいるわ。この国で第一等勲章はエウラリオしか貰っていないのよ。国王から何でも好きなものを贈呈するという目録がきてるわよ。どうする?」

「何でもいいのですか?」

「どうせ国庫から払うのだから、金貨1万枚でもいいわよ」

「お金は食べられるだけのものがあればいいです。それより四畳半の長屋を造っていただけますか?」

「それって何?」

「はい、私の住んでいた木造の長屋と同じものがあれば落ち着くので」

「それぐらい何百棟でも造ってもらえるわよ」

「1棟の1室でいいですよ。それに昔使っていた家具と同じものも揃えたいのです」

「人の口には戸を立てられないから、あなたが魔法を使ってヤメルダ王国軍を追い払ったことは広まっているわよ。婚姻の申込みもこんなに来てるのよ」


 お母様は、数十人分の釣書の束を置いた。


「どうする?この中にはバルベ王子の釣書と婚姻申込書もあるわよ」

「どれもいりません。特にバルベ王子の分は捨ててください。私はまだ学生です。それに貴族の方はちょっと苦手です。まだウドリシナ国の第二王子ユリウスの方が素直な分ましです」

「そうよね。あんな(くそ)王家にあなたを嫁がせるのは私の本意ではないわ」

「お母様、王家に何か恨みでもあるのですか?」

「兄も昔から好きではないけど、アナベルのあの生意気な子にあなたをやりたくないのよ!」

「えーー!お母様は王族だったのですか?」

「昔ね。エウラリオが窮屈な生活から私を救ってくれたのよ!」

「お父さんに?」

「そうよ」

「今日は昔のお父さんとのことを話してください」

「いいわよ。長くなるから、食事をしながら話しましょう」


 翌日、学校に戻ることになったが、馬車にはお母様が一緒に乗っている。どうもバルベ王子からの婚姻申込は罠らしい。バルベはまだウドリシナ国に留学しているから、そんな釣書を書く暇はないはずだ、という結論に達したようだ。

 いつもの時間より早く出たのは、直接学校には行かず、王城に行くためだった。

 王城に着くと、お母様は私の手を握り、そのまま国王のいる部屋に入った。


「お兄様、どういうことかしら。この釣書はお返しします。よりによって私の子に手を出さないでくださる?」

「なんだ!イザベル、部屋に入るなり儂に説教か?」

「私からこの子を奪わないでくださる」

「儂は止めたんだ。だが王妃のアナベルが今のうちに将来の大魔法使いを手元に置いとくように進言したんだ」

「兄様は昔からアナベルの操り人形ね」


 お母様がアナベル王妃のことをなじったとき、ドアが開いた。


「あら~誰が操っているというの?」

「アナベル!またあんたね。私の子に触手を伸ばして!」

「あなたの子ではないでしょ。エウラリオの子よね」

「それは屁理屈よ。あなた今度は何を企んでいるの?」

「今までも、これからも何かを企むようなことはしないわ」

「あの~、私遅刻するので、このへんで失礼します」


 あのまま、続けられたら、1日いがみ合いそうだ。


「アネット!今日から私もここに住むから、あなたも寮に戻らないでここで暮らしなさい。泥棒猫にあなたを盗られるから部屋は変えるからね。学校の許可はもらっているから、わかったら行っていいわよー」


 女の戦いが始まった。私は逃げるように貴族学校に行った。

 王城から近いからいいけど、転移魔法は使ってはいけないし、走るしかない。

 ぎりぎり間に合った。あと少しで門が閉まるところだった。

 教室に行くと女子がいない?

 男子に聞くと


「バルベ王子が留学から急遽最高学年に戻ってきたらしい。女子はその見学だ」


------------------------------------


 ◆アナベル王妃視点◆

 ウドリシナ国の金の採掘権のためにナデージュとミッチェル第一王子との婚姻を約束して後悔している。あの国の金鉱脈はほとんど掘り尽くしていた。それにバルベまで安全保障のために留学させてしまった。もうあの国に魅力はないから、あの国がどうなろうと構わないのだけど、二人の救出をしないといけない。エウラリオの子は転移魔法が使えると報告があった。立っている者は親でも使えというのが我が家の家訓だから、私の子でなければたとえ絶命しても私の腹は痛まない。


 救出のための手段は多いほうがいい。ヘルゲ・ドレイヌにも命令しているけど、あの男はどうも頭が悪そうだから全面的に信用できない。ヤメルダ王国国王の弟にもう一度催促しておこう。


 ヤメルダ王国がウドリシナ国に侵攻したことは、ある意味私にとっては好都合だったわ。アネットを王家に取り込むことにすることに決めた。ナデージュの婚約を取り消す理由ができたし、アネットの魔法がエウラリオより上だとわかったのだから。年齢が近いしアネットはバルベに嫁がせよう。


 朝からイザベルが邪魔をしに来たわ。学生のときから私の邪魔をするのよね。ほんとうに目障りな女だわ。あの女にだけは秘密を知られる訳にはいかないわ。ナデージュも私の元に置いとかない安心できない。


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 貴族学校では、女子生徒も戻ってきて授業が始まった。いつもの時間が戻ってきた。昼休みになると女子がまた騒ぎだした。


 バルベが私を訪ねてきた。女子生徒が騒がしい。


「やあー。アネットご機嫌よう」

「はあ?何の用です?」

「つれないなあ-」

「用事がないのなら帰ってもらえます?」

「釣書を見てもらえたかな?僕の華麗なる経歴の数々を」

「それって自分で努力して得たものではないでしょ。で、どのようなご用件ですか?」

「君にとっていい話だろ。僕に背負われた仲だし、将来僕と結婚できるんだよ。君のことは聞いたよ。最近まで平民街で暮らしていたらしいな。そんな身分の者が僕と結婚することで王族になれるんだぞ。いいだろう」

「あの~。私、あなたに興味ありません。釣書はお母様がアナベル王妃に返却されましたよ」

「なんだと。どういうことだ。なぜ僕の申し入れを断る。君にとってとてもいい話だろ?」

「いいえ。迷惑な話です。お帰りください。それに背負われたのは同意してのことではありませんし、私にとってはただの淫乱(いんらん)行為です。これから授業が始まります。邪魔です」


 バルベは怒っていた。たぶん、王子だからこれまで何をするにしても反対されてこなかったのだろう。でも私は最近まで平民だったから、強制されるのはほとほと嫌だ。ヘルゲ・ドレイヌ2号と話しても気分が悪くなるだけだ。それにまだ父と母の仇を討っていないのに結婚なんて考えられない。


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