居場所がないなら作ればいい
ニートのカレルは、水を飲みながらスマホをいじっていた。
退屈な一日が始まったとため息をつく。何もする気が起きない。
彼は自分の人生に絶望していた。何の夢も希望もなく、ただ時間を無駄に過ごしているだけだった。
商業施設のフードコートで暇つぶしをしていると、清掃のおばちゃんに声をかけられた。
「無職で恥ずかしくないのか!」と怒鳴るおばちゃん。
嫌味な目で見下すおばちゃんの視線が、針のように刺さって腹が立った。
おばちゃんは、異世界でやり直せると言って誘ってきた。
カレルはおばちゃんの言葉に驚いた。異世界でやり直せるなんて、本当なのだろうか。
それとも、おばちゃんは彼をからかっているのだろうか。
しかし、カレルは少しでも現実から逃げたいという気持ちがあった。
異世界なら、自分にも居場所があるかもしれないという期待が芽生えた。
異世界に行く条件は、人のために生きることだった。
それを怠れば、現実世界に戻される。
カレルは、人のために生きることができるかどうか不安だった。
彼は現実世界で人の役に立ったことがなかったからだ。
しかし、カレルは異世界で自分の役割を見つけて、幸せになりたいという願望が強かった。
彼は勇気を出して、おばちゃんに頼んだ。
「おばちゃん、頼む!異世界に連れてってくれ!」 おばちゃんは、カレルを異世界に送った。
目が覚めると、中世ヨーロッパ風の街の真ん中に立っていた。
ニートのカレルは、カレルという名前を名乗ることにした。
最初の街で、剣術を見せびらかそうとしたが、誰も興味を示さなかった。
今の時代は戦争もなく、剣術や魔法は古臭いものだった。 カレルは失望した。
彼は剣術や魔法が大好きだった。彼は異世界で自分の才能を発揮できると思っていた。
しかし、この世界では彼の得意なことが価値がないことだった。カレルは自分の役割を探すことにした。
異世界といったら冒険者ギルドのクエスト。
クエストを受けてみたが、カレルのような新米には土木作業や荷物配達ばかりの雑用ばかり。
街にうろつくゴブリンを剣で斬ろうとしたら、人々に止められた。
ゴブリンもモンスターも殺すと罪になるらしい。
彼らも国民で税金を払っているからだ。
カレルは呆れた。彼は正義感が強かった。彼はゴブリンやモンスターを倒して、街の人々を守りたかった。
しかし、この世界では彼の正義感が通用しないことに苛立ちを感じた。
街で悪党を探してみたが、治安が良すぎて見つからなかった。
パブで情報収集をしてみることにした。
話題になっているのは、北の山に住む精霊だった。
街の人々は精霊を恐れていた。
恐れられているということは、悪者だとカレルは思った。
精霊なら退治しても問題なさそうだから、北の山へ向かった。
山頂で出会ったのは、傷だらけの少女だった。 弱々しい少女に見えた。
精霊はどこだと聞くと、少女は魔法で襲ってきた。
魔法は凄まじい破壊力だったが、カレルは手で防いだ。
少女は驚きながらカレルを見て言った。
「くっ…私はここで人間に殺されるのか」
カレルは答えた。
「まあ精霊はこの世界では悪者だからな」
「この世界の人のために悪者を倒すのが俺の役目だ」
少女は眉をひそめて言った。
「魔力の強い精霊は人間に嫌われて、この世界に居場所がない」
カレルは現実世界で無職でニートで居場所がなかった自分と重ねてみた。
精霊を倒すことで、カレルは自分の役割を果たしたという満足感や、街の人々からの感謝や尊敬を得られるかもしれない。
しかし、実際には、精霊を倒すことで、カレルは自分の心に嘘をついていることに気づいてしまうかもしれない。
彼は本当は、精霊に同情していて、彼女と仲良くなりたいという気持ちがあるのだ。
同情と共感が芽生えるカレルは、剣をしまってつぶやいた。
「精霊も居場所を探してるのか…俺と同じだな」
カレルは精霊と出会った後、彼女の住む山の小屋に招かれた。
彼女は自分の名前をリリスと言った。
カレルは照れながら呟いた。
「素敵な名前だね」
彼女の名前は優しくて可憐で、カレルの心に響いた。
リリスは魔力の強い精霊だったが、人間に迫害されて傷ついていた。
カレルは傷だらけのリリスを見て辛そうに呟いた。
「どうしてこの世界ひとたちはリリスにひどいことするんだろう」
彼女の傷は深くて痛々しく、カレルの胸に痛みを感じさせた。
カレルはリリスの傷を手当てしてあげた。
リリスは笑顔で答えた。
「あなたってほんと優しいのね、ありがとう」
彼女の笑顔は明るくて美しく、カレルの顔にも笑みがこぼれた。
リリスはカレルに感謝した。
カレルはリリスに自分が異世界に来た理由や現実世界での悲惨な人生を話した。
リリスはカレルに同情した。
彼女は彼の話をじっと聞き、時々頷いたり励ましたりした。
カレルはいままで誰にも話せなかったことを聞いてくれたリリスに感謝の気持ちを伝えた。
「俺の話最後までちゃんと聞いてくれてありがとう」
彼は彼女の手を握り、目を見つめた。
そして、異世界について博識な彼女は色々と教えてくれた。
カレルは知識を生かすために商売を始めることにした。
現実世界では資本主義というルールで世の中がまわっていた。
カレルは決意表明した。
「お金を稼ぐことが人々のためになるはずだ!だから金儲けするぞ」
彼は自信満々に胸を張った。
カレルはリリスからお金を借りて、街でゴブリンを雇った。
ゴブリンは人間と違って精霊のリリスを迫害しなかったからだ。
ゴブリンは手先が器用で農作業が得意だった。
カレルはゴブリンたちと一緒に、リリスの小屋周辺で畑を作った。
カレルはゴブリンに笑顔で話しかけた。
「ゴブリンお仕事ご苦労様でした。助かったよとても感謝してる」
彼はゴブリンの頭をなでなでしたり、肩を叩いたりした。
ゴブリンは照れながら答えた。
「いやいやカレルは俺たちゴブリンを大切にしてくれる、だからがんばれる」
彼らはカレルに忠誠を誓った。
リリスは畑で採れた野菜や小麦を使って料理を作ってくれた。
野菜と怪しい調味料を鍋に入れて火にかけるだけだったが、現実世界とは違う独特な味がした。
カレルは嬉しそうに言った。
「俺は現実世界では毎日もやしとパンの耳ばっかり食ってたからな精霊の手料理食えて幸せだ」
彼はリリスの料理をほおばり、満足そうに舌なめずりした。
余った野菜や小麦などは、商売上手なリザードマンに頼んで街の商店で販売してもらった。
リザードマンも精霊のリリスを迫害することはなかった。
おかげで利益が出て、借りたお金も返せた。
カレルは大喜びで言った。
「この調子でみんなでどんどん頑張っていこうぜ」
彼はリザードマンとハイタッチした。
街の人間たちは精霊が住んでる山から来たリザードマンに冷たく当たったり罵ったりした。
なかには石を投げつける者もいた。
リザードマンの額に石がぶつかり血が出た。
しかしリザードマンは微動だにせずその場を後にした。
やがて、リリスの小屋周辺は畑やゴブリンの住居などが立ち並ぶようになった。
人々はそれを「リリス村」と呼び始めた。 カレルは鍛冶場を作ってドワーフを雇った。
ドワーフは剣や槍などの武器を生産するのが得意だった。
完成した武器は、やはりリザードマンの商店で販売してもらった。
戦争が絶えない国々からやってきた商人たちが高値で買ってくれた。
街の人間たちはリリス村から来た商品に対して不信感や不満を募らせていた。
街の人間たちはリリス村へ行く道を封鎖したり罠を仕掛けたりした。
リザードマンが罠にかかりそうになり少し怪我をした。
カレルは悲しい気持ちになった。
「どうしてこんなひどいことをするんだろう」
彼はリザードマンの傷口に布を当て、涙ぐんだ。
「リザードマンごめんよ」
リザードマンは言った。
「気にするな俺はカレルに感謝してるぜ結構稼げてるからな」
彼はカレルの肩に手を置き、笑顔で励ました。
「街の人間たちは俺たちモンスターを低賃金でこき使うからな」
街の人間たちはリリス村の存在を忌まわしく思っていた。
リリス村では武器が生産されていることは、街の人間にとって脅威でしかなかった。
街の人間たちはリリス村について噂話や悪口を言いふらした。
精霊リリスがいつか街を襲撃してくるのではないかという噂が広まった。
街の人間とリリス村との関係は悪化していった。
街の人間たちは自分たちが正しいと信じており、リリス村への理解や寛容さが欠けていた。
カレルは言った。
「ぼくはリリス村のみんなを守りたい!でも街の人たちを傷つけることもできない」と悩んだ。
彼は平和な解決策を探そうとしたが、なかなか見つからなかった。
ある日、街の人間たちがリリス村に攻め込んできた。
彼らは剣や槍や弓矢で武装しており、殺意をむき出しにしていた。
リリス村の住民たちは驚きと恐怖に震えた。
カレルは怒りと悲しみに満ちた。
「どうしてこんなことをするんだ!」 彼は剣を抜き、仲間たちに声をかけた。
「みんな戦おう!自分たちの居場所を守ろう!」 彼らはカレルに従って、敵に立ち向かった。
戦闘は激しく続いた。
街の人間たちは数で優勢だったが、リリス村の住民たちは団結して戦った。
カレルは剣術の腕を発揮して、敵を次々と倒した。 リザードマンは弓矢で遠距離から援護した。
ゴブリンは農具や石で近接戦闘した。 ドワーフは鍛冶場で作った武器を使って戦った。
しかし、敵も強かった。 街の人間たちは訓練された兵士や傭兵だった。
彼らは戦闘経験や戦略に長けていた。 彼らはリリス村の住民たちを圧倒し始めた。
カレルは仲間たちが次々と倒れていくのを見て、絶望した。
「もうダメだ…」 彼は涙を流しながら、最後の抵抗を試みた。
その時、空から光が降り注いだ。
それは精霊リリスの魔法だった。
リリスは小屋から飛び出して、空中に浮かんだ。
彼女は手を広げて、大声で叫んだ。
「やめて!もうやめて!この戦いに意味なんてない!」 彼女の声は悲痛で切なく、全員の耳に届いた。
リリスは魔力を解放した。
それは強大で美しい光だった。
その光は敵味方を問わず、全ての人間やモンスターに触れた。
その光は彼らの心に働きかけた。
彼らは自分たちが何をしているのか、何のために戦っているのか、考え始めた。
彼らは自分たちの行動に疑問や後悔を感じ始めた。 彼らは自分たちの敵に対して、理解や同情を感じ始めた。
戦闘は止まった。 街の人間たちは剣や槍や弓矢を捨てた。
リリス村の住民たちは傷ついた仲間たちを助けた。 カレルはリリスを見上げた。
「リリス…ありがとう」 彼は感謝と敬愛と愛情を込めて、彼女に微笑んだ。