9.解放されても問題ないよね?
「もうちょっと包括的に要求したら良いんじゃない?自分の他の要求も通るように。今までの苦労と比べて、浮気をしないだけなんて限定過ぎるでしょ?」
「それはそうですね。……包括的。何かあるでしょうか……」
葵南ちゃんは考え込む。明里ちゃんもその隣で一緒に考えていた。途中で色々と意見を交わしてるね。
そうして決まった要求が、
「神道家に縛られずに生きる。……それで良いんだね?」
「……はい。それ以上は思いつきそうにないので」
「じゃあ、早速神道家に電話をかけるよ?大丈夫?」
「っ!……はい!頑張ります!」
葵南ちゃんの目に光がともる。来たときとは違って、覚悟の決まった良い目をしてるよ。やっぱりヒロインはこうじゃないとね。いつも主人公に頼ってばかりで自信が無いままのヒロインなんて人気は出ないよ!
「あっ。もしもし?うん。そうだよ。ちょっと用事があってね……」
僕は電話をかける。向こうはワンコールもしないうちに出たよ。もしかしたら、何かの術でも使って急いで出たのかもしれないね。それができるって考えると、やっぱり資料に書いてあった術を僕も練習しておいた方が良いかもね。いざというときに切り札が何もないのはマズいから。
僕にはお金も人脈もあるけど、個人の暴力は持ってないんだよねぇ。困ったときには護衛頼みだし。
と今は僕のことを考えてる場合じゃないね。葵南ちゃんに伝えてあげないと。
「落ち合う場所と時間が決まったよ。移動するから準備して」
「え?ここじゃないんですか?」
葵南ちゃんは意外そうな顔をしている。確かにここで話をするのは便利だよ。移動しなくて済むからね。
でも、
「プライベートな空間にまで仕事を持ち込みたくないんだけど?」
「あっ。……そうですよね。すみません」
それに、葵南ちゃんが座ってるソファーも僕と明里ちゃんが何回か絡みあって汚してるヤツだからね。それを他の人に座らせるのはちょっとどうかと思うんだよね。……あっ。葵南ちゃんをここに座らせたのは突然押しかけてきた迷惑な客だからだよ。汚かろうと何だろうと勝手に来たのが悪いんだよ。
「分かったら準備急いで。僕は車呼ぶから」
「あっ。はい」
葵南ちゃんは急いで準備を。とは言っても、ここに何か沢山持ってきたというわけでもないから準備は一瞬だね。僕は車を出してくれるところに連絡して、すぐに来るように言っておく。
それから後は、
「明里ちゃんはどうする?一緒についてくる?それとも家にいておく?」
「私は家に……」
明里ちゃんは家にいておくと言おうとして、隣からの視線に苦笑いする。葵南ちゃんが縋り付くように潤んだ目で見てるね。
「わ、私も一緒に行こうかな」
「やったぁ!!!ありがとう明里!心強いよ!」
「う、うん」
明里ちゃんは苦笑している。でも、どこか暗い雰囲気だね。まだ向こうとの関係が改善されたわけでもないから、あまり居心地は良くないだろうなぁ。
とか考えてると車が到着したので、3人で乗って出発!集まる場所は、ちょっと豪華なホテルの会場だよ。行ってみると、
「あっ。小川様。お待ちしておりました」
「やっほぉ。数日ぶり!」
すでに向こうは揃っていた。おそらく術とかを全力で使ってこっちに来たんだろうね。何人かまだ額に汗がにじんでるし。それを見ると、全く疲れた様子を見せない当主のおばあさんとか含めた数人は優秀なのが分かるね。
さて、集まったから早速話し合いが始まる。僕はあんまり関わっても面倒だから、葵南ちゃんと向こう側に話は丸投げしてるよ。あくまでも機会を設けたという体にしておきたいし。
で、その話し合いなんだけど、
「そんなの認められるわけがないだろ!」
「な、なんでですか!何でも願いを1つ叶えると言ったのはそちらですよ!ここに来て嘘だとでも言うつもりですか!」
「嘘ではない!だが、常識的に考えて分かるだろう!」
「っ!じょ、常識なんて言われても……」
簡単にはまとまらない。向こうの圧に押されて葵南ちゃんは縮こまっちゃってるね。あぁ~。怖い怖い。
葵南ちゃんは神道家からの解放をもとめてるわけだけど、向こうはそれを是としない。当然ではあるよね。向こうにとって葵南ちゃんは大事な主人公の相手なんだから。手放したら多大な損失になるよ。
……でも、少しだけ葵南ちゃんに協力してあげようか。
「常識、ねぇ」
「っ!?……お、小川様。何か問題がございますでしょうか?」
僕の呟きは小さかったけど、向こうは過剰に反応してくれる。こっちの機嫌を損ねるわけにはいかないからね。だからこそ、あまり大したことを言わなくても向こうは勝手に萎縮しくれるんだよ。
「いや。問題とは言わないよ。ただ、契約外のことを後から騒ぐというのは組織としてどうかと思って。信用性をもう1度赤城と話し合わなきゃなと思っただけ」
「っ!そ、それは!?……お待ちください!これは神道家内の問題でして」
「内部に問題があるの?機密にしてるところが多いんだから、内部の問題は全て解決しないとダメだと話し合ったはずだよね?この間、全て解決したって報告されたばかりなんだけど?」
「うっ!」
向こうは言葉に詰まる。
でも、これはこちらとしても当たり前の言い分なんだよね。契約内容に書かれていないところを常識だからとか言って強要してくるのは割と違法なところだよ。ブラックな会社に多いイメージがあるね。そして、株主というか出資してるところの株主という微妙な立位置の僕は、そんな所にお金は行って欲しくない。利益さえ出せればみたいな考え方の株主なら違うかもしれないけど、僕は長期的な利益が1番だと思ってるから。ブラックな会社は長期的な利益ってなかなか出すのが大変だからね。
それに、向こうはすでに数日前に全て問題は解決したと言ってきている。その状態で内部問題がありましたなんて言うのは、チェック体制の問題か虚偽申告の可能性を考える必要が出てくる。信用性がここでも欠けるところだね。
「おばあさま。もう1度要求します」
そんな僕からの圧に押されて向こうが怯んでるところで、葵南ちゃんが仕掛ける。良いね。虎の威を借る狐みたいな感じになってるよ。嫌がる人もいるかもしれないけど、僕はそういうの嫌いじゃないよ。
「私を神道家から、解放してください」
「…………はぁ。分かったよ」
「本当ですか!?」
向こうの返答に、葵南ちゃんは顔を輝かせる。要求が通ったんだからね。僕としても手伝った甲斐があったかな。
ただ、これだけでおらなさそうな気はするけど。
「ただし解放には条件があるよ。まず、もう1つの約束だった一生の贅沢な暮らしはなしだよ」
「なっ!?」
「それが嫌ならこの話はなしだ」
「うっ」
葵南ちゃんは言葉に詰まる。これはこれでひどい話し合いだから、赤城に報告かな?
神道家は学習してないのかな?そんなバカな交渉をしたら逆に自分たちの首を絞めることになるって。
「まあ、その代わりにいつでも戻ってきていいということにはしておいてあげるよ。勿論豪華な暮らしはなしだけどねぇ」
「……分かりました」
葵南ちゃんは頷く。まあ、ここで拒否した神道家からの解放の話はなしだって言われてるからね。こうする以外の選択肢がないでしょ。
「それじゃあ交渉は終わりだよ。……小川様。機会を作って頂きありがとうございました」
向こうの代表者が揃って頭を下げてくる。僕には見慣れた光景だけど、明里ちゃんも葵南ちゃんもちょっとびびってるね。
「いや。気にしないで。こっちもそちら内部事情と契約に関する情報は貰えたから。次の審査で活用させて貰うよ」
「「「っ!」」」
向こうの顔が一様に青くなる。今回の話し合いで自分たちがかなり悪い方面の印象を残したのは分かってるんだろうね。
「お、お手柔らかにお願いします」
「それは今後のそちら次第かな。……それじゃあ僕は行くね。バイバイ」
僕は背を向け、部屋を出て行く。明里ちゃんも黙って後ろに付いてきたね。
そこからさらに、
「なんで付いてきたの?葵南ちゃん」
「え、えぇと。神道家から解放されたのは良いんですけど、止まることがなくてですね。泊めて頂けないかなぁと」
「……はぁ」
僕は頭を抑えながらため息を。そこ考えてなかったのかぁ~。
葵南ちゃんの考えが足りてないところに苦笑しつつも、車に乗って家に帰る。そこから、
「それでは、葵南ちゃんが家に泊まるための条件とか色々話し合おうか」