8.勝ちヒロインでも問題ないよね?
この辺りから短いバージョンの続きになる、新しい話です
「はぁ~い」
明里ちゃんが返事をして立ち上がる。僕は癒しが離れてしまって寂しいよ。
なんて爛れたことを考えていたんだけど、明里ちゃんの方では、
『お願い!私もここで保護して!!』
「え?葵南!?」
何やら明里ちゃんの知り合いが来たみたいで驚いてるね。名前にも聞き覚えがあるし、ゲームのヒロインだろうなぁ。……またヒロインを拾うことになるのかなぁ~。次は面倒ごとじゃないと良いんだけど。
……まあ、保護なんて言葉が出てきた時点で望み薄だろうなぁ。
「あ、あのぉ。目覚君」
明里ちゃんは困った顔をしながら僕に声をかけてくる。気持ちは分かるよ。明里ちゃんは居候の身な訳だし、勝手に知り合いを上げるわけにも行かないよね。
「うん?その子、知り合いかな?」
「うん。神道家の子だよ」
「ふぅん。……まあ、入れても良いよ」
僕は許可しておく。さてさて、どんな厄介事かな?
明里ちゃんが玄関の扉を開けて中に入れたのは、やはり1人の女の子。ゲームで見た顔とは比べものにならないくらい疲れ切ってるね。ソファーに座らせて、とりあえず自己紹介。
「初めまして。私、神道葵南と申します。先日は私の祖母や叔父がご迷惑をおかけして大変申し訳ありませんでした」
「いやいや。葵南ちゃんは謝らなくて良いよ。責任は本人達にとってもらうから。……それで?ここに来た理由は?」
僕が尋ねると、葵南ちゃんは早速騙り始める。ただ、内容はゲームの葵南ちゃんルートのシナリオだから割愛させてもらうね。
簡単にまとめると、
・才能溢れる男の子(主人公)を神道家が拾う。
・主人公の子供を残す相手として明里ちゃんや葵南ちゃんを含めた女の子が集められる。ただし、子供を残す相手になれるのは1人だけ。
・それぞれ競い合わせるために、勝ち残った者は願いを1つ叶え、その後は贅沢な暮らしができることを神道家は約束。
・葵南ちゃんは集められた中で1番才能が無かったため、色仕掛けに専念し、見事に主人公から選ばれる。
というのが今までの流れだね。そしてここからがシナリオ後、つまりゲームのエンディング後の話。
・主人公のことを好きというわけでもないので、葵南ちゃんはセクハラされる毎日に飽き飽き。
・そんなときに主人公が葵南ちゃん以外の女子へ告白している現場を目撃。
・浮気を神道家へ報告するが、多少主人公が怒られただけで状況に変化なし。それどころか、もう少し寛容になれと葵南ちゃんが叱られる。
・そうしてストレスが溜まる中、僕たちの起こした事案を聞く。
・そして、僕に助けを求めてここへ。
って感じだった。
ようは、浮気されたけど実家は解決してくれないから、実家より強い力のある僕に泣き付いてきたって感じだね。
「で?どうして欲しいわけ?」
とりあえず話は分かったけど、僕は結局どうして欲しいのかというところまでは分からない。そこで具体的な内容を尋ねてみた。
「そ、そのぉ。明里ちゃんから体を捧げて借金もすれば泊めて貰えると聞きまして。私も泊めて頂けないかなぁと」
「ふぅん?」
確かに明里ちゃんはその条件で泊めてる。ただ、神道家から助けた分でかなり貸しは多くなったから、それ以上求めるつもりでもあるし、向こうもそれ以上のことをするつもりみたいだけど。
ならば同じ条件でこの葵南ちゃんを泊めるのかって話なんだけど、
「僕は学生の間はそれでいいって条件を出してるんだよ。学生じゃなくなった後葵南ちゃんはどうするの?どうするのっていうのは、僕の家から出た後にその男の子と結婚する事になるんじゃないかって話ね」
僕には葵南ちゃんがどうして欲しいのか分からない。なんだか、とりあえず僕に頼めば全部解決するんじゃないかみたいな浅い考えが透けて見えるんだよね。
「え、えぇと。それはその……」
葵南ちゃんは言いよどむ。やっぱり大して深く考えてなかったみたいだね。
僕は飽きれながら、
「今逃げられても後で結局戻ることになるでしょ?しかも、ここで逃げたって言うことになってると立場は悪くなるんじゃない?それでも、ここで過ごしたいと思うわけ?」
「うっ!……すみません」
謝られる。とりあえず何も思いつかないから謝るヤツだね。会社とかだと上司は、「謝ったって意味ないんだよ。私は説明してと言ってるでしょ?」とか言ってくるよ。同僚からは哀れむ目で見られるけど結局助けては貰えないアレだね。
「……もう1回家に帰って考えてきたら?どうしてもって言うならこっちも考えるけどさ」
僕は葵南ちゃんを1回帰らせようとする。
でも、
「ま、待って下さい!私勝手に抜け出してきたので、ここで返されたら外出禁止になっちゃいます!!」
「……何をやってるの?」
慌てて言う葵南ちゃんに、僕はあきれることしかできない。勝手に抜け出してきたのはマズいでしょ。せめて外出しますくらい言えば良いのに。
「行く場所をはっきり言わないと外出させてくれない、とかなの?」
「え?あ、いえ。外出しますって言えばそれでいいです……で、でも!監視の人とか付くかもしれないじゃないですか!だから、連れて帰られたくないなと…………」
最後のほうは尻すぼみになっていく葵南ちゃん。
この感じを見る限り。葵南ちゃんってかなりダメダメだね。考えが足りていないというか何というか。これで主人公に選ばれたんだから、相当頑張ったんだろうね。いや、アホ可愛いとか言うのを主人公君も感じたのかな?
「話を聞く限り、神道家も男の子もかなりひどいとは思うよ。ただ、葵南ちゃんもかなり軽率すぎない?」
「うっ。……おっしゃるとおりです」
縮こまって下を向く葵南ちゃん。まるで怒られてるみたいだね。べつに僕は怒ったりはしてないんだけど。僕にほとんど関係ないことだから、怒る必要も無いよね。この子達がどうなろうと、僕はどうでも良いんだけど。
「とりあえずしばらくしたら神道家に電話だけしておくよ。今回の罰は軽くすることと、ちゃんと話し合うように、って」
「えっ!?で、でも」
「僕としても、関係ない家のゴタゴタに巻き込まれたくはないんだよね。本当なら今すぐにでも連れて帰るように連絡しても良いんだよ」
「……す、すみません」
葵南ちゃんはシュンと肩を落とす。そして、ここで動く人物が。
それは、
「一緒に考えよう。葵南」
「あ、明里。……でも」
「大丈夫だよ。目覚君と話して、色々見えてきたものも有るでしょ?もう1回落ち着いて、何ができるか考えてみよ?」
「う、うん」
明里ちゃんだ。僕は色々と厳しい意見を言った立場だから、僕よりこういう優しい対応は明里ちゃんの方が適任。飴と鞭みたいな感じかな?僕が鞭で明里ちゃんが飴で。
そして明里ちゃんが間に入ってくれたお陰で、僕も会話に参加しやすい。もうちょっと様子を見て、どうしても2人には限界な様子なら話に参加しよう。
「まずは、1番嫌なのは何なの?」
「今1番嫌なのは……浮気を家が許してること、かな。勿論浮気されるのも嫌だし、好きじゃない子にベタベタされるのも嫌だけど」
「なるほど。じゃあ、神道家の意見が変わるようにしたいんだね?」
「うん」
2人の会話が進む。神道家を変えるというのは、なかなか大変な目標だね。そう簡単にできることではないよ。
だから、
「神道家かぁ。目覚君なら簡単に変えられるけど、私たちじゃなぁ~」
「私なんて下っ端も下っ端だし、発言力は0だからね」
「「……うぅん」」
2人は考え込む。思いつくわけないよね。
ここは僕が少し助言してあげよう。
「葵南ちゃんはさぁ。何でも願いが叶えられるって言う権利は使ったの?」
何でも長いが叶えられる権利。主人公の相手に選ばれたら得られる権利だね。
「え?使ってないけど?」
「じゃあ、それ使えば良いんじゃない?」
「「……おぉ!」」
2人の表情が変わる。盲点だったとでもいう顔だね。でも、ここで考えるのをやめてはいけない。ちゃんと詳しく打ち合わせないと。
「使うのは良いけど、具体的にどうやって要求するつもり?」
「浮気をしないように、とかでしょうか?」
やっぱり確認しておいて良かったね。それじゃ駄目に決まってるよ。
「それだけで良いの?本当にもとめてるのは、浮気をなくすことだけなの?」
「え?いや、でも……」
葵南ちゃんは言いよどむ。本当は浮気の禁止以外にも求めたいことはあるけど、どういう風に要求したら良いか分からないとかだろうね。




