16.裏切りなんてフリだけど問題無いよね?
「向こうの動きはどう?」
「小川様の捜索にかなり力を入れているようです」
家を移ってから数日。
今日は護衛の人から報告を受けていた。僕は自然溢れる山の中に引きこもっていたんだけど、外の社会は色々と変化しているらしい。
僕も大きな社会の歯車として動くためにも、きちんと情報は集めておかないとね。夏休みが終わる前には元の家に帰りたいって言う気持ちも勿論あるし。
「損失は?」
「この程度になります。こちらにもヘリの破壊の件と小川様の護衛の件を含めて色々な提案が来ておりますので、上手くすれば搾り取れるかと」
「……ふむ。なるほど」
向こうの企業も随分と苦労しているみたい。かなりの額を使って僕を捜索してるみたいだからね。しかも、僕の家への突入なんかに関しては数億円使ったのに成功させられてないし。
防衛側が有利っていうのは当たり前の話だよね。もしあそこの守りが突破できたとしても、僕たちはいないんだから泣きたくなるだろうけど。
「しばらくは絞らなくて良いかな。あえて取引を長引かせるんだよ」
「分かりました。こちらからではなく、向こうから高い金額を示させるのですね?」
「うん。だいたいその通り。それに加えて、ヘリに関しては向こうに新しい物を用意させても良いんじゃないかな?」
「新しい物を、ですか?」
「そう。できるだけ出す期限を短くする形にして」
「……分かりました」
落とされたヘリ。あれでもかなり高性能な物で、買おうと思えばとてつもない金額になる。
その損失をお金で払わせても良いんだけど、それよりもお前たちが新しいのを用意しろよといった方が良い。勿論向こうも大企業だから時間さえあれば問題無く用意できると思う。
ただ、
「期限が短ければ、自分たちが所有していた物を差し出さなければならなくなる……かもしれない」
「そして新しい物を購入して用意してくる場合には、他企業との繋がりを知れる」
向こうのヘリを奪えるというのは非常に大きい。ある意味向こうが逃げる手段を1つ減らせるってことだからね。
そして、購入できた場合は向こうの企業と繋がってる他の企業を知れる。敵の味方が分かれば、警戒すべきところが分かるからね。
「……とりあえず引き延ばすように伝えましたが、すでにこの額の提示があったそうです」
護衛の人はもうこの話を味方に伝えていたみたい。
その味方と向こうの企業が交渉したみたいなんだけど、すでにこの時点でかなりの額が示されてるんだって。
「これは、時間を稼げば更にひどい事になるんじゃない?」
「そうですね。恐らく向こうは一気に片をつけたくてこの額を示したのでしょう。……この額で動かないとなれば、相当焦りと困惑を募らせるはずですね」
護衛さんはそう言って、ニヤリと笑う。僕もそれに合わせて笑う。こういう笑みを他の人と一緒に浮かべると、悪巧みしてる感じがあって楽しいね。絶対にこのイタズラ(というには極悪すぎる何か)を成功させて、僕を襲ったことを後悔させてやるんだから!!
「あと、お願いがあって」
「はい」
「こことこことここをお願いしたいんだけど」
「ふむ……具体的にはどのように?」
「向こうのが来たら適当には期しつつ、ちょっと電波妨害を入れる形で。……使う電波はこれでいいと思う」
「了解しました」
作戦の手始めに監視の間引きと電波の妨害をしてもらうことに。
特に向こうの企業の諸々を狙い撃ちにすれば、そこに何かあるんじゃないかって勝手に勘違いしてくれると思うんだよね。その勘違いを3カ所で犯させれば、間抜けにそこを制圧しようと頑張ってお金と労力をムダにしてくれると思う。
いやぁ~。罠にはまっているんじゃないかって疑心暗鬼になりつつも、それでも進まないといけない向こうの企業の絶望した顔が目に浮かぶなぁ(外道)
プルルウルルルッ!
「ん?電話だ」
「出た方が良いのでは?」
向こうの企業が泣き叫ぶところを想像してたら、僕のスマホに連絡が。電話の主は知り合いの武装組織的な何かのトップだったんだけど、
「もしもし?」
『あぁ。もしもし。早速で悪いが、目覚様に1つ報告をしておく』
「ん?どしたの?」
『例の海外支部にやらせていた作業が成功したらしい。大量の個人情報が獲得できた上に、一時的ではあるが全サービスを機能停止にさせたそうだ』
「へぇ!!海外支部もよくやるねぇ~」
この組織には海外支部がある。だから、ちょっとそこに僕が個人的な依頼を出してたの。勿論今回のことに関わる依頼ではあるんだけどさ。
で、その依頼していたことが無事に成功したみたい。
何を頼んだのかって言えば、向こうの企業から個人情報を盗み出すことと、企業のシステムを停止させること。
要するに、
「ハッキングは上手くいったんだね」
『ああ。防衛システムも貧弱だったそうだ』
「そっかぁ……このシステムを復旧させて欲しくばとかいって、ふっかけて、沢山ふんだくってね」
『当然だ』




