19.6人でも問題ないよね?
「あのぉ。小川様」
「ん?何?」
神道家の人に話しかけられた。ちょっとこちらを伺う感じの声のかけ方だったから、何かお願い事でもあるのかな?
僕はそんな予想をしながら話しかけてきた人の方を向く。内容は、
「もし良ければなのですが、姉妹を暫く引き取って頂けないでしょうか。2人の部屋は破壊されてしまっていて、できればその修復が終わるまで……」
修理が終わるまで2人を引き取って欲しいということみたいだね。
話を聞いてみると風花ちゃんの部屋は変態主人公が入っていって暴れて、美春ちゃんの部屋は誘拐犯が荒らしたみたい。
勿論断る理由もないから、
「分かった。良いよぉ」
「ありがとうございます」
受け入れることになった。宿利ちゃんと合わせて3人追加になったね。家の人数が倍になったよ。賑やかになりそうだなぁ。帰りに食材買わないと。あっ。宿利ちゃんの食べ物の好みとかも聞いた方が良いかな。
……あと、宿利ちゃんと言えば、
「その代わりって言うのもアレだけど、もう何人か修復が終わったら引き取って貰える?誘拐された子がまだいそうなんだよねぇ」
「それは……」
僕のお願いに難しい顔をする神道家の人。これは引き取った美春ちゃんの影響で襲撃が行なわれたから。
ではないと思う。たぶん。力の無い普通の子を家に入れるのは嫌なんだと思うんだよね。邪魔なだけだから。
「誘拐の目的が力を怪物の要素に変換する実験の実験対象にすることだったから、力はあると思うよ」
「あっ。そうなんですね。それなら受け入れは問題ないと思われます」
そうらしい。
力があれば問題ない。そういう世界なんだね。
僕はその打ち合わせを終えて、桜田姉妹に目線を向ける。2人は近くで受け入れに関しての話を聞いてたから、
「よろしくお願いするわ」
「よろしくねぇ」
「うん。よろしくぅ」
2人の言葉に笑顔で返しておく。それから、明里ちゃん達にも事情を説明しておいた。姉妹とは仲が良いから特に問題もなく受け入れられたよ。というか、予想してたみたい。
それから僕と明里ちゃんと葵南ちゃんお3人は集まって、
「夜、どうしようか?」
「日中のイチャイチャも悩むよね」
「宿利ちゃん1人なら問題ないと思ってましたけど、3人追加されるとバレそうですよね」
バレること自体はそこまで問題ない。ただ、その後気まずくなるのが嫌なんだよねぇ。できればそれは避けておきたい。
部屋の防音性能は高いけど、3人もいると誰がどう行動するかなんて分からなくなるからね。予測できない事態が起ることも充分あり得る。そして、
「我慢、できるでしょうか?」
「難しいかもね。土日とかに別の家に移動してやるしかないかな」
「土日かぁ。今まで毎日やってきたから、ちょっとその辺どうなんだろうね。……私も抑えきれるかどうか不安なだなぁ」
2人もちょっと我慢できるかどうか不安みたい。我慢って、難しいよね。
ただ、結局解決策は見つかれないまま。6人で飛行機に乗って帰る。流石に6人となると大きな車が必要だからね。安全のためにゆっくり運転しなきゃいけないんだよ。だから、飛行機で早く帰った方が良いって判断したの。
ただ、
「しばらくは風花ちゃんと美春ちゃんはホテルとかに泊まってもらってた方が良かったよね」
「そうだねぇ。まだ学校あるしぃ」
僕の言葉に同意する美春ちゃん。そんな僕たちの会話を聞いて首をかしげるのは風花ちゃん。どうやら、
「あら?転校はしないのかしら?」
転校するものだと思っていたらしい。どれくらい引き取っておくのか分からないのに転校させるのもどうかと思ったんだよねぇ。
「流石に転校はなしかなぁ。夏休みの間だけ僕たちと一緒に住んでもらうことになるかも」
「じゃあ、それまでは?」
「ホテルかなぁ。……あぁ。でも、タイミングを見てこっちに家を買ってもいいかもね」
新しい家。というか別荘。そういうのをこっちに買っておいて良いかも知れない。
そう思って考えてると、
「え?買うんスか?」
「か、買う……やっぱりぃ、私たちとは生きてる世界が違うかもぉ」
「根本的に何か違うところがあるわね」
僕のこういう所にまだ慣れてない3人が困惑した表情を見せる。そんな3人に、最近ちょっと慣れてきた明里ちゃんと葵南ちゃんが、
「目覚君はお金でどうにかなるなら気軽に大金使うタイプだから」
「でも、買う食材とかは安売りになってるのとかを狙ったりするちょっと主婦みたいな所もあるタイプだから」
そんな補足を入れてくれる。確かにそう言われるとそういう所もあるかもしれない。3割引と書かれてると、どうしてもそっちに手が伸びちゃうんだよね。……なぜだろう。
「なんスか?その矛盾したタイプ」
「微妙に共感するところもあるようなぁ、でもそうでもないようなぁ」
「完全に違う世界にいるわけではないのね」
3人とも微妙な顔をしている。僕を上手く理解できないんだろうね。離れたところにいる話と近いところにいる話をされて、不思議な存在に見えているんだと思う。
でも、
「人間は、矛盾したところを持ち合わせた生き物だからね」
僕はそう言って笑う。人間なんてそんなものだよ。優しい人が常に優しいわけでもないし、不良が常に誰かに喧嘩を売ってるわけでもない。
会社で優しい人が家庭では暴力を振るったり、不良が捨てられた子猫を拾ったり。そういうことがあるのが人間ってものなんだから。
僕がそう考えて少し遠い目をしていると、
「見た目と言ってることがちぐはぐすぎるッス」
宿利ちゃんはそんなことを。ちょっと発言が年寄り臭かったかな?これでもピッチピチのじゅう、ご?ろく?………あれぇ?今何歳だっけ?10代だったのは覚えてるんだけど、
高校1年生の標準的な年齢は……。
「宿利ちゃん。一応言っておくけど、目覚君は高校1年生だからね」
「……へ?そ、そうなんスか?ぜ、全然そうは見えないッスけど!?」
風花ちゃんの言葉を聞いて、宿利ちゃんが驚いている。僕の方を見て目を見開いてるね。
あれ?言ってなかったっけ?そういえばそうだったような……。
「そうだよ。高1だよ。言ってなかったっけ?」
「言ってなかったッス。アタシ聞いてないッスよ」
「そ、そっかぁ」
そうだったかぁ。そこは結構最初の方に伝えることなんだけど、今回は忘れちゃってたかぁ。
ついでだから、僕以外の皆の学年も紹介しておいた。その辺は予想宇通りだったようで驚いてはいなかったね。
「……目覚様。到着しました」
「あっ。了解」
そんなことを話して飛行機で移動し、飛行場からは車で帰宅。家に帰り着くことにはかなり良い時間になってたよ。
「明里ちゃんと葵南ちゃんは3人に家の案内をしてて貰えるかな?僕は急ぎで食材買ってくるから」
「あっ。はい。了解」
「分かりました」
3人の案内を2人に頼んで、僕は近くで買い物をしていく。流石にここから6人分のご飯を作るのは大変だから、夕食は宅配かなぁ。僕は朝を頑張ろぉ~。
と、考えて家に帰ると、
「目覚くぅん。部屋はどこを使えば良いのぉ?」
「あっ。部屋?適当に使って良いんだけど……そこからそこまで好きなの1つ選んで使って」
「そこからそこまで……おぉ。いっぱいあるね」
部屋を決めてもらう。その間に食事が届くから、お皿を並べて準備しておく。6人もいるから沢山種類を買っちゃったよ。楽しめそうだねぇ。
部屋を決めた3人が降りてきたら早速、
「……ん~。おいしいぃ」
「ジャンクって感じの味ね。久々に食べたわ」
美味しそうに食べる美春ちゃん。そして、どこか感慨深そうな顔をする風花ちゃん。久々って言うくらいだし、最近は食べてなかったのかな?こういうの。
まあでも、僕自身あんまり頻繁に食べるわけでもないから、そんなモノなのかもね。最近は人数が多くて作るのに時間がかかるから帰りが遅くなったときとかには頼むけど、1人で暮らしてたときには1年に食べるか食べないかくらいだったし。
それぞれ色んな表情で食べる中、
「……美味しいッス。久々に美味しいモノ食べたッス」
目に薄く涙を浮かべながら食べる人が1人。宿利ちゃんだね。研究所にいたときにどんな食事をしてたのかは分からないけど、美味しくはなかったんだろうね。
なら、
「お腹空いてるなら僕の分もあげるよ」
僕のを幾つか宿利ちゃんの方に移す。
「い、良いんスか!?」
驚いたように。しかし、どこか期待したように。宿利ちゃんの目が僕に向けられる。
僕は笑顔で頷いて、
「良いよ。ここで暮らしていくならしばらくは宅配なんて食べられないと思うからね」
「え?……そうなんスか?」
宿利ちゃんの表情が固まる。
折角美味しいモノに出会ったのに、暫く食べられないなんて言われたらそんな顔にもよね。その僕たちのやりとりを見た明里ちゃんと葵南ちゃんが笑って、
「普段は目覚君がご飯を作ってくれるから、どこかのを頼むって言うのは少ないね」
「勿論目覚君も料理は美味いから安心して良いよ」
そうしてフォローをしてくれる。宿利ちゃんは意外そうな顔で僕を見てるね。
……さっきから驚きで固まってると思ってたけど、手と口だけは動いてる。無意識なのかな?
「でも、あんまりジャンクなのは作らないかな。ジャンクなのはやっぱりここで補給しておいた方が良いかも」
「……いっぱい食べるッス」
宿利ちゃんはそう言って、食事にまた集中し始める。僕たちはその様子を見て苦笑するのであった。
こうして僕たちの新しい生活が始まる。
《2章完》
これで2章終了です。
本日13時から短い小説を幾つか投稿するので、その投稿作業が終わってから3章の執筆を始めます。
……結構遅くなるかもです。すみません。




