15.殺しちゃっても問題ないよね?
「状況はどう?」
詳しい状況を尋ねてみる。入り口付近は制圧できていても、その中まで制圧が進んでるかどうかまでは分からないから。きっとここの研究員達も色んな試作品を使って足止めをしようとしてるだろうし。
でも、そうなんだろうけど余裕の表情のまま、
「全く問題ありませんよ。ターゲットを人質として使われましたが、すでに回収済みです。現在はただ制圧を進めるだけの作業となっていますね」
「そっか」
美春ちゃんの救出はすでに達成されたらしい。人質に取られてもすぐに取り返せるって言うんだから凄いよね。かなり射撃の腕は良いみたいだからなぁ。
「ここの研究資料とかは?」
「そちらも回収済みです。……是非ともこちらへ回して頂きたい資料も多いですね」
笑顔だけど、先程とはちょっと違う笑顔でそう要求される。戦いを生業としている人たちだから、ここでの研究の内容とかは参考になるところが多いと思うよ。神道家の書類も一部この人達にも回してるんだけど、凄い参考になったって言ってたしね。最近それで更に制圧速度が上がったって聞いてる。
「ターゲットは今どこに?」
「少し奥の方にいるのですが……112番。案内しろ」
僕が美春ちゃんの居場所を尋ねると、1人の人が歩いてきた。112番って言われてた人だろうね。どうやらこの人が案内役になってくれるらしい。
「こちらです」
その人の指示に従い、僕は堂々とした足取りで建物の中を歩いて行く。僕は堂々とできてるけど、明里ちゃん達はちょっと怯えた様子だね。どこからか攻撃が飛んでこないか不安になってるんだろうけど。
でも、結局何もなく安全に移動完了。
「っ!目覚君!」
「やっほぉ。美春ちゃん。……そしてそっちの子達は、他の被害者かな?」
明里ちゃんが僕の方へ駆け寄ってくる。僕はそれを受け止めつつ、その奥にいる子達に目を向ける。
1人にはゲームで見覚えがあるよ。三下っぽい雰囲気(しゃべり方の影響)のあるヒロインだね。……でも、もう1人は分からない。見た目は知らないキャラクターだよ。
って思っていたら、
「グアアアアァァァ!!!!!!!!」
その知らない子が突然叫んだ。血走った目、体からあふれ出す覇気。圧倒的な存在としての雰囲気を醸し出している。空気がピリピリとしてるね。
しかも雰囲気だけではなく、
「目覚様!申し訳ありません!私たちではこれを押しとどめるのは無理です!!」
叫ぶ男の子を押さえ込もうとしている数人。でも、少しずつ押されているのが分かるね。その表情もかなり辛そう。
押さえつけることは無理みたいだね。となると、
「殺害の許可を!」
「「っ!?」」
殺害の許可を求める言葉に、美春ちゃんとヒロインの子は息をのむ。まさかそんな簡単に殺すって言う選択肢が出てくるとは思わなかったんだろうね。
でも、僕は、
「許可を出す。2人の目と耳を塞いであげて」
「「「了解」」」
押さえつけるのに加わっていない数名が、美春ちゃんとヒロインの目と耳を塞ぐ。僕も明里ちゃんと葵南ちゃんを抱き寄せて、目を塞いでおくように言っておく。
数秒後、
パァンッ!
発砲音が響く。それもその1度だけではない。何度か音は連続で発せられた。そのたびに知らない男の子からだから血が吹き出る。そして最後、頭に受けた弾丸で、男の子は完全に力尽きた。
「……ごめんね」
男の子の死体はひきづられ、どこかへと消えていく。あの子に関してはここの研究員と違って遺族に引き渡さないといけないからね。
そうしてそれが見えなくなってから僕は2人の耳を塞いでいたのを解放し、美春ちゃん達も解放される。
「ごめんねぇ。突然こんなことしちゃって」
僕は明里ちゃん達に謝る。2人は、
「ううん。気遣ってくれたのは分かるから大丈夫だよ」
「はい。目覚君の優しさでの行動ですから、感謝してます」
許してくれた。そして、どこか心配そうな目を僕に向けている。僕の心の心配をしてるのかもね。
でも、僕はそれにあえて気付かないフリをして、
「美春ちゃんとそっちの子もごめんね」
美春ちゃんとヒロインの子にも謝っておく。
でも、謝るのは僕だけ。2人の耳と目を塞いだ人たちは何も言わない。……さっきの指示を出しのたは僕。だから、それに関する責任はほとんど僕にある。謝るのも僕なんだよ。
「い、いやぁ。ちょっとビックリしたけどぉ、大丈夫だよぉ」
「は、はい。気を遣ってもらってありがとうッス」
2人とも首を振る。僕を責める言葉は出てこなかった。ヒロインの子からはお礼まで言われちゃったよ。本人としても精神的に辛いだろうにね。
そしてそれを表すように、
「あ、あの、失礼な質問かもしれないッスけど、今の子を殺す必要はあったんスか?助けてあげられなかったんスか?」
そんな質問が向けられる。なかなか難しい質問で、心に刺さる質問だね。
僕はさっきの子を取り押さえてた1人に目を向けると、その人は大きく頷く。
「……まあ、ハッキリとした事は僕には言えない。この後ここで見つかる資料によってはアレを直す手立てが見つかったかもしれないし、もしかしたらちょっと暴れるだけで正気を取り戻したかもしれない」
「なら!」
僕の言葉にヒロインは食いつく。殺す必要性を認めたくないんだろ思う。
でも、
「でも、あのまま抑えきれなくなってここに居た大勢が殺された可能性だってある。君だって命を落としてたかもしれない。僕はここに居る数人の命とあの子の命を天秤にかけて、ここに居る人たちの命を取った。それだけだよ。……本当に皆死ぬのかも分からなかったのにね」
「……ぅぅ」
僕の自嘲気味な笑みに、ヒロインの子は唇を噛む。
あの子の頭の中では、人の命を奪うことの正しさ。そして、人を守ることの正しさが争っているのだと思う。僕は殺す判断をしたけど、もしかしたら誰も死なないで済んだかもしれないんだからね。
何が1番良いかなんて、誰にも分からないと思う。でも、だからこそ、
「もう少し冷たい言い方をすれば、僕の目的はあくまでもそこにいる美春ちゃんを助けること。そして、ここを制圧して資料を押収すること。この2つだよ。だから、君の命を助けることはついででしかないの。本当は美春ちゃんだけ助けて全員殺しても良かったんだから」
「っ!」
僕の言葉でヒロインは目を見開く。一瞬睨むような素振りも見せたけど、すぐに視線を落として黙ってしまった。心のケアもかねてもう少し話をしても良かったんだけど、
「目覚様。資料を押収してきました。こちらが見た限り重要そうなものかと」
「了解。確認するね」
後から資料は全部見るけど、とりあえず重要だと言われたものを見てみる。内容は実験の内容、目的、そして、他の実験施設について。
他の実験施設は早く潰しておいた方が良さそうだね。
「人員の手配は?」
「すでに済ませて、それぞれ向かわせてあります」
「仕事が速いねぇ。……ん、これがさっきの子の実験結果かな」
仕事の速さに感心していると、僕は資料の中に男の写真が貼られた者を見つける。そして、資料に目を通していき、
「……ん?」
「目覚様?どこか気になるところが?」
僕の手が止まる。その様子を不思議に思った何人かがこちらへ目線を。でも、皆には聞こえないくらいの小さな声で、僕は、
「……主人公」




