12.誘拐されても問題ないよね?
プルルルッ!
「んお。電話だ」
スマホが振動し、僕に電話が来たことを知らせる。
「ん?もしかして風花ですか?」
「そんなわけないでしょ。さっきまで葵南ちゃんと連絡を取ってたのに……ん?あれ?」
僕は葵南ちゃんの考えをそんなわけは無いと笑ったけど、かけてきた名前を見てその笑みが固まる。だってそこには、
「本当に風花ちゃんじゃん」
「「えっ!?」」
明里ちゃんも葵南ちゃんも驚愕。葵南ちゃんも風花ちゃんからかもしれないって言うのは冗談のつもりだったんだろうね。だからこそ、適当に言ったことが本当で驚いている。
僕は通話を押して、
「もしもし~?どうかしたの?」
軽い気持ちと口調で事情を尋ねる。主人公君の体調が更に悪化したのかなぁ、なんて考えた。
でも、
『お、お願い!美春を助けて!!』
「……は?」
《side桜田風花》
私の両親は,決して良い親とは言えなかった。でも、私は、いや、私と美春は嫌いじゃなかったわ。2人とも喧嘩する事が多かったけど、楽しい思い出もいっぱいあったから。
喧嘩して自然に仲直りして、一緒に笑って。そんな毎日が続くと思ってた。
あの時までは。
「……へ?2人が、死んだ?」
「はい。原因は火事で、どうやら放火のようでした」
いるも通りの学校があった日。学校に警察の人が来て、たんたんと事情が語れた。その後私と美春は焼けた我が家を見て、2人で抱き合った。とても辛くて悲しくて窮屈だったけど、なぜか私たちは泣くことができなかった。
でも、私は気にしていない。例え涙が出なくても、私は胸の中の美春を守っていこうと決めたから。たった1人だけになった家族を。
「……ということで、しばらくはここで生活してもらうことになります」
「はい。分かりました。ありがとうございます」
その後、私たちはなぜか親戚に引き取られることもなく、施設に入った。今まで通りの学校に通い、何でも無いような顔をして、夜は美春と抱き合った寝た。クラスメイト達に事情を説明しても良かったけど、不安にさせるのも嫌だったから黙ってた。私はそれは辛くなかったけど、美春がどうかは分からない。
そんな風に過ごし始めて数日後、
「こんにちは。僕は小川目覚。一応君たちを引き取るか、引取先を紹介するかするつもりだよ。よろしく」
かわいらしい男の子がやってきた。目覚君とはすぐに仲良くなって、久しぶりに楽しい時間を過ごすことができたわね。
結局目覚君のところに引き取られることはなかったけど、頻繁に会えるから満足よ。私、可愛い者が大好きだから。もちろん美春も含めてね。
引き取られた先は神道家で、そこから出て行ったという葵南や明里とも仲良くなった。葵南とは同じ学校だったけど、ここまで話せたのは初めて。
「お姉ちゃん。私たち、運が良いよねぇ」
「そうね。とても運が良いと思うわ」
神道家にも良くして貰えて、友達も新しくできて。そして私には、愛すべきたった1人の家族がいて。変態もいるけど、とりあえずこんな幸せが高校を卒業するまでは続くと思っていたわ。
なのに、
「お姉ちゃあああああぁぁぁぁぁん!!!!!!」
美春が叫ぶ。
「美春ううううぅぅぅぅ!!!!!!」
私も叫び、必死に手を伸ばした。
でも届かない。美春は私から離れていく。
この日、神道家のあちこちから戦闘音が響く中、美春が連れ去られていった。私はむなしく空振る手を少しでも有効に活用しようと、ポケットの中のスマホへ伸ばす。
そして、頼りたくないなんて口では言っていたあの子へ、
『もしもし?どうかしたの?』
かわいらしい声が耳に届く。でも、今はその声を堪能している暇はない。
「お、お願い!美春を助けて!!」
私はそれに、今唯一期待できるものにすがった。
《side桜田美春》
「ん~。ん~!!」
口を塞がれ、手足も縛られている。その状態で、私は必死に暴れた。でも、
「大人しくしろ!」
「んぐぅっ!?」
殴られる。声から考えて男の人。腹部に強い痛みを感じ、大きな手の感触が残る。
こんなことは珍しい。神道家に入って力の使い方を教わってから、痛みなんてほとんど感じてこなかった。なのに、今は強く痛みを感じる。
「……流石は被検体に選ばれるだけはあって、俺のに耐えるか。将来はとんでもない化け物になりそうだな」
私を殴った人が何かを言ってるけど、その時はよく分からなかった。
でも、すぐに理解することになる。私は車で連れ去られ、それが止まると、
「ほら。入れ」
私は担がれ、建物に運ばれた。そして、1つの部屋に投げ捨てられる。
「おい。そこの2人。こいつの拘束を取ってやれ」
「は、はい」
「…………」
男の人の言葉に返事をする2人の声。私が目線を向けてみると、同年代くらいの男女が2人いた。目覚君みたいに年齢詐欺の見た目じゃないなら、同年代だと思う。
女の子の方に口と足の、男の子の方に手の拘束を解いてもらう。
「……げほっげほっ!」
「だ、大丈夫?」
口にはめられていたものが取れると、私は咳き込む。女の子に心配されちゃったぁ。
「だ、大丈夫ぅ。これ外してくれて、ありがとねぇ」
「い、いや。気にしないで欲しいッス」
私が感謝の言葉を述べると、女の子は気にするなと声を駆けてきた。だから、そこは気にしないことにする。
でも、
「……語尾、運動部の男子みたいだねぇ」
そこが凄く気になった。細かいことだけど、こういうときだからこそ心を落ち着けるためにもそういうことを聞いておきたい。
不安な気持ちを抑えるためにも。
「あ、ああ。これッスか?癖だからいつもこうなるッス」
「そっかぁ。……それでぇ、ここがどこか分かるぅ?」
私は一旦クッションとして適当な質問をしたから、本題に入る。向こうも最初から本題で話すよりも、どうでも良いことを最初に話した方が気が楽だと思うんだよねぇ。
「は、話が急に変わったッスね。まあ良いんスけど……まず、ここッスけど、アタシにもどこかは分からないッス。アタシも連れ去られてきたので」
どうやらこの子も誘拐されてきたみたい。嘘でないなら、敵では無いと思う。ここを脱出するとかする場合は協力できるかもしれない。
「あぁ。そうなんだぁ。……そこの子もそうなのぉ?」
私は協力者を増やせるかどうか知るため、男の子の方にも視線を向ける。ずっと男の子は黙ったままだから声が聞けるかと思ったけど、
「あぁ。この子は分からないッス」
でも、男の子は答えず、女の子が首を振った。どうしてこの子が男の子のことを言うんだろぉ?
「分からないってどういう事ぉ?」
私はまずそこから尋ねてみる。多分聞いておいた方が良い大事なことだと思うからねぇ。男の子とコミュニケーションを取る上でも。
「分からないって言うのはそのままの意味ッスけど、この子との意思疎通はできないんスよ。実験の影響で症状が進行しちゃって、精神がほとんど崩壊してるみたいで」
「……え?」
今の話の中に、色々と気になることがあった。
実験、症状、精神の崩壊。どれも重要そうに聞こえるぅ。そしてその辺から予想するとぉ。
「ここってぇ、何かの実験をしてるのぉ?」
「え?あ、ああ。まだそこの説明をされてなかったんスね。ここで私たち、実験を受けてるんスよ。なんか、力を最大効率で変換して怪物化を行ない、最強の生物を作る、とか言ってたッスよ」
「力を活用して、怪物化……」




