10.荒れてても問題ないよね?
今日は新作を投稿する予定です!
《side主人公》
「よぉ。お前、随分荒れてんな」
「あ?何、お前」
腕にタトゥーをしてスキンヘッドでサングラスをかけた、いかにもな見た目の男が話しかけてきた。見た目では完全に向こうの方が威圧感があって強そうだが、俺が術を使えば一瞬でねじ伏せられる。そう確信している。
「俺を見て怯えないとは、ふてぇ肝っ玉持ってんじゃねぇか」
「……何だお前?」
俺の質問に答えない男に苛立ちつつも、俺はもう1度質問する。この男は何者なのか、と。
すると男は俺の不機嫌を感じ取ったのか笑って、
「わりぃわりぃ。名乗ってなかったな。俺はちょっとしたバイヤーだ。よろしくな兄弟」
随分と調子の良いやつだ。バイヤーとは言ったが、名乗りになってないな。名前じゃなくて職業じゃないか。
それに、
「お前と兄弟になった覚えはない」
「はははっ。冷てぇこと言うなよ兄弟。とりあえず、お近づきの印にこれをやるよ。使用方法も書いてあるから、人の見てないところでやってみな。……飛ぶぞ」
嫌らしい笑みと共に渡されたのは、1つの袋、その中に粉らしきものやストローなどが入っている。明らかに、
「マズい薬だろ、これ」
「あぁ?そんなわけ無いだろ、上手いぞこれは。マズいわけないって。兄弟だってこの味は気に入るはずだ」
「そう意味じゃない……」
男も俺の言いたいことはわかっているだろうが、はぐらかそうとしているんだと思う。だからこそ俺はすぐに押し返そうと思ったんだが、その手を止めた。
だって考えてみろ、俺は強い力を持ってるんだぞ?薬くらいでおかしくなると思うか?……いや、ならない。きっと薬の気持ちよさだけ感じて、後の中毒症状なんかは俺の中の力が防いでくれるはずだ。
「気に入ったらまた来い。まだあるから、売ってやるよ。これが俺の連絡先だから」
「……ちっ。わかった」
俺は舌打ちしつつも受け取る。こんなモノに頼りたくはないが、きっとまた欲しくなるんではないかと思うんだ。だからこそ不満なのである。
だが、俺のその不満の理由を誤解した男は、
「そうカリカリすんなよ。確かに金は取るが、兄弟なら安くしといてやるからよ」
「……あっそ」
安くしてくれるらしい。ここで俺の不満がそこにないことを説明しても良かったが、値下げを取り消されても困るから誤解は解かないでおく。
それから俺は男と離れ、
「……使うか」
薬を使った。説明書通りに使うと頭がクリアになる。スッキリとして、今までの不満や不安が綺麗になくなったような感覚だ。
「……ああ゛ぁぁぁぁ」
口から変な声が漏れる。だが、そうなるほど良かった。この頭が綺麗になる感覚、忘れられないな。そうして俺はすぐに男と連絡を取って次を買う予定を立てる。デメリットなしで薬を使えるなら良いこと尽くめだろう。
などと思っていたからこそ、俺の体に表れている変化に気づけなかった。
《side???》
「……例の薬はターゲットが使ったようだ。次回の購入も要望が来ている」
「うむ。このままやつを使い……」
「ゆくゆくは、桜田美春を手に入れる、ですね?」
「ああ。その通りだ」
《side小川目覚》
「あな~たぁ~~。おま~えぇ~~~」
よくこぶしの回る歌声。そんな歌声を披露するのは、今のところ童謡と演歌しか歌えない明里ちゃん。
現在カラオケに来ていて、明里ちゃんに最近の曲を聴かせて練習させている最中だよ。
「明里に最近の曲を教えて、歌い方とかを見せるって名目できましたけど……演歌のレベルが高すぎて不安になりますね」
「そうだね。……今のままだと何を歌っても演歌っぽくなりそうだよね」
僕は葵南ちゃんとそんな不安の共有を。明里ちゃんが最近の曲の歌い方ができるようになるのか、つまり、拳を回さずに歌えるようになるのかが不安なんだよ。もうその歌い方に慣れきっちゃってるからね。
最初に喉を開くためっていう理由で歌った演歌が、まずレベルが高い。
「どれなら歌いやすいかな?」
「そうですね……あえてのラップとか」
「ああ。少しテンポの速いラップなら拳回してる余裕がないかもね」
葵南ちゃんと明里ちゃんの育成計画を話し合う。気分は完全に育成ゲームの高難易度をやってるときのものだよ。初期ステータスが低くてレベルもなかなか上がらないモードの。
つまり、明里ちゃんの歌い方を矯正するのは大変っていうことだね。
「明里ちゃん。次はこれ聞いて歌ってみて」
「分かった~」
葵南ちゃんとの協議の末歌わせるラップを決めて、明里ちゃんに聞かせる。そして、充分リズムと歌詞を理解させたうえでマイクを持たせてみると、
「あ、あらなみ~~」
明里ちゃんの歌ってるところだけじゃ伝えられないから、僕の方から説明するね。歌詞を載せすぎると著作権的な問題もあるから。
まず、簡潔に結果を言えば、ひどい。ただただその一言に尽きる。
具体的に何がひどいかというと色々ありすぎて全て伝えきれないんだけど、幾つか上げていこう。まず、棒読み感が凄い。全くリズム感や音程が合っておらず、ほぼ一定だね。次に、なぜかここでも微妙にこぶしが回ってる。もうこれは治せないんじゃないかと思ってしまったよ。
「恐ろしいほどに壊滅的ですね」
「そうだね。最初からラップはハードルが高すぎたかな。童謡とJ-POPの中間くらいの音楽からいった方が良いかもね」
「そうですね。じゃあ、これなんてどうでしょうか?」
そんな感じで明里ちゃんの歌声改変を目指しながら、僕と葵南ちゃんはトライ&エラーを繰り返した。そして、その結果が。
「く~ま、く~ま。く~ま~~~」
「うん。良いね」
「良いですね。ただ、眠くなりますけど……」
ゆったりした曲調の睡眠導入に使えそうな音楽を覚えさせることに成功。ゆっくりとした曲調の柔らかい声で歌う曲だから、流石に拳の周りは弱かった。若干まだ残ってはいるけど、それでも十分変えることはできだよ。
「いやぁ~。良かった良かった」
「そうですね。……って、ん?風花からメッセージが来てますね」
僕たちがうなずき合う中、葵南ちゃんはスマホにメッセージが来ていることを確認。送り主は風花ちゃんみたいだね。何だろう。
と、僕だけじゃなくて明里ちゃんも疑問に思ったようで、2人で視線を送って葵南ちゃんに続きを促すと、
「ちょっと待って下さいね。……ん?どうやら、例の子が体調を崩したみたいです」
「体調を崩した?」
例の子、というのは主人公だと思う。
「あの子って強い力があるんじゃなかったの?病気になるもの?」
「いえ。普通はならないはずなんですけど……その辺詳しく聞いてみますね」
葵南ちゃんはメッセージを送り返す。そうしている間に、僕は思考を巡らせた。
主人公が被害を受けたということは、何か別の組織が神道家を狙ったという可能性も考えられるね。しかも主人公の体調が崩れるってよっぽどだよね。僕も警戒した方が良いかも知れない。
「……あっ。返事が来ました。例の子は今も息が荒くて、目が血走っているそうです。風花は最初、変態が興奮しすぎたのかと思ったみたいですね。体調悪化の原因はまだ不明で、神道家が調べている最中だそうです」
「はははっ。相当目が血走ってるんだろうね……でも、そのレベルの体調の悪化って、普通はならないんでしょ?どういう条件ならその子って病気になるの?」




