26.回収させても問題ないよね?
「べつに良いだろ!葵南は俺のこと好きなんだろ!だったらそれくらい受け入れろよ!!」
「なっ!?」
主人公君は逆ギレ。あまりの暴論に、今度は葵南ちゃんが驚愕してるね。信じられない者を見る目をしてる。
それから頭を抑えて首を振って、
「確かに昔は好意はあった。でも、あの瞬間から、好きな気持ちは薄れていったよ。浮気されそうで、不誠実な態度を取られて、好きなままでいられるわけないじゃん。……それでも今日まで、今までは、抜け出してきたことに罪悪感を感じてたよ。でも!そんな言い方されたら!そんな気持ちも湧かないよ!そんな自分勝手な人、好きになれるわけがないでしょ!!」
葵南ちゃんは叫ぶ。
そうだよねぇ。色々これまで悩んできたのに、あの言葉はあり得ないよ。あまりにも葵南ちゃんのことを考えてないというか。
……僕も、明里ちゃんに対して主人公君みたいになってないか気をつけた方が良いかな?葵南ちゃんにもちょっと手を出してる時点で、不誠実なのは確かなんだけど。
抱きついて機嫌を取っておこう。
「そ、そんなはずないだろ!俺のことが好きだって、あのとき言ってくれたじゃないか!」
「それはあのときの話だよ!今には関係ない!……今は、あのときのこと凄く後悔してる!」
なんか、昔の約束を覚えてるかどうかとか、幼なじみの台詞みたいだね。それにしては雰囲気が最悪で幸せは1㎜も感じられないけど。
「っ!そんな言い方ないだろ!俺を好きになったことは後悔しないって言ってたじゃないか!」
「その言葉にも後悔してるよ!そんなこと言うんじゃなかったって思ってるよ!今までの行為全てに後悔してる!!」
全てかぁ~。それは凄い辛い後悔だねぇ。
僕も後悔したことはあるけど、全てに後悔したことはないからなぁ。何かは発見があったって思うし。
「……う、嘘だろ?さっきから何なんだよ葵南。今でも俺のこと好きだよな?好きだって言ってくれよ!」
ここまで拒絶されても主人公君は受け入れられないらしい。すがるような瞳を葵南ちゃんに向けるけど、
「嫌いだよ!大嫌いだよ!」
葵南ちゃんは言い切った。そしてそのままふらふらとこっちに歩いてきて、僕と明里ちゃんの方へ体を預けてくる。
「……ぅぅ。ぐすっ」
肩をふるわせて、僕たちの服にしみを作っていく。僕たちはそんな葵南ちゃんの頭をゆっくりと撫でて、あやしていく。
よく頑張ったね。葵南ちゃん。後は、僕が言ってあげよう。
「女の子を泣かせるなんてひどいねぇ。……もう帰って貰える?葵南ちゃんから嫌われたのは分かったでしょ?愛しの桜田さんだったっけ?その人のところに行っておいで」
「っ!……うるさい!俺は力尽くでも葵南を連れて帰る!」
僕の言葉は拒否され、主人公君はこちらへ走り寄ってくる。
あぁあぁ~。部屋が汚れるからやめて欲しいんだけどなぁ。なんて思った瞬間、僕の隣の気配が消える。そして、
「……遅いね」
ゴンンッ!
振り下ろされる明里ちゃんの腕。それが主人公君の頭にクリーンヒット!
僕は視力と思考力が上昇する術をかけてたから見えたけど、本当に一瞬だったよ。凄いね明里ちゃん。さすがはひたすら化け物と戦ってきてただけのことはあるね。
……最近も葵南ちゃんと一緒に新しい術の実験とか言って戦ってるし。あのとき僕は暇だからやめて欲しいんだけどなぁ。
「あ、おな……」
明里ちゃんの拳を受けた主人公君は、それだけ言って目を瞑った。急いで拍動と呼吸を測って、生きていることを確認。……OK。気絶してるだけみたい。
僕のそんな確認作業を見た明里ちゃんは笑って、
「大丈夫だよぉ。これくらいで死ぬようなら、神道家で優遇されないから。……あっ。目覚君も殴るなら殴って大丈夫だと思うよ」
そんなことを言ってきた。
明里ちゃんは怒らせない方が良さそうだね……うん。
僕は恐怖を感じながら明里ちゃんを視界から外して、まだ僕の足にしがみついている葵南ちゃんへ視線を移す。頭を撫でるのは継続しながら、
「よく頑張ったね。葵南ちゃん。偉い偉い。……今日は、沢山泣いて、辛いことは全部忘れな」
「は、はい。……ううう、あああぁぁぁぁ!!!!!」
僕の腰へ手を回し、更に強い力を込めて泣き出した。主人公君がいなくなったからか僕が優しく声をかけたからか、声も上げて泣いてるよ。
僕は葵南ちゃんが泣き止むまで、ずっと頭をなで続けた。明里ちゃんも、主人公君を紐で縛り上げてから僕と同じようにしている。
そして1時間ほど経って、
「……ぐすっ。ご迷惑をおかけしました」
「いやいや。気にしないで」
「そうだよ!辛いときは私たちに頼って」
葵南ちゃんは泣き止んだ。やっと手が空いたから、神道家に連絡をして主人公君を引き取ってもらう。やってきた神道家の人は土下座でもしそうな勢いで謝ってきて、急いで主人公君を引き取っていったよ。
……そういえば主人公君主人公君って言ってるけど
「名前すら聞いてないね。……まあ良いけど」
「「そう言えばそうだ(です)ね!?」」
2人は驚愕。主人公の名前なんて、僕は「あ」とかにしてたから、デフォルトの名前も覚えてないよ。……ん?デフォルトの名前があったんだっけ?そこすら怪しいんだけど。
「ごめんね、なんとか君。僕の記憶にはたぶん残らないよ」
「「…………」」
僕の謝罪の言葉で、2人は無言に。絶句しているとかではなく。肩をふるわせて笑ってるよ。吹き出しそうなのを我慢してるのかも。
主人公君がそんな扱いを受けることなんて、そうそう無いだろうからね。神道家では大事にされてただろうし。
「……とりあえず、これで大きい問題は終わりかな。もう面倒事は終わりだねぇ~」
「お疲れ様目覚君」
「ご迷惑をおかけしました」
僕たちは一息つく。葵南ちゃんに考えられる大きい問題は解決したし、これ以上苦労することはないかもしれない。
《side神道葵南》
終わった。私の心を縛っていた者から解放された。ポッカリ心に穴が空いたような気分だけど、この穴は少しずつこれから塞いでいけば良い。
「よかったね。葵南」
「うん。……ありがと。明里」
明里から声をかけてもらう。迷惑をかけたのに一緒に喜んでくれる明里が、眩しい。だからこそ、目覚君も私ではなく……。いや、弱気になっちゃいけない。たとえダメだとしても、
「ねぇ。明里」
「ん?どうしたの?葵南」
行動する前に、明里には言っておこうと思う。きっと明里も、同じだろうから。
「私、目覚君のことが好きかもしれない……ううん。かもしれないじゃなくて、好き」
「っ!」
私の言葉で、明里は目を見開いた。今まで目覚君からされたことを思うと、純粋にこんな気持ちになるなんて予想外だと思う。
でも、仕方ない。あの小さな体で私を庇ってくれた目覚君は、目を背けられなくらい大きく見えたんだから。
「そっか……分かってるとは思うけど、私もだよ。私も目覚君のことが好き」
明里は真剣な眼差しで見つめ返してくる。
分かってた。そして、目覚君が私と明里を比べたとき、明里を選ぶことも分かってる。だから私は、
「将来何番目になるかは分からない。……でも私、今日告白しようと思うの!」
「今日!?……まあ、区切りが付いたからね。きっかけとしては良い日なのかな」
私の宣言に驚いたみたいだけど、すぐに納得する。
驚きはしたけど、明里は一切私にやめるようには言わなかった。私も好きだからダメだとも、振られるとも言わない。明里の優しさが私の心を蝕んでいく。
でも、それで良い。私の心が傷ついても、後悔はしたくない。だから、
「じゃあ、行ってくるね!」
「え?っ!?もう行くの!?」
私は明里に宣言して、走る。向かうのは勿論、目覚君のいるところ。目覚君はリビングでパソコンをいじって仕事をしていて、
「ん?どうしたの、葵南ちゃん?」
「目覚君!私、目覚君のことが好きです!!」
あと1話で1章完結です。




