23.聞かれてても問題ないよね?
「目覚君?どうかしました?」
「……なんでも無いよ」
僕は葵南ちゃんの問いかけに首を振る。僕が我慢してるのは、確実に葵南ちゃんにもバレてる。でも、だからってここでやめたりはしない。
葵南ちゃんはまだ男の子との諸々を解決したわけではないからね。
あっ。どうせだし、ここで聞いてみようか。
「ねぇ?葵南ちゃん。実家には連絡とってみたの?」
「え?ああ。はい。とりましたよ。とりあえずあの子に伝えるとは言われまし……ひゃぅぅんんっ!?」
葵南ちゃんは話の途中でおもちゃのスイッチを押して、体をこわばらせる。でも、それで終わる様子はないね。体は緊張させ得たままだけど、スイッチを握った手が少しずつ動いてるのが見えるよ。強さを弱から強に変えていってるのが。
「うぅ//はぁぁぁ////スゴイでしゅぅ/////」
ちょっと呂律も上手く回らなくなるくらいには凄いみたいだね。どんどん体が昂ぶってきてるみたいで「はぁはぁ」と息を荒くしながら内ももをすりあわせ始めた。僕の鼻へ漂ってくる匂いも変わった。
「で?葵南ちゃん?」
「はぁはぁ//な、なんっ/です、かぁ!?あぁぁ///」
まともに会話をするのも大変そうだね。息も絶え絶えな様子で返答して来るよ。でも、僕としては頑張ってでも返答して欲しいね。目の前でそんなとをされたら、僕の方も昂ぶっちゃいそうだから。少しでも会話で気を紛らわせたい。
「まだ男の子の方から連絡は来てないの?」
「はいぃ////来てないですぅぅぅぅ/////」
そっかぁ。まだ来てないのかぁ。
たぶん、男の子も諦めてないんだろうね。このまま連絡を返してうやむやにされたら困るから、葵南ちゃんを探してるんだと思う。
「こっちの方にいるのはバレてない?」
「はいっ///大丈夫、れすぅぅぅぅ//////あ、あああぁぁぁぁぁ////////」
漂ってくる匂いの種類がまた変わる。葵南ちゃんは膝をついて前に倒れ、ビクンビクンと痙攣しだした。思ったより早かったね。
「僕が買ったおもちゃは楽しめそう?」
「は、はい。楽しめそうです……」
僕の問いかけに葵南ちゃんは頷く。
良かった。これで葵南ちゃんは楽しめるね。夜に盗み聞きをする日も経るかな?なんて期待したんだけど、そんな僕の考えが浅くて薄っぺらいかのように、
「でも、やっぱり目覚君の手でやってもらうのが1番好きです。忙しくて私に構ってもらえるなんて少ないかもしれないですけど……これからも、お願いできますか?」
なんて上目遣いで尋ねてきた。葵南ちゃんはこのおもちゃが与えられて僕に構ってもらえる時間が減るのかもしれないと思ったのかな?
そういうつもりではなかったんだけど……そんな目で見られると一緒の時間を減らした方が良い気がしちゃうじゃん!僕の気持ちがどこまで抑えられるか分からないよ!
「わ、分かった。分かったから、一旦そのおもちゃを取り外そうか」
「あっ。はい。そうですねぇ」
葵南ちゃんの意識を自分のつけてるおもちゃに移させる。その間に僕は後ずさり、扉の方まで移動して、
「まあ、楽しんで貰えそうなら良かったよ!僕が洗ってあげるとき以外で物足りなく感じたらそれを使ってね。……それじゃ!」
「え?あっちょっ!?」
僕は部屋を出て走り去る。葵南ちゃんが呼び止めようとしてたみたいだけど、残念ながら止まってられないね。僕の心がもうすぐにでも止められなくなりそうだから。
そして走り去る僕が向かうのは、
「明里ちゃん!相手して!!」
「はいはい。やっぱりそうなったんだ。……じゃあ、行こうか」
明里ちゃんを部屋から連れ出し、寝室へと向かう。そのまま、昂ぶった僕の気持ちを明里ちゃんにぶつけた。
……何か、最近当て馬みたいになってる感じはあるけど、ちゃんと夜は明里ちゃんだけを見て絡み合ってるからね?決して僕は明里ちゃんを蔑ろにしてるわけではないから。
「……で?そんなに葵南は魅力的に見えたの?」
一通りやって僕が落ち着くと、明里ちゃんがそんな質問をしてきた。まあ、今回に関しては事前に明里ちゃんに何をするか説明してたから、そういう理由で僕が昂ぶっちゃったって予想できたんだろうね。
「いや、魅力的って言うか、熱っぽい感じがあったというか……」
「ふぅ~ん。それで襲いそうになる前に逃げてきた、と」
「まあ、それはその通りだよ」
嘘を言っても仕方ないから、僕は頷いておく。でも、明里ちゃんがすねないように、ちゃんと抱きついてもおくよ。
「そっか。……因みに今、葵南が聞き耳を立ててるんだけど」
何気ない様子で明里ちゃんは爆弾発言を。
「うぇ!?そうなの!?……あ、ああああ、明里ちゃん、なんていう質問してくれたの!?葵南ちゃんを僕が意識してるのバレちゃうじゃん!!」
本当になんて言うことをしてくれたんだか。
僕は、葵南ちゃんが僕とつながることを望まないように少し素っ気ない感じにしてるのに!それで僕が葵南ちゃんのことを意識してるってバレたら意味ないじゃん!!
「もぉ~。明里ちゃ~ん」
「あははっ。冗談だよぉ」
僕が、ばかばか~とでも言うかのようにポカポカ叩くと、明里ちゃんは笑ってそんなとを言ってきた。
冗談だったのか。本当かと思ったじゃん。
「え?そうなの?……良かったぁ」
僕は胸をなで下ろす。まさか明里ちゃんがそんな冗談を言ってくるとは思ってなかった。というか、今まで明里ちゃんは、と言うより葵南ちゃんも含めて2人はあんまり冗談言ってこなかった気がするんだよね。だから、突然冗談言われると、本当かどうかの区別が付きにくいんだよ。
「もぉ~。やめてよぉ~。凄い焦ったじゃん」
「ごめんごめぇん」
《side四ノ原明里》
目覚君には冗談だって言った。でも、勿論それは嘘。葵南はしっかりと目覚君の言葉を扉越しに聞いていた。
「良かったね。葵南」
「うん。良かった。ちゃんと私、意識して貰えてたんだ」
ご飯を目覚君が作っている間、私たちはさっきのことを振り返る。葵南は凄く嬉しそうにしてるよ。
でも私気になるんだけど、
「今まで目覚君、そんなに素っ気なかった?」
目覚君はなんだかんだ言って、かなり葵南のこと構ってた印象があるんだけど。偶に散歩とか言って2人で出掛けてるし。
「素っ気なかったよ。私がアピールしても微妙に心の距離を開けられてる感じだったし」
「ふぅ~ん。……まあ、目覚君も葵南には手を出さないようにしようって思ってたみたいだからね。それが原因じゃないの?」
だから、そんなに距離を感じても落ち込む必要も無いと思う。と言う意味で私は言ってみたんだけど、葵南は首を振って。
「私もそう思うけど、そうだとしても距離を感じるのは辛いよ」
「そっか。……まあ、そういうものなのかな?」
私は目覚君と距離が空いてると感じたことはない。どちらかと言えば、最近は縮まっていると思う。
私の自意識過剰じゃなければ、その、……目覚君、私に恋を芽生えさせている気がするし。
体の関係があるのに今までは恋はしてないって言うのも、なんだか変な気はするけどね。でも、前まで目覚君が求めてたのは私の体だけだったから。あの様子を見る限り、私じゃなくても顔さえよければ誰でも良いとか考えてたのかも。
でも、やっと私に思いを向け始めてくれた。何がきっかけなのかは分からないけど、たぶん葵南も関わってると思う。
じゃあ、そんな目覚君がまた心に距離を作ってしまったら。そう考えると胸が痛む。葵南が言うことも少し分かるような気がした。
「じゃあ、これからはもっと距離が縮まるようにアプローチしていかないとね!」
「うん!頑張る!」




