20.感謝されても問題ないよね?
「葵南ちゃん、伝達不足なんじゃないの?言葉にしなくても自分の気持ちは伝わるとか思ってない?」
「うっ!……そ、そう言われるとそうかもしれないです」
下を向きながら葵南ちゃんは僕の言葉を肯定する。
ダメだね。今のまま放置してたら、絶対に後々大きな問題になるよ。ここは僕がちゃんとフォローしてあげないと。
「気付いたなら行動しないとね。帰ったらどこからなら問題が出ないか考えながら連絡しなよ」
「はい。そうします」
葵南ちゃんは大きく頷いた。これで1つ問題は解決できそうだね。ここさえどうにかできれば葵南ちゃんも押し倒せるかもしれない。我慢して明里ちゃんに相手して貰えるまで待つなんて言う苦行を行なわずに済むんだね。
……それは今回の問題が解決した後も、葵南ちゃんが今の気持ちのままならの話だけど。
「……しかし、浮気が発覚した後も関係が続けられるなんて、どうして思ったんでしょうね?」
「さぁ?その辺は本人じゃないと分からないけど……葵南ちゃんがかなりその子のことを好きだってアピールしてたからとかじゃないの?もうメロメロな状態の子なら、浮気くらいでは冷めないと思ってもおかしくないでしょ」
「あぁ~それはあり得ますね。ちょっとやり過ぎちゃったでしょうか?……でも、そうでもしないと選ばれなかったですし」
難しい表情をする葵南ちゃん。もっと後悔するかと思ったけど、そんなことはなかったね。ゲームの時のことはゲームの時のことで、全てが駄目なことだったとは思ってないのかもしれない。
良い経験だったとでも思ってるのかもしれないね。そんな気持ちになるとは思って無かったし、葵南ちゃんも僕の知らない面がまだまだありそうだなぁ。
「葵南ちゃんは、後悔はしてないんだね」
「してないですよ。浮気されたときとか、家出直後とかは後悔してましたけど。……でも、思ったんです。私が目覚君と出会えて、神道家から離れて、新しい人生へ踏み出せたのも。そういったことがあったからだって。今までの経験が無ければ、神道家から出て抗おうなんて考えもしなかったでしょうから」
「ふぅ~ん。まあ、悪いことばかりじゃなかったんだね」
「はい!」
葵南ちゃんは笑顔で大きく頷いた。こっちに引っ越してきてから、精神的に成長したのかな。そういう風に振り返る時間ができたのも良かったのかもね。
僕は少しだけ、自分がやったことが間違ってなかったと思えた気がする。これまで葵南ちゃんが変になっちゃったし、葵南ちゃんと主人公に亀裂を作っちゃったし、色々間違えたんじゃないかと思ってた。でも、こういう笑顔が見れると、良いことをした気分になるね。
「葵南ちゃん」
「はい?」
「これから大変だろうけど、頑張ってね……僕も、少しなら手伝うから」
「っ!…………はいっ!」
僕たちは手をつないで、夕日の中歩く。日は沈んでいくけど、葵南ちゃんは暗闇の中でも輝く。葵南ちゃんはヒロインだから、ね。
「……ねぇ。目覚君」
その夜。ベッドの上で明里ちゃんが話しかけてきた。事後の睦言というヤツだよ。
「ん?どうかしたの?」
「葵南と、何かあったの?」
「どうして?」
何かあったと思われるほど、何かあった気はしない。でも、明里ちゃんの視点から見ると何かあったように見えたんだろうね。
「目覚君、少し葵南を見る目が柔らかくなってる気がしたから。何かあったのかなぁ。と思って」
「あぁ。そうなんだ。……少し葵南ちゃんを見直しただけだよ。今まで、あんまり葵南ちゃん自身に強さを感じてなかったから」
「葵南ちゃんの、強さ?」
僕の言ったことがよく分からないようで、明里ちゃんは首をかしげる。僕はそれに柔らかく笑って、
「葵南ちゃんの成長を感じたって事だよ」
「ふぅ~ん?」
葵南ちゃんの成長。精神的な成長。辛いことも経験と思えるようになるくらいの、精神的な。
僕はそれで葵南ちゃんを見直した。そしてそれを感じたからこそ、
「だから、引き取って良かったって、思ったんだよ。僕のやったことは間違ってはいなかった、って」
「……そっか」
僕の言葉に、明里ちゃんは優しく微笑む。そして、その右手で優しく僕の体を包み込み、左手で頭を撫でてくる。僕はそんな柔らかな温かさに包まれて、深い眠りに落ちていった。
「……おはよう」
「おはよぉ~」
「おはようございます」
次の日、2人が起きてきた。それから2人分の食事を作っていつもの作業をしようとしたんだけど、その前に。
「目覚君」
「どうしたの葵南ちゃん?」
葵南ちゃんに呼び止められた。僕は何の用件かと首をかしげると、葵南ちゃんは満面の笑みを浮かべて、
「私、目覚君にすごい感謝してますから。それだけは、覚えていて下さい」
「え?あっ。……うん」
突然の感謝に僕は困惑。でも、直球の言葉に少し照れるね。顔は赤くなってないだろうけど、視線は泳いじゃってると思う。
そんな様子を見たからか、
「私も、感謝してるよ。ありがとね目覚君。沢山助けてくれて」
明里ちゃんまで抱きついてきて、お礼を言われてしまった。何回か感謝は言われてるけど、今の僕の気持ちは少し不思議だね。今までとは違って、なぜか恥ずかしくなる。
僕、きっと照れてるんだろうね。こんな気持ちになったことなかったから、変な気分だよ。
……でも、意外と悪くないかもしれない。また今度困っている人がいたら、助けてあげることにしよう。
「……目覚君の機嫌が良くなったね」
「そうだね。今のは分かったよ。私もちょっとずつだけど、目覚君のことが分かるようになってきたかもしれない」
どうやら僕の気持ちは2人には見透かされてるみたい。悔しいような嬉しいような……でも、きっと良いことなんだろうなぁ。自分のことを理解してくれる人は、きっと将来心の支えになってくれるだろうから。
「ふふっ。機嫌が良いし、調子に乗りすぎないようにしないとね。思わぬところで失敗するかもしれないから」
僕はそう言って微笑んでおく。2人も同じように笑顔を返してくれた。
……これが、細やかな幸せってものなのかな?
《side四ノ原明里》
朝食を食べ終わって。目覚君が後片付けをしてくれている間に、私は葵南と話をする。
「あんなことを言っちゃったら、バレちゃわない?」
「バ、バレちゃうかな?……でも、バレたらお仕置きがあるかも?」
ちょっと不穏なことを言う葵南。その辺りの性格は、こっちに来てからかなり改変されたよね。私には分からない世界の扉をすっかり開いちゃってる。目覚君もこんなはずではなかったとかよく言ってるし、葵南には元からそういう要素があったのかな?
「単純に、夜は部屋に閉じ込められるかもしれないよ。外側にも鍵を着けられて」
葵南が思っているようなお仕置きがあるかどうかは私にも分からない。少し前までの目覚君なら私が言うようなことをやったりしただろうけど、最近の目覚君は葵南にも少し優しくなったから。
って思ってたんだけど、葵南は私が言ったお仕置きの内容の方を考えてるみたいで、
「そ、それって!閉じ込められる監禁プレイって事!?」
「……そういうことじゃ無いと思うけど、葵南は自分でそういう風に解釈しそうだね!」
「いやいや閉じ込められるならそれ以外考えられないでしょ。……やってもらうときは、お茶とか沢山飲んで尿意を高めておかないと。耐えきれなくなった私を見て目覚君はきっと……・ふふっ」
顔に手を当て、体をよじらせる葵南。ちょっと本格的に気持ち悪い。体の動きも言ってることも。私では改善には導けないかなぁ。
目覚君、頑張って!




