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14.振り返っても問題ないよね?

《side神道葵南》

私は落ちこぼれだった。神道家の血を引くのに他の家の子よりも力が弱く、一族の恥さらしとまで言われた。家の人は私を軽蔑した目で見てきて、罵詈雑言を浴びせられるのも日常茶飯事。

それでも私は馬鹿にされるのが嫌で、頑張った。頑張って、強くなろうとした。数年の努力の末、やっと化け物と戦って勝つことができるようになった。

でも、そんな私の努力はあっさりと崩れ去る。家が拾った、明里という名の少女によって。

私が長い月日をかけて積み上げてきた努力を、あの子は才能だけで数日もかからずに乗り越えた。あのとき、圧倒的な才能の差を私は始めて知った。


それから私は逃げた。現実と向き合いたくなくて。向き合うことが怖くて。逃げて逃げて逃げて逃げて逃げて。そして、転機がやってきた。


「初めまして。俺は……」


それは中学生になったとき。1人の少年がやってきた。明里を超える才能を持つ少年が。

私のその時の気持ちは、明里ざまぁみろ。だったと思う。今考えても浅はか。自身が超えたわけでもないのに。自分より上の存在が増えただけなのに、それなのに私は明里を心の中で馬鹿にした。そして、私は明里の上に立とうと思った。だから、家の提案は都合が良かった。


「ねぇ。一緒に訓練しよ!」


私は積極的に男の子へアピールした。幸いなことに私は顔もスタイルも悪くなかったから、男の子も満更でも無さそうで。何度か他の子にとられそうになった場面はあったけど、最終的には私を選んで貰えた。

これで明里を見返せた。そんな薄っぺらいことを私は考えていた。


「え?明里が逃げた?」


私は初めてその話を聞いたとき、耳を疑った。

明里が逃げたこと。そして、明里が生け贄とされる予定になっていること。つまり、私が明里の命を奪う原因となってしまったこと。

そんなことを聞いて、私の胸は締め付けられた。なんで浅はかな気持ちで明里の未来を奪ってしまったのか、と。

それでも私は必死に心の中で自分を弁護しようとした。

明里は男の子と積極的に関わろうとしなかったし、私以外の誰かに摂られていた。だから、私の所為で明里が死ぬわけではないんだ、と。

それでも私の心には何か重たい者が乗っていて、どうしてもそれから逃れることはできなかった。そして私がそんなことで苦しむ中、男の子は私の体をペタペタと触るだけ。自分の欲求だけ満たして、こちらの事なんて見ようともしない。私は忘れたかったのに。思い出させないほど、私を狂わせて欲しかったのに。

私は更に選択を間違えたのだと自分を責めた。そんな時だった。


「え?明里が、戻ってきたの?」


明里が戻ってきた。いや。戻ってきてしまった。

私はその知らせを聞いて、誰よりも先に行って謝罪をした。そうすれば、少しは心が軽くなると思って。

でも、ダメだった。明里は私を責めようともせず、笑って許す。そして、その逃亡中にあった楽しかったことを聞かせてくれた。楽しそうに語る明里。その話をするたびに生け贄となる日が近いことを感じていく。

それが余計に、私を苦しめた。明里の命を奪ってしまうこと。明里の方が幸せな経験をしたこと。明里の方が綺麗に笑っていること。そして、結局私は何1つ明里の上には行けなかったこと。

あの笑顔を見るていると、明里の命を奪う私は彼女に比べて本当に価値がないように思えてしまう。そこにはもう嫉妬の気持ちすらない。あるのはただ、虚しさだけだった。


「さよなら。葵南。あの子と幸せになってね」


儀式用の服を着た明里は最後にそれだけ言って、私の前から消えた。そして、二度と戻ってくることは無かった。

はずだった。

でも、明里を拾った相手がどこかの偉い人で、その人が儀式は中断させ、明里はその人に連れて帰られた。その話を聞いた私は耳を疑った。今まで絶対的なものだと思っていた神道家に頭を垂れさせ、あまつさえ内部に口出しできる人がいるなんて。そして、そんな人に明里は選んで貰えるなんて。

私はただただ羨ましかった。もう明里へ抱くことはないだろうと思っていた嫉妬の気持ちが、むくむくと湧いてきていた。

そして、それと共に憶えるのは劣等感。なんで私の相手は、こんなに頼りなくて情けないんだろう。何で自分のことばかりで、私に寄り添ってくれないんだろう。

でも、それでも私は支えようと思っていた。贖罪として。

明里は最後に、私とあの子との幸せを願っていた。だからこそ、頑張ったの。セクハラされても、少し気持ち悪いことを言われても、男の子が務めを休み続けても。それでも、支えて頑張った。

……でも、私は裏切られた。私は見てしまったの。


「桜田さん!俺、桜田さんのことが好きなんだ!」


あの子が私以外の女の子に告白しているのを。

結果なんて知らない。ただただ私は裏切られたという感情だけが残り、神道家へ相談した。でも、


「浮気?その程度で何を騒いでいるんだい。あんたはあの子との子供を産むただの道具でしかないんだよ。もっとあの子を優先しな」


なんて言われてしまった。あの子も怒られたようだけど、特に悪びれた様子もなかった。ヘラヘラと笑って、言い訳を述べるだけ。謝ることすら無かった。

男の子も神道家も信用できない。いっそのこと男の子を襲って子供を身ごもって、その状態で命を絶ってやろうかとまでも考えた。

でも、それを行動に尽くす前に思い出したの。明里の話を。

そう。神道家から逃れられるかもしれない可能性の話を。


「お願い!私もここで保護して!!」


精神的に追い詰められていた私は、すぐに行動を行なった。明里と同じ条件で泊めてもらうことを求める。でも、向こうからは難色が示され、いくつもの厳しい言葉を。

それでも考えてみると誰にも言わずに出てきてしまったし、もう後戻りはできなかった。だから私は助けを求めて、2人に考えもらった。目覚君は面倒そうにしてたけど、それでも明里が助けてくれてたから協力してくれたんだと思う。

それから始まる当主様との交渉。沢山危ないところはあったけど、目覚君が細かいところで助けてくれた。隣にいてくれるだけでも強くなったような気がして、私は交渉できた。結果は最良ではなかったと思うけど、神道家から解放されて望みは叶う。

その後、泊まるところもないし、明里と同じ条件でもう1度目覚君に頼んでみた。その返答は同じ条件ではダメと言うことで、


「……ペット、とかかな」


かなり条件は厳しい物。でも、私は受け入れた。神道家に戻りたいとも思えなかったから。

その結果、私に首輪をつけて口の中に出された。このときは、きっと目覚君は私のことを許していないのだろうと思っていた。明里のことを気に入ってるみたいだったし、私がやってきたことの報いを受けさせられているのだ、と。明里は許してくれていたとしても、他の人にまでゆるして貰えるとは限らないから。

でも、それだけには思えない。お風呂で全身いじられて、私は初めての快感を覚えた。あの子にセクハラをされる日々だったけど、ここまでされたことはない。これはどちらかというと、目覚君ではなく、私の方の快楽で……。

目覚君は私のことを許しているのかいないのか。私には分からなかった。だから、悪いことだとは知りつつも、あのとき2人がいる部屋に耳を近づけてしまった。2人の絡み合う音と、明里の高揚した声。それを聞いて思わず自分のいけないところに手が伸びてしまった私は、悪い子なんだと思う。いつかここに私も呼ばれることがあるのだろうかと思いながら扉に耳をつけていると、2人の会話が始まった。

そこで私は、目覚君の本心を知る。私に含むところはあるみたいだったけど、嫌われていないことは分かった。

だから、


「あ、あの。一旦失礼します」


朝食の前に入れられた、口の中に残る液体。そして、その前まで入れられていたもの。それを思いだしながら、私は……。

あの後、液体を垂らしたままご飯を食べようとしたときの困惑と軽蔑の入り交じった目覚君の目。アレになぜか、更に私は快感を感じてしまう。その後も馬鹿にされ、軽蔑されるたび、私は心がうずいた。

きっと、原因は初日の所為だと思う。苦しいことをされて快楽を感じさせられて、その両方が与えられて。その時私は錯覚してしまったの。苦しみの中に快楽があると。

それは間違いなんだと頭の中では分かってる。でも、やめられない。体はとまらない。もっと目覚君から与えられる苦しみを求めるように。もっと逃れられない快楽を求めるように。もっと背徳感を全身で感じるように……。

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