11.ひどいことも問題ないよね?
「はい。できたよ」
「あっ。もうできたんだ。ありがと~」
明里ちゃんがテーブルに座る。普段は自分の部屋にいるんだけど、さっきまで葵南ちゃんの首輪をはめる手伝いをしてたから丁度リビングにいたんだよね。
そして、その後から入ってるのは、
「こ、これで良いでしょうか?」
「うん。……良いと思うよ」
首輪をつけて、両手でリードをにぎる葵南ちゃん。
僕はそんな葵南ちゃんの前に、ペット用のお皿を置く。
「はい。それじゃあそれが葵南ちゃんのご飯ね」
「……はい」
葵南ちゃんは何か言いたそうだったけど、結局何も言わずに頷いた。
……あっ。そうそう。忘れてた。ペットなんだから、
「ペットってご飯食べさせる前にお手とかやるんだっけ?でも、お手なんてやっても面白くないからなぁ。……とりあえず、服脱いで」
「え?……あっ。はい」
僕の指示を聞いて、諦めたような表情で服を脱ぎ始める葵南ちゃん。長くなるかもしれないから、明里ちゃんには先に食べておくように言っておく。
数秒すれば全部脱ぎ終わるから、
「はい。口開けて」
「は、はい?」
不思議そうにしながらも口をあ~んと開ける葵南ちゃん。そこに僕は、容赦なく詰め込んだ。
「んっ!?」
葵南ちゃんが何か言うけど、喉まで詰められているから言葉は出せない。苦しそうだね。
それでも僕は容赦をせずに、数分後。
「……ゲホ!ケホッ!」
咳き込む葵南ちゃん。その体はぐったりと床に倒れていて、口からは一目で唾液ではないと分かる液体が垂れていた。うつろな目で僕を見上げている。
「それも全部飲んでね。それじゃあご飯食べて良いよ」
「…………」
葵南ちゃんは何も言わず、暫く呆然としていた。僕はそれを無視して夕食に。
明里ちゃんは僕の方に困ったような視線を向けてきてるね。何か引っかかってるんだろうけど、聞かれない限り僕は何も言わないよ。僕としても、葵南ちゃんの前で本心を言うつもりはないからね。
僕が暫く食べ続けていると、葵南ちゃんも夕食を食べ始めた。顔をお皿にそのまま近づけて、犬食いしている。あの表情と格好、ヒロインとは到底思えないね。バッドエンドで悪役の奴隷になったヒロインとかはあんな感じかもしれないけど。
「……ごちそうさま。お風呂入ってくるね」
「はぁ~い。行ってらっしゃい」
明里ちゃんは居心地が悪いのか、ご飯を食べ終わるとお風呂に行った。僕と葵南ちゃんも食べ終わって片付けを終えると、一緒に入浴。その中では色々と洗ってあげた。
それはもう、色々と。
「んっ//あぁぁ////」
「ほらほらぁ~。暴れないのぉ~」
その後、葵南ちゃんをいじめ、げふんげふん。洗って昂ぶった感情を明里ちゃんにぶつけた。そしていつものように眠りにつこうと思ったんけど、
「ねぇ。目覚君。葵南ちゃんに何か思うところでもあるの?」
「ん?どうして?……って、今日のアレを見るとそう思うかな?」
睦言が始まった。明里ちゃんには、爆の葵南ちゃんへの対応が引っかかるらしい。説明の途中で寝るとまたもう1度説明しなきゃいけなくて面倒だから、起きていられるように明里ちゃんとつつき会いながら話を。
「対応が違うのは、2人が置かれてる大変さが全然違ったからだよ」
「置かれてる大変さ?」
「そう。明里ちゃんは家から追い出されて、もう泊まるところもない状況だったじゃん?しかも一文無しだったし」
「ああ。うん。そうだね。あのときはそういう設定だったね……それに比べると葵南ちゃんはマシだって事?」
よく分かってるな明里ちゃん。その通りだよ。
僕が説明しようとしてたのはそういうこと。苦しみが違うのに、対応が同じってどうかと思わない?口には出さないけど、ある程度は明里ちゃんへの気遣いもあるんだよ。
「他にも理由はあるんだけどね」
「まだあるの?」
「うん。もう1つ大きい理由は、一線を越えないため、かな。もし男の子とよりを戻すなら、そこは超えてない方が向こうとしても戻りやすいじゃん」
「まあ、確かにそうかもしれないけど、……一線越えてないの?」
明里ちゃんは首をかしげる。どうやらかなり深い関係になったと思ってたみたい。
でも実はそうなんだよね。口に突っ込んだりお風呂でいじめたり(もう隠す気はなくなった)はしたけど、一線は越えてないんだよ。
「明里ちゃんと違って捧げるかもしれない相手がいるなら、残しておいた方が良いでしょ」
「まあね。……でも、だからってあそこまでやるの?食事の前のアレは流石にひどい気がしたけど。葵南、見たこと無いような凄い目をしてたけど」
あぁ~。それはそうかもね。口の中に入れられて、その後の食事の味なんて分からなかったと思う。かなり苦しそうな顔もしてたし、やり過ぎなんじゃないかと薄ら思う気持ちもあったよ。
でもね、
「本音を言うとさ、僕としては葵南ちゃんは早く帰った方が良いと思うんだよね」
僕は正直な気持ちを明里ちゃんには伝える。
「え?そうなの?」
「うん。少しでも帰る可能性があるなら、の話ではあるんだけどね。ただ全く帰るつもりもなくて、将来も帰りたいなんて気持ちにはならないって言うなら帰らなくても良いと思うよ。でも、帰るなら早いほうが良いと思うんだよね。色々と問題が起こらないように調整するって向こうの人は言ってたけど、あんまり時間をかけてから戻ると男の子との仲は更に悪化すると思うんだよ。今ならどうにかなると思うけどさ」
考えてみて欲しい。ちょっと可愛いと思ってた許嫁。でも、本当に好きな子が他にいる。そんなときに許嫁が消えたらどうなるかな?
「しばらくは自分が何かしちゃったんじゃないかと思って、罪悪感が湧くと思うんだよ。だから、今戻れば関係の修復も上手くいって、場合によっては以前よりも良くなるかもしれない。でも、時間が掛かると」
「そんな気持ちも薄れて、忘れられちゃう?」
「その通り。それだけじゃなくて、戻ったときには邪魔な存在になりかねない。愛も薄れていくだろうしね。家の中での扱いは悪くなくても、男の頃から避けられてたら意味ないよ。そこに愛なんて無くて、ひどい場合だと憎しみがあるだろうから」
勝手にいなくなった許嫁が、時間を経て帰ってきたんだよ。時間が経って許嫁を忘れて、新しい恋が始まっているかもしれないというときに。しかも、許嫁で結婚をする必要がある関係のままで。
ふつうに邪魔だよね?折角好きな人と幸せになれると思ったところに現れるんだから、憎しみを持ってしまうのも仕方の無いことだと思う。
「そういうのを含めて、ちょっとひどいことをしてるって感じかな?それに、これに耐えられないようならそこまで追い詰められてたって訳でもなかったてことじゃない?その程度の感情で来てたって事だよ。なら、わざわざ泊め続けてあげる必要はないよね?」
「……なるほどねぇ」
明里ちゃんは納得したような表情に。それから確認するように、
「目覚君は葵南ちゃんの感情が軽い気持ちなんじゃないかって疑ってる。あと、一線を越えないようにしてる。そして、帰るなら早いほうが良いと持ってる。その辺りを複合してひどいことをしてるって考えて良いのかな?」
「そうだね。そんな感じだよ」
「……そっか。自分の感情を抑え込んでるわけではないけど、一線を越えない辺りは優しいよね」
そう言って、明里ちゃんは僕の頭を撫でる。そして、数秒後には目をつむり、僕の唇を塞いでから寝息を立て始めた。
寝るの早いなぁ~。聞きたいことだけ聞いて寝ちゃったよ。
「……僕も、寝るか」
僕もまぶたを閉じる。
僕は会話の間、明里ちゃんに意識をさいていた。だからこそ気付いていなかった。明里ちゃんは気付けていた、扉の前で会話に聞き耳を立てている気配に。




