第九話「悪霊、退散ッ」
善太郎の木刀は、陽子、いや、“サタン”の∞(無限大)の刻印へと叩き付けられた。
『グヌオォォォォォォォ…ッ!』
サタンの苦しむ声が聞こえた—
陽子の背中の刻印と、善太郎の青龍刀の接点から、青龍刀の青白い、聖なる光が放たれ、サタンの刻印からは、漆黒のどす黒い妖気が溢れ出した—
「やったか?」
霊気を切っ先に込めたので、息をゼイゼイ、善太郎が青龍刀をおさめて、状況を確認した——
陽子の体を借りてサタンが苦しげに喋り出した。
『誰だ!ワシをこの甘美な娘の魂から追い出そうとするのは!?…何?デウス!貴様が助言したのか!余計な事を!』
サタンは複合体である背中合わせのデウスと会話をしている様だった。
善太郎は内心、「妖のちわ喧嘩か?」と思っていた—
『サタン、我らは人間に巣食わなきゃ、存在出来ないのは事実だが、こんな小学生の娘の日常を奪うのは酷過ぎる…、どちらにせよ誰かが犠牲になるが、もっと迷惑のかからないものにとり憑こうではないか…』
『嫌じゃ、嫌じゃ、こんなに純真無垢な娘は他にいない!………。いや、待てよ?………、分かった、この娘から出ていこうじゃないか。善太郎とか言う者よ、また会うかもな………、さらばじゃ!』
何かを匂わせてすぐ、サタンとデウスはサタンの黒の霊気と、デウスの金色の霊気とに交わり、はるか上空へと消えていった—
善太郎が、ふと、陽子の背中を見ると、∞(無限大)の刻印は綺麗に消え去っており、青龍刀による傷やアザも見当たらなかった—
寝転んでいる陽子—
「おい、陽子、聞こえるか?陽子。」
「ん、…んん………っ?」
陽子は目覚めた——
「あれっ?私、どうしてたんだっけ?確か木刀で背中叩かれて…?」
善太郎は安心した様子で、
「ああ、お前の体の前面には神様、背面には悪魔が取り憑いていた。今までの視線の問題も全部それが原因だったみたいだ。大丈夫、俺が退治した。」
陽子は未だ寝ぼけたような様子で—
「神様?悪魔?…それが取れたの?なんか、…実感わかないなぁ…っ、ん?」
「どうした?」
「背後からの視線を感じない!!!」
「俺が退治したからな。」
「ありがとう!ありがとうございます!宮司さまあ〜〜っっ」
———陽子は真人間になった———
しかし、善太郎は密かに思っていた—
アイツ、いやアイツら、また誰かに取り憑く様子だったな—
特にサタンの最後の言葉が気になった…
いや、今はまずこの厄祓いの成功に安堵しよう。
一分の不安を残しながらも、気を休めた善太郎だった——