第七話「じっちゃんの木刀」
赤津神社の周囲の大気にはゴォォォ…、と暗雲がかげり始めていた—
「え?あなた…、いえ…、善太郎さんを挑発しているってことですか?」
善太郎は少しうつむき気味の姿勢で——
「ああ、間違いない。」
「だが———。」
「だが…?」
「コイツ、この妖を引きづり出す為の手段、手札がもう無い訳ではない」
「え?どうするの?」
「じっちゃんの木刀だ」
「ぼ、木刀?!」
「俺の爺ちゃん、半年前に亡くなったんだが、そのじっちゃんが俺に宮司の仕事を継承する時に渡してくれた、ある木刀があるんだ。」
「あ!やっぱり宮司さんにしては若すぎると思ったけど、急に後を継ぐことになったんだあ。大変ですね。」
「ああ、俺は両親が幼い頃に他界していたから、じっちゃん一人に育てられたんだ。そして、将来、この神社の宮司になる時のための手解きもしっかり受けた。幸いじっちゃんの隔世遺伝なのかなんだか分からんが、霊感体質は受け継いだ…。両親はまるで霊感がなかったらしい…。」
「あと、結果的に一人で生きていかなくちゃならくなって明日食うメシにも困ってる。だから、さっきのお前の三千五百円には内心、メシが三食は食えるなあ、と浮かれていた。まぁ、事情は変わったが…」
「で!」
「ん?」
善太郎はきょとんとしていた——
「その木刀を使えば、私の中の妖をあぶり出せるの?そこが問題!」
「ああ、じっちゃんの先祖代々から続く、神職代々“家宝”として崇められた由緒ある木刀だ。じっちゃんからは、「本当に強大な霊気を帯びた妖が出たときにだけ使え、って言われている。今がその時だと思ったんだ…」
「ちょっと待ってろ」
「はい」
善太郎は神社の奥へ消えていった——
陽子は、時間を持て余したので、「そうだ!華江にちょっと連絡してみよう!」と思い立った——
「もしもし〜?華江?」
「うん、うん。もしかしたら、学校行けそうだよ、私。うん、ありがとう。泣かないで?大丈夫だと思うから。じゃあね」
陽子は電話を切った——
すると、陽子の眼前には険しい表情をして、木刀を持った、善太郎の姿があった——
「は、始められそうですか?」
善太郎の形相に少しどきっとした陽子は少し戸惑いながら言った—
「お前、仮にも聖なる儀式が行われているっていうときに、退屈つぶしに、友達に電話か?」
陽子は事の重大さが分かって無い様子で、
「ああ、ちょっと暇だったもので。まずかったですか?」
「バッキャロー!!!こういう霊気を密集させて行う儀式では、その儀式の途中で、たとえ電波での連絡とは言え、“外部”への連絡はその接触した第三者にも霊害が及ぶんだよ!!お前の厄が無事に取り払えたとしても、今度はその第三者へ厄が伝播してしまう恐れがあるんだよ!!今回の厄祓いが無事終わったら、その連絡を取った相手の子も近いうちに連れて来い!二度とするな!」
あまりの善太郎の剣幕に、多少、並の小6女子よりも精神年齢が高い方であった陽子も、
「えくぅっ、シクシク、ごめん、ごめんなさい…、すみませんでした…」
泣き出してしまった——
善太郎はメンドくせーな、とでも言いたげな顔を一瞬見せたが、
「おれがいわなかったのも悪い。だからもう泣くな。許してやるから。」
「えくぅ、あり、ありがとうございます…シクシクッ」
「泣き止んだら、厄祓い始めるぞ」
陽子はやっと涙を拭いて、平静を取り戻しつつあった—
木刀に手をかけた善太郎は—
「用意できたか?」
あくまで優しく問いかけた——
「うん。」
そして善太郎は念を押す様に言った—
「今回のはな、ぶっちゃけ、強力な代わり、痛いぞ?」
「え?」