第六話「妖(あやかし)」
陽子のお祓いに金銭を要求した善太郎——
「ち、ちょっと………、小学生にお金要求するのォ〜〜〜?しかもお祓いって人助けでしょ?理不尽ですよォ!!」
「バーーカッ。神社だって善意だけで食っていけるほど甘くねーんだ。カネがねぇんなら、とっとと帰れ!」
「わ、わかったわよ。いま、三千五百円しかないけど、これで足りる?」
足りないと、薄々考えていた陽子だったが……、
「ヤリィ〜〜、これであと三食はいけるな…、いや、なんでもねぇ、こっちの話だ。お前、小学生のわりにはカネ持ってんじゃねーか、どうしたんだ?このお金?」
「来る前に、お母さんの貯金箱から少しくすねてきた。悪いことだとは思ったけど、わたしの人生に関わる問題だから。」
善太郎はいきなりふしめがちになり、
「いらねえ、タダでみてやる。」
陽子はびっくりして、
「何で?汚いお金は受け取られない、みたいな理由はなんとなく察しがつくけど、タダでみてくれるって、何?意味わかんないっ。」
「親のカネくすねてまで、みてもらいたいって事は、よっぽど重大な悩みなんだろうよ…。察したよ。さすがのおれも本気で悩んでるかねのない小学生からカネを巻き上げる程、人間的にクサっちゃいねえ…、で、その悩みってのはなんだ?霊感で見る前に話を聞きたい。」
さっきまで間の抜けた印象だった若宮司、三笠善太郎が突然、凛々しく、そして、威厳を備え始めたのを陽子は見逃さなかった。
「誰に話しても分かってもらえないとは思うんですけど、わたし、生まれてからついこの間まで、一度も後ろを振り返ったことが無くて、それを数日前、ある男子に指摘されて…」
陽子はことの顛末を残さずはなした。
善太郎は眉一つ動かさず、
「つまり、常に後ろからの視線を感じていたが、病院で診てもらっても、原因不明で、その翌日には、授業中、前を向いてるのに、後ろの女子に何見てんだって指摘されたってか。」
「そう、そうなの!だからわたし、意味が分からなくて、最後に神様にすがってみようと、ネットで見つけたこの神社を訪ねたの」
善太郎は—
「確かに、あるいは科学には…、科学的には解明出来ない、”妖”が関係してそうな案件だな。」
「”妖”?」
「ああ、ここを訪ねてくる百人に一人はこの案件だ。他の九十九件は全部自業自得だがな…」
「ワルイものが憑いてるってこと?」
「悪いか、良いかはその”妖”の種類による———、だがこればっかりはみてみるまで分からない———。」
陽子は—
「早くみて!ワタシ、早く普通の人間になって、華江たちといっしょに普通の学園生活送りたいの!」
陽子が叫んだ—
善太郎は神社の境内の土の地面に星の紋章を指で書き——
「だいなごん、我の先祖に命ず。この少女に憑きたもうし、”妖”の姿をして現せ!」
———
何も起こらなかった——
陽子は動揺して、
「何?あんな大それた儀式?みたいなことして、だいなごん?だかの先祖にお願いしてコレ?善太郎さん、本当に宮司?」
善太郎はしばらく黙っていたが、意を決して—
「コイツはおれが思ってたよりヤバイ案件らしい………」
「え?」
「お前の背中、見えないと思うが、服の上に∞(無限大)のマークの刻印が刻まれている………。コイツ、お前に憑いてる”妖”はおれを挑発してるんだ…。“我は無限なり”つまり、そのたぐいの厄祓いじゃワタシはあばけぬよ、とっ…」