いわくつきのホテルがおふだを隠す気がなさすぎて笑う
ここはいわくつきのホテル。
出ると噂なので興味本位で覗いてみることにした。
まずはエントランス。
内装はボロボロ。
掃除もまともにしていないのかほこり臭い。
受付のオバサンはスマホをいじっている。
服装はスウェット。
客をもてなす気ゼロである。
俺はエントランスを素通りして、問題の部屋へと向かう。
中へ入ると明らかに空気が違った。
なんか……とても重いのだ。
これは期待できそうだと胸を躍らせて部屋を見渡してみる。
部屋の作り自体は普通だが、やはりいわくつき。
見た目からして違う。
お札を貼る場合、絵とかで隠すと言うが……壁に堂々と貼ってあった。
しかも一枚や二枚ではない。
あちこちに何枚も貼ってある。
逆にこれはこれで面白い。
テーマパークのお化け屋敷みたいなものだろう。
しかし……明らかに貼りすぎじゃないだろうか?
湯沸し器にまでくっつけるのはどうかと思う。
湯沸かし器が原因で誰か死んだのか?
殺人事件の凶器となったのか、それとも事故で火傷でもして宿泊客が死んだのか。
試しにトイレに入ってみると、便座の蓋にも貼ってあった。
誰か便器に顔を突っ込んで溺死したのだろうか?
だとしたらすごいシュールな光景。
捜査員たちがどんな顔で現場検証をしたのか見てみたい。
しかし……肝心の幽霊が全く現れないな。
これではここへ来た意味がないぞ。
「誰かいませんか? 話をしませんか?」
語り掛けても反応がない。
空気が重いだけで気配がしないんだよなぁ……。
キィ――
突然、部屋の扉が開いた。
恰幅のよい中年の男性が入って来る。
「…………」
男は部屋を見渡しながら、おもむろにスマホを取り出した。
ぱりゃり、ぱりゃりとシャッターを切る。
試しにカメラの前へ出てピースサインをしてみたが、反応がない。
そのまま無言で写真を撮り続けている。
「……さっそくSNSに投稿するかぁ」
男はそう言ってスマホをいじり始めた。
俺に気づく気配はない。
部屋を出てエントランスへと向かう。
相変わらず受付のオバサンはスマホをいじり続けている。
彼女も俺には気づかない。
いわくつきと言うのは嘘で、客を呼び寄せるためのブラフだったらしい。
幽霊になって3年。
いまだに同類に出会ったためしがない。
仲間に会えるかと思って期待していたのだが……ここも空振り。
そろそろ誰か俺の存在に気付いてくれないだろうか?
たった一人で世界をさ迷い続けるのは、あまりに寂しい。