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第六幕:1年半前(3)

 元婚約者の父から聞かされた“王命”による政略結婚の話がどうしても頭から離れない。元婚約者の一家までが連帯責任として処罰を受ける程の大きな婚約だっただろうか。そんなことを考え始めると気になって仕方ない。今日はどうせもう家に帰るだけだ。それならば情報を集めてみる方がいい。


 俺は何をしたのか。


 知っておく必要が有るだろう。

 となると、貴族だった頃は平民街と貴族街とを行ったり来たりしていたが、平民になった今は気軽に貴族街へ行けるわけじゃない以上、貴族だった頃の友人から話を聞くわけにもいかない。となれば、情報収集をするのは王都の図書館がいいはず。新聞を確認すれば良い。図書館は平民も利用出来る。識字率は国民の半分以上、らしい。だからか、図書館に新聞は常に置いてある。


 日付は3年……いや、もう少し前から遡るか。図書館司書に5年程前からの新聞の貸し出しを頼むが、そんなに前の新聞は無い、と断られる。その代わり新聞社に行けば古い新聞を読めるだろう、と言われた。後はスクラップブックを作成しているような人間くらいだろう、と。


 スクラップブックとは何か尋ねれば、新聞の記事を切り抜いて集めている人が中には居るのだそうだ。その切り抜きを紙に貼り付けて本のような体裁を整えた物らしい。世の中には色々な趣味を持つ者が居るものだ、と理解したが。取り敢えずは新聞社を訪ねてみよう、と決めた。司書から新聞社の場所を教えてもらい、赴いてみる。


「そりゃあ5年前だろうが10年前だろうが新聞は取ってあるけどよ。何の記事を見たいんだい? それが分からないと新聞を探すのも大変だぞ?」


 俺が訪ねたのは、王都内で有名な新聞社で。受付で話をすると、その受付の男性がそんな事を言って来た。確かに何の記事が見たいのか解らないと、自分も見つけ難いが、新聞を貸してくれる方だっていつの日の新聞が欲しいのか知らないと、探し難いだろう。だが、俺は困る。いつの頃の新聞なのか解らないが、情報を得たいのだから。


「では、政治に関しての大きな変化の記事で」


「そりゃアレだろ? 鉄道普及の為に隣国や大国と協力している件だろ?」


 あっさりと告げて来た受付の男性の言葉に、俺はガツンと頭を殴られた気持ちになった。ーー忘れてた。とてもとても大事な……。男性は、俺の顔色を読んだのか「お、それのことか? それなら俺がスクラップしているから、それを読ませてやるよ。後で返してくれよな」 と気軽に貸し出してくれた。


 男性から借りたスクラップを現在住んでいる部屋に持ち帰って隅から隅まで読む。


 始まりは12年前。隣国の向こうにある大国が鉄道という馬車よりも沢山の人を運び、馬ではない石炭という燃料とやらで移動する手段を開発した、という事から始まった。その鉄道というのは、大国から見ると、隣国と我が国を通って、我が国を通り越した向こうの国へ到達するらしい。その国は海に面していて、大国から気軽に海へ行けるための手段として開発された。


 海に面した国へ行くには、どうしても隣国と我が国を通る必要が有り、鉄道というのが作れる土地は、我が国では()()()()()()達の土地を通る。どちらかの土地ならばまだしも、どちらの土地も必要だという事で、我が国の国王陛下が“王命”を出した。


 それが10年前のこと。

 この王命では、その土地の領主達の子を婚約させ、領主達に協力させる事が目的だった。

 スクラップブックには、そんな事まで記事にされていて、ようやく俺は“王命”だった婚約の内容に気付き始めた。


 この貴族は一つは侯爵家で一つは伯爵家だが、爵位だけで見るわけにはいかない背後関係があった。伯爵家の先代夫人が王族から降嫁して来た方だったから。それで力関係が微妙で。現国王陛下は苦肉の策として、両家の婚約を王命で決めた。当時子どもで派閥も関係無かった俺でも、衝撃的な婚約だった。


 しかも、両家の嫡男同士に互いの家の娘が嫁ぐのだが、侯爵家嫡男にも伯爵家嫡男にもそれぞれ別の婚約者が居た。もちろん、嫁ぐ事になった侯爵令嬢と伯爵令嬢にも別の婚約者が。


 それを王命で全て白紙にしてしまったのだ。

 当然、侯爵家も伯爵家も国王陛下に抗議した。そこで国王陛下がそれならば婚約抜きで、互いの落とし所を付けろ、と命じたわけだが。どちらの家も婚約抜きで互いの落とし所を探っても、どちらも自分達が有利になる条件しか出さず、膠着状態となり。結局、“王命”で両家の婚約は結ばれた。


 そして、その余波で、両家と婚約関係に有った家が次々と相手探しに躍起になり。此処でも“王命”で婚約を無理やり結んでいく。これが繰り返されること7年。つまり、俺と元婚約者との婚約も、これに絡んだ“王命”による婚約だった。


 おそらく国王陛下もここまで大きな出来事になるとは思っていなかったのだろう、とは、この一連の婚約騒動について記事を書いた記者の言。大国・隣国・我が国・海に面した国を巻き込む大きな事業で有るだけに、国王陛下も、どうしてもあの二つの土地を提供したかったはず。けれど、落とし所が見つからなかった侯爵家と伯爵家に痺れを切らして無茶な婚約を命じた。


 その結果が俺と元婚約者との婚約に響いてくるわけで。


 俺と元婚約者との婚約破棄の一件も記事になっていた。国王陛下直々の婚約を勝手に破棄をして国王陛下の顔に泥を塗った愚かな子爵子息。これに国王陛下は激怒して、婚約破棄を言い渡した子爵家と、それを止められなかった婚約関係にあった子爵家は、見せしめとして爵位返上し、平民になってから罪を償え、と罰せられた。


 ーーああ、こういう、ことか。


 俺は何も理解していなかった。

 ずっと平民になった事に不満を抱いていた。

 そうじゃない。

 俺が愚かだったから、この状況を招いたんだ。

 本当にビッセル家は巻き込まれたんじゃないか。

 ……俺の所為で。











お読み頂きまして、ありがとうございました。


次話は現在に戻ります。

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