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幕間:現在ー彼女IIー

 ーー巻き込まれた。

 それが、あの日に起きた出来事の最初に思った感想だったわね。


 3年と少し前。

 王命による政略結婚の相手として選ばれたのは、同じ子爵位で同じ領地無しのジル・マイスル様でした。私は貴族の娘。領地が無くても、お父様が王城にて働き給金をもらっている以上、そして子爵位という爵位をお父様がもらっている以上、政略結婚は最初から覚悟をしていたことでした。


 相手方に愛し愛される関係を、と望んでも叶わないことも有るとは考えていましたから、せめてお互いを信頼して私を尊重してくれるので有れば愛人も受け入れるつもりでした。ところが、彼は、ジル・マイスル様は王命による婚約だと言うのに、その重みを理解していないようで、よりにもよって人前で私に婚約破棄を突き付けて来ました。


 そりゃあね、恋人(らしき人)が居るのなら、私と婚約していたくないかもしれません。でも、王命なんです。逆らえないんです。逆らうなら処罰される、と解るでしょうに。若しくは嫌なら国から出て行って下さい。私を巻き込まないでって本当に思いましたわ。


 一瞬で、私や家族にも何かしらの影響が有る、と思った時には悲しくて泣きそうになりました。もしかしたら顔が歪んだかもしれません。ですが、此処で感情を表してジル・マイスル様を罵っても意味がない。寧ろ私の不利になる。


 “王命”の重みが理解出来ない方の所為で巻き込まれた事は悔しいですが、さっさと受け入れて国王陛下に謝罪をし、お咎めは私のみにして頂きましょう。両親と弟を巻き込みたくない。そう判断した私は急ぎ家に帰って事の次第を両親に報告すれば、両親は顔を真っ青にしながら、お父様はジル・マイスル様のお父様に連絡を取り、向こう様と共に直ぐに王城へ向かわれました。


 先に早い謝罪を行い、翌日の早いうちにお母様と私と弟とが王城へ、という段取りだそうです。その後、その通りにした私達一家にマイスル子爵様は真っ青な顔で私達にも謝罪をして下さいました。本来ならジル様を含めてご一家がいらっしゃるはずですが、奥様は元々病で伏せっておられ、ジル様は全く事の重大さを理解しておらず、一度帰ってジル様を問い詰めても「何が悪いのですか」 と言い放ったそうです。


「もう、廃嫡だけでなく貴族籍から除籍する事態ですが、おそらくそれでも陛下の怒りは治らないでしょう。私達一家も爵位返上だけでなく貴族籍の除籍をされるか、と。それだけで済めば……いえ、解りませんが、ビッセル子爵家には何のお咎めも無いように陛下に奏上致しますので」


 マイスル子爵様はこのように仰っておりましたが、お父様が首を左右に振ります。


「おそらく、我が家もお咎め無しとはなりますまい。お解りでしょう。今回の王命による婚約は、我が家とマイスル家()()()ものではない、と」


 お父様の言葉にマイスル子爵様は肩を落としました。


「あれほど、王命だ、と。貴族の義務を果たせ、と。婚約の裏の意図も聞かせたというのに、平民のお嬢さんに入れ込んで貴族の義務も王命という意味も理解しないような、愚かな息子だとは……」


 悄然としているマイスル子爵様。お父様は「解りますよ。我が子がそんなにも愚かだ、なんて思いたくない気持ち。私も逆の立場ならばそう思った事でしょう」 と慰めています。元々お2人とも王城に仕える文官同士で爵位も同じなら、部署も同じだった事が有るので、交流は多かったようです。それだけに、私とジル様の婚約は、お父様もマイスル子爵様も殊の外喜んでおいででした。


 ……あのお方は、そんなマイスル子爵様のお心を煩わせたのですね……。


 私も、本来なら巻き込まれた、と思って直ぐに家族のことだけを考えずに、もっとジル・マイスル様にお言葉をかけて王命といえど、縁あって結ばれた婚約者に心を尽くすべきだった、とその時のマイスル子爵様の気落ちした姿を見て少し悔やんだものでした。


 あれから直ぐに国王陛下に謁見し、様々に奏上致しましたが下った命はマイスル子爵家とビッセル子爵家の爵位返上及び終生平民として見せしめになれ、という事でした。


 見せしめ。

 それは、他の貴族と呼ばれる爵位持ちの皆さまに、国王陛下の命に逆らうのは、こういうことだ、と知らしめることです。貴族で有ることの義務を放棄したのなら、平民として働くことになるぞ、という見せしめです。


 平民の中にも富裕層といって商売で成功した商人や他の追随を許さない素晴らしい職人等の方々もおりますが、私達はそういった人の下で働かず、どちらかと言えば、港での荷運びや街中のゴミ拾い・或いは下水の流れが詰まっている所の詰まり清掃等だと思います。


 荷運びやゴミ拾いは働き手が少ないので。下水の詰まり清掃は、皆が敬遠しがちで、罪人の仕事です。後は女性だと孤児院で子守りをしながら炊事洗濯掃除等でしょうか。


「元ジル・マイスルは新聞配達と港の荷運び。月に一度はゴミ拾い。マイスル元子爵夫人は体調が良くなり次第、孤児院。ビッセル元子爵夫人も同じく。マイスル元子爵並びにビッセル元子爵はレール設営。ビッセル元子爵の子息と子女は子息がゴミ拾い。子女は夫人達と同じく孤児院だ」


 陛下の沙汰に私達は頭を下げました。

 ですが。


「おそれながら陛下に申し上げたいことがございます」


 私は喉がカラカラになりながらも、言葉を発しました。お父様もお母様も顔色を真っ青にします。陛下が「申してみよ」 と促して下さいました。


「私は、陛下の命だと理解していながら、婚約者であった元ジル・マイスル様をお止めしませんでした。これは私の罪。ですので、私もお父様と同じくレール設営に」


 本来なら止めねばなりませんでした。

 ただ、私は知っていました。この“王命”による婚約において、私達の()()は、あまり優先順位は高くない事を。

 これが()()()()()のためにどうしても必要だった婚約ならば、私とジル・マイスル様の婚約破棄は()()()()()()にされていたでしょう。つまり、婚約続行という形です。


「ふむ。それをきちんと理解していて、そのように申すか。良かろう。その方の望み通り、と言いたいことだが。あれは男ではないと出来ない。力仕事だからな。それ故に、国境近くまで行き、そこで炊き出しを手伝え。元々其方らの家の資産は、炊き出しの予算に回すつもりだった。それで罪を贖うと良い」


「御意に」


 そうして、3年。私はお父様と元マイスル子爵様と3人で国境へ赴き、仕事に励んでいる。


 今回の王命による婚約の裏というか、真意が、この仕事に関わりが有った。その真意にただの令嬢だった私が関わることになるなんて、王命による婚約が決まった時は全く思ってもいなかったのに、ね。













お読み頂きまして、ありがとうございました。


次話は1年半前(3)です。

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