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幕間:現在ー彼女ー

「はぁ」


 疲れからか、溜め息が出てしまった。


「疲れた?」


「うん、まぁね。でも……3年頑張って来た甲斐が有るわ」


「そうだね」


 私は彼に微笑みかけると、彼も同じように優しく笑いかけてくれる。私と彼がこうして結婚出来た事は良かった、と言えばいいのか。


「まぁ、アイツのお陰、なんて言いたくないし、絶対巻き込まれて恨んでいるけど」


「まだ、あの子爵子息のことを恨んでいるの? ……ああ、いや、元、だっけ」


「そうね。恨んでいるわ。まぁ3年前程じゃやいけど。でも、今でも婚約破棄するなんて知っていたら、止めていたし、抑、私を巻き込まないで! と言ったと思うわ」


「そうだろうね」


 彼が苦笑する。

 そう、全ては5年前から始まった。


 元子爵家のジルに偶然出会い、その頃は貴族なんて知らなくてちょっと金の有る平民の子だと思っていたんだけど、それで商売してた家を紹介して色々買ってもらえれば良い、くらいに思ってた。実際、良く買いに来たから、良いお客さんくらいに考えてた。


 そしたら、なんだか私のことが好きだとか言い出して。でも、私は今は結婚した彼が好きだったから、断った。


 まぁ、その断り方も不味かったとは思う。

 あまりにも色々買ってくれるお客さんだから逃したくなくて、つい、お友達なら……みたいな事を言ってしまったから。でも、頷いたから納得したと思ってたのよ。


 その後も商品を色々買ってくれたけど、私はジルとの距離を縮めているつもりはなかった。

 その後、家の都合で男爵家へ寄った時に当たり前のように貴族街を歩くジルを見かけて、ようやくジルが貴族だって知った。


 平民街に公爵様とか王族様とかが来る事は無いけど、男爵とか子爵とかは気軽に来る。でも平民は気軽に貴族街に立ち入れない。そしてジルは子爵家の人だった。気安い態度を取った、なんて焦ったけど、今まで通りで良いって言うから、じゃあいっか。って軽く考えた私も悪いと思う。

 本当は、この時にちゃんと貴族だから、と線引きをしておけば良かったんだ。


 ジルが子爵家の人だって解ってからも友達付き合いは続いたんだけど。ある日、夜遅くになる前にちょっと付き合って欲しいって言うから、何にも考えずにジルに付き合った。貴族街を通り抜けてかなり大きなお屋敷まで連れて来られた時は、もう意識なんて無かったと思う。


 なんで? なんで、私、こんなとこにいるの? えっ、どうしてジルはこんなとこに私を連れて来たの?


 そんな気持ちでいっぱいで混乱していて。

 気付いたら、ジルが凄く綺麗なドレスに宝石のついたネックレスをした女の子に


「婚約破棄だ」


 なんて言ってた。

 婚約破棄って言葉も解らなくて、コンヤクハキ? 何かの食べ物? 違うよね。いきなり食べ物の話をしないよね? ええ? なんて、混乱したまま、私はジルに連れられてその場から立ち去って気付いたら、家に居た。

 なんだかジルから色々聞いた気がするけど、良く聞いてなくて。


 そうしてその後直ぐに王様の使者って人が来て。


「国王陛下が認めた婚約を破棄させた愚か者め!」


 とか言われて、良く解らないけど、お父さんもお母さんも青い顔だったから、きっと今、ちゃんと言わないと、怖いことになるって思って、一生懸命、どういうことか知らないこと、ジルがコンヤクハキとか言ったことも理解していないこと。全部話した。

 使者って人がいくつか質問したからそれも全部答えたら、本当に知らなかった事に納得してくれて。王様に話してくれるとは言ったけど、此処でお店は開けない。出て行ってくれ、と言われた。


 王様の命令に逆らったから、なんだって。


 そう言われても、私の所為じゃないのに。そう思ったことをちゃんと解ってくれた使者さんは、取り敢えず、国境まで向かうように言われた。

 それで家族みんなで荷物をまとめて使用人ともお別れして、荷馬車で国境に向かった。その間に朝になったんだけど。朝になったところで、馬が来て。そこに夜見た使者さんが乗ってて。


「国王陛下は、あなた方が何も知らなかった事を認められた。だが、国王陛下の命令に背いたという結果になったのは確かだ。もちろん、当事者の子爵子息は平民になったし、子爵も爵位返上して平民になった。だが、知らなかったとはいえ、加担したのは確かだから、国外追放なのは変わらない。但し、隣国の国王陛下に頼んで、受け入れてもらえるように取り計らうから、了承してもらったら隣国へ行き、今まで通り、暮らすように、と」


 王様の命令に逆らったから、国を出て行くのは変わらないらしい。でも、隣国の王様に受け入れてもらえるように話してくれるってことで、知らなかったことを考えてくれたんだって。


 それと。私が好きな彼は、向こうも私を好きでいてくれて、本当は結婚も考えてた。だから今回、隣国で結婚しても良いってことにもなったらしい。あと、彼のお父さんも一緒なんだって。


 使者さんは、本来ならこんなに良い待遇はしないが、巻き込まれた平民を助けるために。王様は、ここまでしてくれたらしい。

 普通は国外追放されても、隣国にお願いしないし、のたれ死んでも仕方ない、って事だと聞いてゾッとした。つまり、国外へ出るような重い罪だって事だから、らしい。


 ちゃんと、巻き込まれただけ。知らなかった。って言ってなかったら、家族で死んでたかもしれないって聞いて、怖くなった。幸運に感謝した。あと、彼と結婚出来る事も感謝した。


 そして、あれから3年。隣国の国境付近でまたお父さんがお店を出して。最初は上手くいかなかったけど、ようやく少しずつ、お客さんから評判をもらって、また家族全員で笑って暮らしてる。


 正直、ジルのことは、いまでも恨んでいるけど、噂だと平民になって、家族と離れ離れで1人で働いて暮らしてるらしいから、まぁスッキリしている。


 それよりも。私は、ジルが婚約破棄(ちゃんと意味を理解したよ)を言った、あの綺麗な女の子のことが心配なんだ。だって、あの子も、ただ巻き込まれただけのはずなのに、ジルと同じ貴族だからって、責任を取ったみたい。


 ーーお貴族様って、自分の責任でも無いのに、王様の命令に逆らうだけで、責任を取らないといけないなんて、大変だ。


 そう思った後。

 あの女の子が幸せになれますようにってお願いしとく。ジルはどうでもいいけど、女の子は巻き込まれて責任取るなんて、大変、だもんね。







お読み頂きまして、ありがとうございました。


次話は第五幕で1年半前(2)です。

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