表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

☆3

 しばらく行くうちに、お月さまを厚い雲がおおいはじめました。

 雲は強い風に吹かれて、どんどん大きくなっていきます。

 やがて、お月さまの姿は完全に見えなくなってしまいました。

 雨です。

 海面に叩きつけてくる雨の音が、水中をつらぬくみたいに伝わってきます。

 波が高くて、潮の流れも乱れてきて、うみほたるちゃんとチビほたるちゃんは、離れないようくっついているのがやっとです。

 そのとき。


 いちだんと高い波が、ふたりの体をひっくり返して、またもや乱暴にひっくり返しました。

 でも、波をおこしたものは、嵐ではありませんでした。

 ホホジロザメです。

 ホホジロザメは、それはそれは大きくて、全部でどれくらいの大きさなのか、見わたすこともできないくらいです。手当たり次第に相手におそいかかるので、海のみんなに恐れられています。

 ウツボもアカエイもこわかったけど、サメとはくらべものになりません。


 うみほたるちゃんは、すくみあがりました。悲鳴はこおりついてしまい、光ることさえできなくなってしまいました。

 もう、だめ。

 うみほたるちゃんは、ついに、こう思いました。

 なんとかがんばってきたけれど、もうだめ。わたしの力は、やっぱりここまで。

 ごめんね、チビちゃん。

 あなたを守ってあげられない。

 

 うみほたるちゃんは、チビほたるちゃんの小さな体を、思わずぎゅうっと抱きしめました。

 すると、チビちゃんの思いがけないあたたかさが、うみほたるちゃんの胸に伝わってきました。

 そのとき。

 あら?

 と、うみほたるちゃんは思いました。

                 

 ちょっと待って。

 こわくて動けないはずなのに、わたしはちゃんと、チビちゃんのことを抱きしめている。

 嵐の海のただなかで、頭上にいるのは、大きな乱暴者のホホジロザメ。

 そんなときでも、わたしの腕は力いっぱい、チビちゃんのことを抱いている。

 この力は、いったいなあに?

 こんな力が、どうして出るの?


 それはね。うみほたるちゃんが、おかあさんだから。

 おかあさんは、赤ちゃんをだっこするだけの力を、かならず持っているものだから。

 たしかに、ちっぽけなうみほたるちゃんの体では、こわいサメや大波に、かなうはずはありません。

 でも、大きなものにかなわなくても、小さなものを抱きしめるには、おかあさんの腕がちょうどいい。

 その証拠に、ぎゅうっとしてもらったチビちゃんは、ほっとした顔をしているではありませんか。


 自分の中のすてきな力に、やっと気づいたうみほたるちゃん。

 ちょっと元気がわいてきたので、気を取り直して、もう一度だけ考えてみることにしました。

 どうすれば、ふたりでおうちに帰れるかしら。どこに向かって、進んでいけばいいかしら?

 考えて。あきらめないで、やってみて。

 よし、こっち!


         ☆

            

 うみほたるちゃんたちが、めざしたところ。それはなんと、こわいサメの背びれのかげでした。

 そんなところに行ってしまって、大丈夫?

 きっと、大丈夫。どんなにサメに近づいたって、サメから見えさえしなければいいんですからね。

 ちっちゃなふたりだからこそ、できることかもしれません。


 サメからけして見えないように。荒れた波が、ほんのちょっと静まるときをのがさずに。流れにまかれないように。

 気をつけて、気をつけて。 

 やった。なんとかたどりつきました。


 黒くそびえる背びれの端っこを、うみほたるちゃんはつかみます。こわさをこらえて、必死になってつかみます。

 この背中にくっついていけば、もしかすると、おうちの方向に行けるかも。それが、うみほたるちゃんの考えついたことでした。

 ホホジロザメは、思ったとおり、嵐の中でも迷子になっていないようです。高い波もへっちゃらで、ゆうゆうと進んでいきます。

 うみほたるちゃんとチビほたるちゃんも、サメといっしょに進みます。

 ゆうゆうでも、へっちゃらでも、ありません。水の流れが激しくて、振り落とされてしまいそう。手がもぎ離されてしまいそうです。

 あ。いまごろになって、やっと体が光り出しました。


 嵐の海のまんなかで、サメの背びれにくっついた青い光が、星のように輝いています。

 明るい青と瑠璃色と、よく見ると星はふたつの光なのですが、重なりあってひとつになり、北極星みたいにまぶしく輝いています。

 と、その北極星が、ふいに流れ星に変わりました。

 波の間を、すごいいきおいで流れていきます。

 でも、流れていたって、青い輝きは消えません。

 むしろ、流れながら、どんどん明るさをましていくようです。

                


 がんばれ、うみほたるちゃん!



 負けるな、チビほたるちゃん!








         ☆








         ☆






         ☆

         


         ☆


         ☆




 うみほたるちゃん、うみほたるちゃん。


 なつかしい声に呼ばれた気がして、うみほたるちゃんは、目をあけました。

 すると、すぐ目の前に、会いたかったパパほたるくんの顔がありました。

 パパほたるくんのうしろには、たくさんの仲間たちの姿もあります。

 やさしくおだやかな波が、体を包みこんでいます。

 まあ、なんていい夢なのかしら。

 と、うみほたるちゃんは思いました。


 横を向いてみると、そこにいるのは、気持ちよさそうにねんねしているチビほたるちゃん。

 ますます、いい夢です。

 でも、ちょっとまって。

 これはもしかして。ひょっとすると……。

 そのとき。

 眠っていたチビほたるちゃんのおめめが、ふいにぱっちりとひらきました。

 そして、両手をあげて、うーんと大きなのびをすると、両足をパタパタ元気に動かしました。

 元気すぎて、うみほたるちゃんのおなかに、いきおいよく当たりました。


 いたっ!

 痛い、ということは、やっぱり。

 これは夢ではありません。

 いま浮かんでいるのは、帰りたかった、なつかしい浅瀬。

 聞こえてくるのは、子守歌みたいな波の音。風がはこんでくれるのは、大好きな磯のかおり。

 なんと、知らないうちに、ちゃんとおうちまでたどりついていたのです。

 それも、ふたりそろって。

 まあ……。

 と、うみほたるちゃんは思いました。

 もうだめだと思ったのに、わたしったら、やりとげたんだわ。


 「うみほたるちゃん」

 パパほたるくんが、にこにこしながら言いました。パパほたるくんはとってもうれしそうですが、その目は、海水がしみたみたいにうるんでいます。

 「よくがんばって帰ってきたね」

 「うん」

 うみほたるちゃんは、うなずきました。心の底から、うなずきました。

 パパほたるくんの笑顔は、いままでに見たどんな笑顔よりも、ずっとやさしく見えました。


 「チビほたるちゃん」

 パパほたるくんが、にこにこしながら言いました。うるんだ目から、涙のしずくが、ぽろんと落っこちていきます。

 「よくがんばって帰ってきたね」

 「バブー!」

 チビほたるちゃんが、答えました。

 チビほたるちゃんの声は、いままで聞いたどんな声よりも、ずっとたくましく聞こえました。


 それだけではありません。

 そばにいる仲間たちも、仲間たちの上にひろがる星空も、いつもより、ずっとずっとすてきに見えるのです。

 もしかしたら、前からそんなふうだったのに、うみほたるちゃんが気づかなかっただけなのかもしれません。


 パパほたるくんがさらに近づいて、ふたりのことを抱きよせてくれました。

 それを見て、海辺いっぱいに集まっていた仲間たちが、うれしそうに拍手しました。

 拍手といっしょに、みんないっせいに光りました。

 海辺にひろがる青い光が、そろってまたたいている様子は、まるで夜空にかかる天の川のようでした。



 よかったね、うみほたるちゃん。




           おしまい




お読みいただき、ありがとうございました。


私は未熟な母だったので、子どもたちが小さい頃は特に、荒海にもまれるような気分で子育てをしていました。

それでも当時のことを振り返ると、それなりに力が出ていたのではないかと思います。

そんな力の源を、童話のかたちとして残したいと思って書いたのが、このお話でした。

ちなみにいまでも未熟さに変わりはなく、残念ながら全然成長していません。でも幸い子どものほうが成長してくれたので、なんとか助かっている次第です。


そして「荒海で光る星」というのは、子育てに限ったことではなく、様々な事柄に当てはまると思っています。

誰もがみんな、嵐の中で輝ける星。ただ、それに気づいていないだけ。


すぐに星を見失ってしまう私自身のためにも、この文章をこちらに記しておくことにします。

重ねまして、どうもありがとうございました。



※みこと。様よりFAをいただきました※


挿絵(By みてみん) 


挿絵(By みてみん)


挿絵(By みてみん)



※たちばな はるか様よりFAをいただきました※


挿絵(By みてみん)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 母は強し、ですね。どんなに恐ろしい状況下でもしっかりと子どもを守ろうとする姿勢にはっとさせられました。 それにしてもうみほたるちゃんのビジュアルがかわいいです! こまのさんのイラストも、みこ…
[良い点] *´Å`)いや、コレはもしかしたら今まで出会ってきた童話作品のなかでも歴代最高峰、歴代最高と言ってイイものかもしれない。うみほたるちゃんが主人公として目覚めるそのポイントはその物語がしっか…
[一言] 良かったなぁうみほたるちゃん!!(´;ω;`) あなたはやりきったのです!! 立派なお母さんです!!(´;ω;`)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ