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夕闇と世界史


夕闇が囁いた

煙草でもどうですか

怖くなり駆け出した

目指す黒い深い闇


透明な心象

まき散らす日照

廻る空 ぐるり

狭義の世界史




オタクちゃんと歯磨き


 オタクちゃんは一日三回歯を磨きたい。でも、面倒臭くて、後回しにしたまま忘れてしまったりする。「歯磨きをサボると、歯が黄色くなったり、黒くなっちゃうよ!」どっぺるげんがぁが叱る。オタクちゃんは想像してみる。白い歯。黄色い歯。真っ黒な歯。いつか虹色の歯が欲しいなぁ。




ボールと弾


公園でキャッチボールをする。


ぱしん!

ミットにボールが吸い込まれる


ばりん!

ボロ家の窓にゴムのボールが叩き込まれる


ぱりん!

硝子と二人の笑いが弾ける




オタクちゃんと鏡


 鏡の中にオタクちゃんがいる。


「「こんにちは!」」

 オタクちゃんは挨拶する。

「「あなたは誰ですか?」」

 オタクちゃんは質問する。

「「どっちが本物ですか?」」

 オタクちゃんは首を傾げる。




オタクちゃんと蛍


 とっくに日の暮れた海沿いの道路を、車はスピードを上げ、第八世界へ向けて走り続けた。助手席から海を眺めていたが、単調な景色に退屈して、いつの間にかオタクちゃんは体を丸めて眠っていた。だいぶ時間が経って、薄く目を開けると、眼前に飛び込んできた情景にオタクちゃんは思わず息を呑んだ。

「どぶ、だ!」

 どっぺるげんがぁが運転する車は、一本の闇の街道を、ただ一心にひた走っていた。全景は黒く染まった杉林に覆われて、車の行く先はただ勾配だけがあった。どこからか轟々と凄まじい音がする。渓の岩に激流がぶつかって砕けているのだ。不気味な山間の道の中で、生きているのは二人だけのような気がした。昼間は気にもとめない樹木の群れが、夜になって化け物のように変身してみせたのだった。

「起きた?」

 どっぺるげんがぁがオタクちゃんの頭を優しく撫でる。

「ここはどこ?」

「第七世界の端っこ」

 どっぺるげんがぁは、なんでもないよこんなの、といった風に答えた。

 それでオタクちゃんは、ほんの少し安心して、車窓の外を恐る恐る眺めてみた。すると、じっとりとした暗い森に、仄かな光の点々を見つけた。

 なんだろう、あれ、とオタクちゃんは思った。どっぺるげんがぁの脇腹をつついて、行く手の光の群れを指さした。どっぺるげんがぁは目を細めて、

「あれは、蛍」

 呟くと、目じりに皺を寄せて笑った。

 どっぺるげんがぁは車のスピードを落とした。路肩に停車すると、車のライトを全て消した。

 すると、幻のように浮かぶ蛍が、樹海をほんのりと白く照らした。大きな闇の風景の中で、小さな光点が遠く浮かんでいるので、オタクちゃんにはそれが、どこまで進んでもたどり着けない、映画のスクリーンの中のような、どこか不可思議な空想に思えた。二人は遠い遠い気持ちになって、助手席から、ぼうっと蛍を見つめていた。

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