名探偵、クビになる
豪華客船ルガー号。
宇宙軍から払い下げの輸送機を改造した船ゆえ、対宇宙海賊の装備はばっちり。海賊も避けて通る、宇宙一安全な船!
そんな安心をウリにした船で連続殺人事件が起こり、七人もの客が死んでいた。
だがそれも解決を迎えるようだ。乗り合わせていた名探偵スグルが全乗客乗員をラウンジに集めて
「この事件は解決済みだ!」と叫んだのだ。
だが総勢千人を越す群衆だ。スグルの声は端まで届かない。
コホンと咳払いした名探偵は
「ルガー、私の声をスピーカーにのせてくれ」
と客船の頭脳、AIのルガーに頼んだ。
「承知致しました」と女性の声が答える。
この船は元軍用機だったため、搭載されているAIは最高級の性能だ。探偵の声だけを拾い、どの場所にいても同じ音量で聞こえるようにする。そんなことは朝飯前だ。
「んん」のどの調子を整える探偵。「この事件は解決済みだ!」
今度の決め台詞は全ての人の耳に届いた。みな口をつぐみ、段の上に立ってポーズを決めている名探偵を見た。
気を良くしたスグルは事件のあらましに始まり、犯人のトリック、推理の道程を事細かに話始めたのだった。
◇◇
名探偵の話はついにクライマックスを迎えた。彼は指をびしりと差し、叫んだ。
「この連続殺人事件の犯人はお前だ、船長!」
「ええっ!」名指しされた船長は飛び上がり、うろたえる。「私は犯人じゃない!」
「盗人たけだけしい!警備員、彼を拘束しろ」
わやわやと船長を中心に騒がしくなる。
「ちょっと待ったぁ!船長は犯人ではありません!」
突然ラウンジに響き渡る女性の声。
「スグル様が説明したトリックも推理も全て間違っています」
「その声はルガーか」船長が叫ぶ。「お前が推理した犯人は私ではないのだな。頼む、真犯人を皆に教えてやってくれ!」
「犯人は船客Xです」と告げたルガーは犯人の仕組んだトリックを淡々と説明した。
ガクリと床に膝をつくX。警備員たちはXを捕まえて、去っていった。
「見事な推理だったルガー。君こそが名探偵だ」満面の笑みを浮かべた船長が相棒を褒める。
「私に推理など必要ありません」とルガー。「元軍用機ですよ?私の腹の中で起きること全て、監視カメラをたとえオフにしていても、感知することができます。勿論、記録を出力することも可能です」
「……」
ラウンジは微妙な沈黙に包まれた。
この旅の終了と共に、豪華客船ルガー号はクビになった。
彼女は今や野良宇宙船となって、自由を満喫しているらしい。
お読み下さり、ありがとうございます。
捕捉。
・ルガーは自身の中で起こっていた殺人事件を認識していたけれど、人間たちが名探偵サトルの活躍を期待していたので忖度して黙っていた。
・船内が感知できるシステムは、敵に乗船された時用に搭載されていた。
◇◇
こちらの作品は、
神林長平 『敵は海賊』シリーズ 早川JA文庫
からインスパイアを受けています。
元軍用機で人工知能搭載、女性の声の豪華客船のルガー
↓
元軍用機でA級知性体、女性の声の海賊船カーリー・ドゥルガー
ファンの方で、もし不快に感じた方がいらっしゃたら、申し訳ありません。