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74.【告白のタイミング】 改

ブクマ、感想ありがとうございます。

 食事が終わり席を立ってトレーを返却口に持っていくと、洗い場にゲイルさんがいた。

「おっ、ユイさん、身体は大丈夫なのかい?」

 返却口に置いたトレーを下げながら、声を掛けてくれる。


「もう大丈夫です。ご心配おかけしました」

 私はペコリと頭を下げて、お詫びをした。


「竜太子様も、昨日はありがとうございました」

「どうして、ノアにお礼を言うの?」

 なんかお礼言われるようなこと、したのかな? 肩の上のノアを見ると、ノアも首を傾げている。



「俺らなんかの事を気にかけてもらえて、嬉しかったんだよ。俺は、竜太子様に惚れたね。俺は、こんな男になりたいねぇ。

 実力がありながらも(おご)らず、相手を気遣う優しさもあり、素直に自分の非を認め謝罪できる器の広さ。近寄り難い存在でありながら、俺達なんかと仲良くしたいと言って下さる誇り高き竜太子様。惚れるなって言う方が無理だろ。......あれ、これってユイさんそっくりだな」



「私そんな大層な者じゃありませんけど」


 思い切り苦笑いで答えると「あっ、ユイさんに惚れることはないんで、気にしないでくれ」とゲイルさんはレオさんの方を向いてそう言った。

 キャシーさんといい、ゲイルさんといい、今日はどうしたんだろう?


 頭の上から疑問符が消えない私を置き去りにして「ほら、行くぞ」と、先に歩き出したレオさん。食堂のドアの方へ向かうと、数人の騎士さんと目が合ったが、何故か皆に暖かい目で見られている気がした。

 なんだろう、この違和感は......。


「竜太子様、ユイさん、こんにちは」


 ドアの手前、明るいトーンで挨拶してくる騎士さんに『お疲れ、ヘンゲル』と、ノアが挨拶を返した。するとその若い騎士さんが興奮した様子で「竜太子様が、竜太子様が俺の名前覚えててくれたぁ」と叫び、今にも泣きそうな顔をした。いや、泣きそうというか、最早崩れ落ちそう。


「ノア、よくあの騎士さんの名前覚えてたね」

『全員、覚えてるよ』

 ノアの言葉にレオさんも驚いて振り向いた。


「ノアの記憶力舐めてました。ごめんなさい」

 なぜだかノアに謝ってしまう私。


『ユイは僕の事、いつまでも子供だって思い過ぎ。僕だって、色々考えてるんだから。ユイの幸せを一番考えてるのは、僕なんだからね』


 含みのある言葉を呟き食堂棟を出ると、ノアは何も言わずに大空に羽ばたいていった。少し雲の多い初冬の空、その中を黒い点にしか見えない高さまで登っていく。


「ノア、また大きくなったなぁ」

 呟くように言った私の言葉に「寂しいか?」そう問いかけてくるレオさん。


「そう......なのかも。私がいないとダメって言ってたノアが、色々な人と触れ合えるようになって、嬉しいのに、ちょっと寂しい」


 クルルルルルツ~♪

 歌うように鳴き声をあげ、楽しそうに飛び回るノアを見上げながら、私はいつの間にかレオさんの隣を歩いていた。




 図書室の机にお弁当と鞄を置き、防音の魔導具を起動させると私は、初等科向きの辞書を取りに本棚に向かった。前回目を通した辞書とは違うものが見たいと、私は本棚の上の方にある辞書に手を伸ばす。

 しかし、あと数㎝が届かない。


 辺りを見回してみたが、いつもなら置いてあるはずの踏み台もない。踏み台を探しに行くか、頑張って手を伸ばすか......。探すのがちょっとだけ面倒くさかった私は、後者を選んだ。思い切り背伸びをしても欲しい辞書までは、あと少し届かない。


 そう言えば、恋愛小説とか読んだら、こんなシーンよく出てくるよね。で、届かなかった本を取ってくれた人に、お礼を言うところから恋が始まるやつ。


 一人妄想を膨らませながら、やっぱり踏み台を持ってこようと考え直し、背伸びするのを諦めた私の上に影が出来た。上を見上げると、レオさんの顔が。


「これか?」


「はい、それです」

 上を見上げたままで、彼と目が合った。









──── 息が止まる。









 まさか、これがキャロルさんの言う目を閉じるタイミングなの!? ど、ど、どーすんのよ。瞑るの、瞑らないの!? 一瞬の間に頭の中で、天秤がグラグラ揺れる。


 しかしそんな私の緊張は無駄に終わり、レオさんにクスッと息を吐いて笑われた。その瞬間、私の顔がまた熱くなる。


 よ、よかったぁ。目、瞑らなくて。何一人で勘違いしてんだ、このおバカ!


 一人焦りながらレオさんから辞書を受け取ると、影が近づきおでこに小さくキスをされた。驚いて後ろに身を引くと、本棚にぶち当たって頭をぶつける。


「いったぁい」

「だい、じょうぶか?」

 レオさんは笑いを堪えられない様子で、クツクツと出る声を必死で抑えている。  


「レオさん、私の事からかうのやめて」

「からかってなんかない」

 彼はそう言って、私の後頭部を引き寄せながら撫でてくれた。抱きしめられるような格好になり、また焦る私。

「だから、こういうの、やめてください」


 私はちょっと怒りながら、彼から身体を離して席に戻った。席に座り赤い顔をして手でパタパタと仰ぐ私を、ノアがじっと見詰める。

 ノアは、どこまで気が付いているんだろう。頭のいいノアが気付かないなんてこと、あるのかな? 



 私が席に座ると、少ししてレオさんも戻って来た。辞書を広げる私の、隣の席に座る彼。やっぱり、キャロルさんの時より近い。


 彼にまで聞こえてしまいそうな程、バクバクと鳴り響く鼓動。赤い顔を見られないように、私は真っすぐ前だけを見て、辞書の文字を黒板に写していく。

 彼と視線を合わせないまま、発声練習を繰り返していると、文官さんに声を掛けられた。


「ユイ様、エイベル宰相から会議が長引いている為、もう少し待って頂けないかとの伝言を預かりました」


「わかりました。私はここで勉強をしているので、お気になさらないようお伝えください」  

 私の返答を聞き、文官さんは直ぐに踵を返して、図書室を後にした。


「宰相さん、何の話なんだろう」

 会いたいと言われた時から色々考えたが、思い当たる節がない。  


『ユイは素直に思った事を言えばいい。ユイはユイらしくだよ』

 ノアの言葉に、隣にいるレオさんも頷く。私らしいってなんだろう......。




 窓から差し込む陽だまりの中、ゆっくりした時間が流れるていると、突然私のお腹がキュルルと可愛くない音を立てた。


「......聞こえた?」


 慌ててお腹を押さえ、レオさんに目を向けると「気にするな」と一言言われた。しっかり、聞こえたみたい。食べることも仕事だとキャロルさんに言われたが、それでも好きな人にお腹の音を聞かれるのは、恥ずかしすぎる。


 机の上にお弁当を広げ、ノアに「食べる?」と問いかけたが返事がない。どうやら窓から差し込む陽だまりに誘われて、夢の中に行ってしまったらしい。


 しかし、どんなに食べてもたった三刻(三時間)でお腹が空くってどうなんだろ。こればっかりは仕方がないと諦めても、好きな人の隣で三人前はありそうなお弁当を食べる私って......どうなのよ。

 あっ そう言えば......。


「レオさん、飴食べる?」

「そうだな。一つ貰うよ」

 私が鞄から取り出した飴をポイッと口に入れた後、レオさんが低く頼りなさげな声で「聞いていいか?」と呟いた。


「なんでふか?」

「......ケントの事、どう思ってる?」

「へっ?」

 予期せぬ質問に、素っ頓狂な声が出た。


「ケントさん?」

「その......仲いい、みたいだから」

 レオさんは何を聞きたいんだろう?


「そりゃ友達でふから、仲はいいですよ。うん、強いて言うなら戦友って感じですね」

「戦友?」

「どうしてケントさんの事なんて聞くんですか?」

 彼の質問の意図が分からず、疑問を投げ返す。

「......その、いや、いいんだ。気にするな」


 気にするなと言われて、そうですかとなる訳がない。彼は困った顔をしながら、額に掛かる濃い紫の髪の毛をかき上げ、椅子に(もた)れながら天井を見上げた。


 私はお弁当を食べながら、ずっとその質問の意味を考えていた。食べ終わったお弁当を袋に収めながらも、まだ考えている。そう言えば前にもケントさんの事、聞かれたような気が......。


「まさか、私がケントさんの事好きだなんて思ってませんよね!?」

 思ったことがそのまま、口に出てしまった。

「......違うのか?」


「どこをどう取ったらそうなるんですか? 全く意味が分からないんですけど。えっ......なんで、そうなるの?」

 ちょっと呆れて言葉に詰まる。


「違うならいいんだ。そっか、違うのか」

 明らかにホッとした表情を見せる彼。私はお弁当箱を抱えるようにして顔を隠しながら、何度も聞こうとした言葉を押し出した。


「レオさん、私の事からかってるんですか?」

「からかってはない」

「じゃあ、ちょっと好き......だったりします?」

「すまない。答えられないんだ」

 答えられない? どうして?


 どういうことか分からない私は、その言葉の意味が知りたくて、顔だけをレオさんの方へ向けた。だけど光に透けアメジストのようにキラキラと輝くレオさんの髪に目を奪われ、言葉を紡ぐのを私はやめた。


 深い紫のレオさんの瞳は真っすぐに私を見つめ、伸ばされた手が私の頭を撫でる。指の腹の反対側で私の頬に優しく触れるレオさん。それが彼の答えのような気がした。


「あのね、レオさん......」

 想いを伝える覚悟を決め、ゆっくりと身体を起こした私。












 の、名前を呼ぶ文官さん。


「ユイ様」





「はい!!」


 びっくりし過ぎて、小学生のような返事をしてしまい、文官さんも驚いている。なんで、このタイミングなんだろう......。


「会議が終わりましたので、宰相のお部屋まで御同行願えますか!?」

 文官さんに声を掛けられるまで、完全に宰相さんの事を忘れていた私達は、思い切り苦笑いをした。


 あ~ぁ、絶対に今がその時だったよね!?





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