6.【なんだこの男は】 改
夜七時過ぎ、夕食のトレーを片付けに来てくれたキャロラインさんに、私は思い切って副隊長さんに会えないかと問いかけてみた。
「今日危ない所を助けていただいたのに、きちんとお礼を言えてないのでお礼が言いたいんです」
私の言葉を聞いたキャロラインさんは「確認してきますね」と言って部屋を出ていき、その後すぐに戻ってきた。
「お会いになられるそうです。副隊長の部屋へどうぞ」
私が立ち上がると、そのまま隊長さんの向かいの部屋に案内をしてくれたキャロラインさん。部屋に入ると副隊長さんは、執務机の前のソファーに向けて手を差し出しながら「どうぞ」と私を促した。
「キャロルお茶を頼む」
副隊長さんにそう言われたキャロラインさんは、部屋のドアを開けたまま出ていった。
この世界のマナーなのかな? もしかしたら私に、気を使ってくれたのかもしれない。
ソファーに腰を下ろし、立ったままの私にもう一度「どうぞお掛けください」と促す副隊長さん。しかし私は「今日は助けてくだりありがとうございました」とその場で深々と頭をさげてお礼を言った。
「すぐにキャロラインがお茶を運んできますので、どうぞ」
そう言って優しく微笑む副隊長さんを見て、私は恥ずかしくなって俯いてしまった。副隊長さんは髪と目が黒に近い深い紫色をしており、誰がどう見ても間違いのないイケメンだったのだ。
目に少し掛かった前髪はサラサラで、切れ長の目はハッキリとした二重、少し細めの眉に綺麗な筋の通った鼻、そして薄紅色の唇。纏った雰囲気はちょっと近寄りがたいのに、色気はダダ漏れ。身長は185cm以上はありそうな感じで、とにかく足が長くてスタイル抜群。元の世界の芸能人でもこんなイケメン見たことない。......なんだこの人。
いや、さっき会ったんですけどね。その時はほら、色々精神的に不安定で彼の顔をマジマジ見る余裕なんて、なかったんですよ。だから副隊長さんが、ここまでのイケメンだなんて、全く気付かなくて。
しかも私はこのイケメンに『これ以上ないブサイク』な顔をお見せした訳ですよ。
なんてこった......。私は心の中で大きな溜息をつきながら、副隊長さんの向かいのソファーに座った。
「お礼を言うのが遅くなってごめんなさい」
「気にする必要はありません。あの状況では仕方無いですよ。それより少しは落ち着きましたか?」
「ここに来た時よりは」
「今日は早く休まれた方がいいですね。それより何故、ずっと下を向いているんですか?」
「......恥ずかしくて」
「恥ずかしい?......なぜですか?」
言い淀む私に、その先を催促する副隊長さん。
「さっき鏡を見たとき、顔も髪もぐちゃぐちゃで自分でもびっくりして。あんな......ブサイクな顔、見られたのかと思ったら、ちょっと......」
私がそう言った所で、キャロラインさんがルフィナ茶を持って部屋に戻ってきた。
「そんなに気することでしょうか?」
副隊長さんの言葉に「副隊長、女性にその言い方は失礼です」とカップをテーブルに置きながら、キャロラインさんがちょっと怒っている。
「なにがいけないんだ?」
「女性なんだから気にして当たり前です。ユイ様は騎士団のむさ苦しい男達とは違うんです」
「......そうか」
「ホント騎士団の男は、女心が分かってないです」
「分かったもういい。キャロル、お前は黙っていろ」
二人のやり取りが面白く私が思わずクスクスと笑うと、副隊長さんはばつが悪そうに、頬を掻いて苦笑いを浮かべていた。副隊長さん、普段はこんな話し方なんだね。
その後キャロラインさんが部屋を出ていくと、副隊長さんは立ち上がり、執務机の上に置いてあった大きな袋を私に差し出した。思い当たる節がない私は首を傾げながら受け取ると、袋の中身を確認した。
「あたしの靴と鞄」
「やはりそうでしたか。部下が見つけて届けてくれたんです。後でキャロラインに届けさせるつもりでした」
「ありがとうございます」
袋の中にある鞄を取り出すと、私は直ぐに中身を確認した。
最初に手にしたのはスマホで、待受画面に映し出された有希と一緒に写った写真を見て、私は思わず唇を噛み締めた。帰りたい。有希に会いたい。堪えていた涙が、また込み上げてくる。
写真アプリを開き、今まで撮り溜めた写真をスライドしていく。私の為にと、三人で一緒に行った縁結び神社。私の誕生日に、三人で行ったネズミの国。お揃いでグッズTシャツを着た、大好きなミュージシャンのライブ。三人で一緒に歌って踊った、カラオケの動画まで出てきた。
こうやって見ると、あたし二人の邪魔してばっかり。
我慢していた涙は、ついに溢れ出した。一度流れ始めた涙は止まることを知らないかのように、頬を伝っていく。
「ごめん......なさい」
親しくもない今日初めて会った女性に泣かれ、困っているであろう彼に向けて、何とか言葉を搾り出した。静かに立ち上がり黙って私の隣に座ると、白いハンカチを手渡してくれた副隊長さん。
その優しさに、益々涙が溢れてくる。彼は暫くの間、ただ黙って私の涙が落ち着くのを隣で待っていてくれた。
ルフィナ茶が冷めきるのに、充分な時間が流れた。私は熱を失ったルフィナ茶を一口飲むと、顔を上げて「もう大丈夫です。ご迷惑をお掛けしました」と精一杯の作り笑いをしてみせた。
「無理して笑う必要はありません。泣きたい時は泣いたらいいんです」
「いえ、もう泣きません。これ以上、副隊長さんにブサイクな顔見せられないので」
私がそう言ってもう一度微笑むと「そうですか」と、副隊長さんはクスっと鼻で笑って、柔らかい笑顔を私に向けてくれた。
その後、私が手にしているスマホに興味を持った副隊長さんに「これはなんですか?」と問われた。
私が有希と一緒に写った写真を見せると「これは絵ですか?」と聞かれたり、大好きなミュージシャンの歌を聴かせると「聞いたことない音楽ですね」とか「不思議ですね。仕組みがわかりません」とか目を白黒させながら、副隊長さんは次々と質問をしてきた。
ちょっと子供みたいにワクワクした様子の副隊長さんを見て、可愛いと思ってしまったのはココだけの話。
それから私は有希と健太の写真を見せながら、二人に会いたいから帰りたいってことや、歌を歌うのが大好きなことや、将来保育士になるのが夢で短大に行っていたことなど、とにかく色々な事を話した。
口数は少ないながらも、時々優しく微笑みながら私の話をずっと聞いてくれた副隊長さん。
多分私は一人になるのが怖かったんだと思う。ただただ誰かに、話を聞いてもらいたかったんだ。
その後私が自分の部屋に戻った時のは、夜九時を過ぎてからだった。
読んでいただきありがとうございます。
書き進めていくごとに、自分のボキャ貧を嘆いております。
もっと勉強しておけばよかった。
辻褄が合わなくなることのないよう考えてはいるのですが、お話を書くってこんなに難しいのかと...。
書き始めたことを、ちょっと後悔しつつも頑張りたいと思います。
少しでも面白いと思っていただけた方はブクマ、評価お願い致します。