表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/133

53.【聞き逃した言葉】 改

 寂しい気持ちを精一杯の作り笑顔で隠す私に、レオさんは「次までには、もう少し上手くなっておくよ」と。


「遠慮はしないでくれ。気を使われるのは......寂しい」


 ぽつり呟くように言った『寂しい』の言葉。それは私が感じた寂しさとは、きっと違うのだろう。もっと近づきたいのに近づけない。もどかしさが合わさった寂しさを、私は初めて知った。


「レオさんが疲れていない時に、お願いしてもいい?」

「それなら、こんな交換条件はどうだ? スマホに充電する間、ユイさんのピアノを聞かせて欲しい。それなら、俺は喜んで引き受けるよ」


「そんなことでいいの?」

「充分だ」

 彼と同じ時間を共有出来ると思うと、自然と笑みが溢れそうになる。

「それじゃあ、またお願いします」


 好きの気持ちを隠して頭を下げた時、レオさんの部屋のドアがノックされ「俺だ。今少しいいか?」と隊長さんの声が聞こえた。了承の言葉を聞いて部屋に入ってきた隊長さんと挨拶を交わし、話の邪魔になるから部屋に戻ろうとすると「ユイ様もご一緒に」と言われ戸惑った。


「二人の声が聞こえたので、丁度いいと思って来んだ。遅くなったが、アンフィスバエナの件で報告がある」


 眉間に皺を寄せ難しそうな顔をする隊長さんを見て、それがいい話でないのは直ぐに分かった。


 あの巨大な双頭の蛇は、この国から馬車で一ヶ月もかかる遠い砂漠に生息する魔物で、この国には30回以上の転移を繰り返して送り込まれたことが、分かったらしい。こちらを(あざむ)く意図で30回以上もの転移を繰り返したようで、この国の魔導師を馬鹿にするなと隊長さんは憤慨している。


 あれだけの魔物と契約出来る実力を持った魔導師は、この世界でも多くはないらしく、黒尽くめの男は隣国のカサンドラ帝国の魔導師だと推測された。決定的な証拠がない為推測にはなるが、ほぼ間違いないらしい。


 帝国軍は表立った戦争の準備をしている様子はなく、まずはこの国を弱体化させる事を目的として、ノアを攻撃したのだろうと言われた。


 そして、今後も警戒を続けていく必要があり、王城内であっても絶対にノアと私が離れる事がないようにと念押しされたのだが、甘えん坊のノアが私から離れること自体考えられない。ノアは私と一緒にいれば竜王の結界で守られるため、簡単には攻撃を受けることはない。


 私達が受ける可能性があるとすれば、魔方陣による転移と呪い。しかしそれは隊長さんさえも知らない極秘情報で、このことを知っているのは私とレオさんを入れても五人しかいない。


 魔法陣がどんな風に作られるとか、私には詳しいことはわからないが、街に下りるなら護衛の騎士と離れるなと言われた。


 離れるなとは『直ぐに手が届く範囲で行動しろ』という意味だと言われ、手を繋いで離さない事が最善という隊長さんの言葉を聞いて、私はその役目はレオさんかキャロルさんにお願いしたいと申し出た。


 二人以外の騎士さんとずっと手を繋ぐなんて、考えただけでも気まずくて仕方がない。

 隊長さんは快諾をしてくれ、私は次に街に行く時は、レオさんにお願いしようと、密かに心に決めたのだ。


 話が終わり一度はソファーを立った隊長さんが、少しの間を空けた後、もう一度座り直した。

「レオ、お前に確認することがある」


 レオさんに対して貴族との縁談や養子縁組の話が以前よりも多く来ていると、重い口で話し始めた隊長さん。縁談が増えたのは、レオさんが最近女性と噂になっていることが原因だろうと言う隊長さんに「なぜ関係がある」とレオさんは不機嫌を隠さずに問いかけた。


 一つは、レオさんとその女性が親密になる前に手を打とうと、貴族が焦っている事。


 二つ目は、彼が女性に対して柔軟な態度をとるようになったことで、縁談に希望を持ったのではないかという事。


 その話を聞き、私はその場に居るべきではないと判断し、部屋に戻ろうと決めた。

「部外者の私が居ない方がいいですよね!? 部屋に戻りますね」


 ノアを連れて立ち上がろうとした私に「部外者?」と隊長さんは眉間の皺を深くして「ユイ様は部外者ではありませんよ」と口にした。意味が分からず戸惑う私に「ユイ様は噂を知らないのですか?」と問いかける隊長さん。


「レオさんと噂になってる女性がいるのは、聞きましたけど......」

「それ、ユイ様のことですよ?」

 青天の霹靂とはこのことだろう。


「えっ? えぇぇぇぇ~!!!!!! 私なの!?」

「逆に誰だと思ったんだよ」


 隣で大きな溜息をつくレオさんに「そんな人がいるのかなぁ......と」そう答えると「そんな人がいたら、願いの紐を受け取ったりはしない」彼ははっきりと口にした。

 言葉にならないほど、ホッとした。もしかしたら、いつか彼にこの気持ちを伝えることが出来るのかもしれない。そう思ったのに......。


「ユイさんの事は関係なく、これからも貴族との縁談も養子縁組も受ける気はありません。貴族の駒になる気はないし、好きでもない女性とお付き合いする気もない」 

 レオさんは改めて、誰とも付き合わないし、結婚もしないと隊長さんに宣言をした。


「もし、陛下に結婚を命ぜられたら、お前はどうする?」

 思いもよらない隊長さんの言葉に、私の胸がぎゅっと苦しくなった。


 騎士にとって国王陛下の命令は絶対だと聞いた。もし国王陛下に命ぜられたら、いくらレオさんでも縁談を受けるしかないのだろうと、諦めの気持ちが湧き上がってきた時「その時は騎士を辞めます」レオさんは予想だにしない言葉を隊長さんにはっきりと告げた。


 レオさんの顔を微動だにせず見つめていた隊長さんは、ふっと笑みを漏らせ「お前の気持ちは分かった」と言って両手で膝を叩いて勢い良く立ち上がった。


「心配するな。お前が騎士を辞めるなんてありえん。そんなこと俺がさせん」


 隊長さんの言葉は大げさではないのだろう。ざくろのような色の瞳で優しくレオさんを見る隊長さんは、なんだか息子を見る父親のようだ。


 そして隊長さんが部屋を出ていき、私もそろそろ部屋に戻ろうと立ち上がるとレオさんが「ユイさん、もう一度はっきり言っておく。俺は他の(●●)女性と、付き合うことも結婚することも絶対しない。それだけは覚えておいて欲しい」そう言った。


 その瞬間、私の思いは絶対にレオさんに届くことはないんだと、胸が潰れるような悲しみに包まれた。


気が付いたばかりの初恋には、ハッピーエンドはないんだと悟り、部屋に帰って充電してもらったばかりのスマホを握り締め、声を押し殺して枕を濡らした。




 そう、馬鹿な私は、一番大事な言葉を聞き漏らし、勝手に一人失恋したと思い込んでしまったのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ