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50.【二つの石】 改

誤字報告、評価、ブクマありがとうございます。

 お店を出ると「買い物はこれで終わり?」と問いかけてくるキャロルさんの顔を、私は黙って見つめた。自分では何がいいのか分からない。だけど聞くのはちょっと恥ずかしい。


 モジモジという言葉が浮かんできそうな態度の私を見て、何かを察したのか二コルズさんが「少し離れて貰っても?」とマードックさんに声を掛けてくれた。マードックさんはちょっと怪訝そうな顔をしたけど、私達から少し離れて周りを警戒するようにして目を逸らせてくれた。


「あのね、レオさんに服のお礼をしたいんだけど、何を買っていいのかわからないの。邪魔にならない物で、出来れば使えるものがいいかな......って」


「あぁ、あの服ね」

 キャロルさんは、お揃いにみえる服を着た私達を思い出したのか、口元を緩め私の顔を見てきた。


『あいつに何で買うんだよ』

 腕に抱っこしているノアが思い切り不機嫌な声で文句を言い、私はノアの頭を撫でてご機嫌を取りながら話を続けた。

 

「クラネル卿って『願いの紐』はされているの?」

 二コルズさんの言葉に「してるところ見たことないですね」と答えるキャロルさん。


「それなら『願いの紐』がよろしいのではないでしょうか!? 騎士は付けている人も多いですし。ただ彼が受け取るのかは、わかりませんが」


「ニコルズ卿、それならご心配には及びません。全く問題ありません」

 そう言って、キャロルさんが太鼓判を押してくれた。 


 願いの紐というのは家族や親しい友人が、健康などの願いを込めて贈るものらしく、天然石と大蜘蛛の糸で作られた丈夫な紐だと言う。日本でいう数珠ブレスレットみたいなものかな?


「私それがいいです。レオさんにそれ贈りたいです」

 魔物討伐という、いつ何があってもおかしくない仕事をする彼に贈るには、これ以上ない物のように思えた。


「それでは、私がジェイクに贈った『願いの紐』を買ったお店を紹介いたしますね」


 ニコルズさんはそう言って、私とキャロルさんの少し前を歩いてお店に案内してくれた。マードックさんは少し距離を開けたまま、後ろを付いてきてくれている。





『願いの紐』の専門店は10畳程しかない小さなお店で、紐は光沢のあるシルクのような肌触りのグレーの糸を、組紐のように編んだものだった。


 大蜘蛛の糸はとても丈夫だが、染色することが出来ないらしく、色は薄いグレーのみ。染めにくい分、汚れにくいという利点もあるとか。


 個性はその糸につける天然石で表す為、石の種類は豊富で値段はぴんきり。付ける石の数は基本両端に1個ずつの計2個。人気があるのは健康、お金、恋愛に関する石なのは、日本とよく似ている。


 天然石にはそれぞれ意味があるのだけれど、添えられた説明文を理解出来ない私は、一通り石を見て回ることにした。会話は自動翻訳されて理解出来るけれど、文字は翻訳されないのが残念。


 彼に似合う石を探し一つ一つを見ていると、光に照らされた時の彼のキラキラした髪の毛を思い出させる、アメジストを見つけた。レオさんみたいな色。


 手にした多面で丸く加工された石は、私の掌の上で、窓からの光を反射して、より一層透明感を増し輝いた。この石以上にレオさんに似合う物はない気がして、一つはすぐに決まった。


「あの......もう一つは、彼が無事に帰ってくる事を願った石にしたいんだけど、オススメはありますか?」

 私がそう言うと店員さんは「この辺の天然石がそうですね」と教えてくれた。


「これなんかは、騎士さんに贈られる方が多いですね」

 そう言って差し出されたのは、黒くて丸いツルツルとした石。


「命のお守り、と言われる石なんですよ」

 その石の意味を聞いて、私は即決した。


「それにします。それがいいです」

 しかし私が選んだ二つの石を見て、キャロルさんとニコルズさんが顔を見合わせて「本当にそれでいいの?」と聞いてきた。


『彼を連想させる石』と『命のお守りと言われる石』

 私にはこれ以上の組み合わせはないと思えたのだが、何かいけないのだろうか?


「ダメかな? 縁起悪いの?」

 不安になって、問いかけた。


「そうね、きっと副隊長は喜ぶと思うな」

「......ラッセル卿、本当にいいのかしら?」

「全く問題ないです」

 二人の言葉に違和感は感じたが、縁起が悪いものでないのならそれでいいと、私は購入を決めた。


『僕は気に入らない』

 ずっと拗ねたままのノアの言葉は、もう無視することにした。


 紐は、手首か足首に巻くことが多いらしい。騎士さんは剣を扱うため、手首に巻くことを嫌うと聞いて、足首に巻けるサイズにしてもらった。


 石の値段を見ずに決めたのだが、服のお礼に丁度いいくらいの金額にはなった。レオさん、喜んでくれたらいいな。




 帰りの馬車の中では、三人での女子トークが繰り広げられ、マードックさんは少し居心地が悪そう。ノアは私の膝の上で、ウトウトしている。


「ニコルズさん、マードックさん、今日はありがとうございました。おかげでノアと一緒に、楽しくお買い物が出来ました。特にニコルズさんには感謝しています。素敵なアドバイス、ありがとうございました」


 いつものように頭を下げると、マードックさんはまた怪訝そうな顔をしたが、何かを言うことはなかった。


「お役に立てて良かったです。ただ......心配ではありますが」

「心配ですか?」


 意味が分からない私の隣でキャロルさんが「ニコルズ卿のご心配はわかります。彼が受け取るのか? と心配しているんですよね。大丈夫です。きっと二コルズ卿の知ってる彼ではありません」と言い切った。


「レオさん、受け取ってくれないかもしれないの?」

「ユイさん、それは絶対にありえないから大丈夫」


 彼が受け取らない可能性など、微塵も考えていなかった私に、キャロルさんは「絶対喜んでくれるから」と言ってくれた。


「まぁ、ラッセル卿が大丈夫と言うのなら、そうなのでしょうが、女性に優しく接しているクラネルなんて想像出来ないわ」


 ニコルズさんは思わずといった感じで言ってしまったようで、マードックさんに「余計なことを言うな」と怒られていた。 


 話を聞けばニコルズさんは、レオさんウイルさんと騎士養成学校からの同期で、女性に冷たかった頃の彼のこともよく知っているらしい。


 色々な人から聞く、女性に対して冷たいレオさんを、私はどうしても想像出来ない。優しいレオさんしか知らない私には、ただただ不思議でしかない。




 馬車が宿舎に到着し外から扉が開けられると、そこには居るはずのないレオさんが待っていてくれた。


「レオさん、どうしたの?」

「今日は早く討伐が終わったんだ。丁度馬車が帰ってくるのが見えたから、待ってた」


 レオさんはそう言って右手を差し出して、ノアを抱っこして馬車から下りる私をエスコートしてくれた。


「街は楽しかったか?」

「はい、とっても楽しい買い物が出来ました。楽しすぎて買い物しすぎちゃった」


 私がそう言って馬車の中にあるたくさんの荷物を指さすと、レオさんは笑顔を見せながら「本当に楽しかったんだな。重そうだから俺が運ぶよ」と言ってくれた。


 近くにいる部下の騎士さんと一緒に、私が購入した荷物を部屋に運んでいく行くレオさん。その様子を唖然とした顔で見ているニコルズさんに気が付き話しかけると「ラッセル卿、あれは誰? あんなの私の知ってるクラネルじゃない」と彼女は言い「だから、そう言ったじゃないですか」とキャロルさんが笑いながら言葉を返した。


「あれは誰よ。あんなニコニコする奴じゃないでしょ。気持ち悪いんだけど~!!」

 ニコルズさんは完全に素になっているようで、パニックになっていると言っても過言ではない。


「ユイさんには、ずっとアレなんです」

「......」今度は言葉を失ってしまった。


「昔のレオさんは知りませんけど、今のレオさんはとっても優しいです。レオさんのあの笑顔、とっても可愛いと思いません?」


 心から出た私の言葉は「「それは絶対ない」」二人に揃って否定されたけど、なんでだろう?

『可愛いくなんかない』しかも、ノアの否定の言葉まで聞こえた。 


 私にとってあの笑顔は、可愛いとしか言いようがないのにな。 







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