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49.【揃いの紅】 改

誤字報告ありがとうございます。

本当に助かっております。

 ルフィナ茶を飲み終わり立ち上がった私達に、さっきの子供達が駆け寄ってくる。

「お姉ちゃん、遊ぼう」


「ごめんね。まだこれから行くところがあるんだ。次来た時は必ず遊ぼうね」

 悲しげな表情を見せる子供達の頭をそっと撫でると、私の顔を見上げクリクリとした子犬のような瞳で見つめられた。


「絶対に遊んでくれる?」

 憂色を浮かべた表情に少し胸が痛む。


「うん。絶対ね」

 私はそう言って、当たり前のように右手の小指を差し出した。

「なにそれ?」コテンと傾げた首が可愛い。


「あっ、指きりげんまん知らないのか。あのね。これは約束は絶対に守るよっていう証だよ」


 私はそう言ってロイくんの右手を取り、小指を絡めて「指切りげんまん、嘘ついたら(針千本はダメだな)お尻ペンペンす~るぞ♪ 指切った」と歌って指切りをした。


「何それ、変なの~!!」

 先程の憂色は影を潜め、無邪気な笑顔を見せて飛び跳ねている子供達。


「お姉ちゃんの国では、子供はこうやって友達との約束するんだよ」と言うと「僕もやる~!!」と他の子供達も私と指きりすると言ってくれた。彼らと指切りを交しながら、次は時間に余裕を持って来ると心の中で誓った。


「じゃあ、竜太子様もバイバイね」


 満面の笑顔で手を振る子供達と別れた後、店舗が立ち並ぶ通りへと向かう途中で馬車に立ち寄り、パンパンに膨れ上がった紙袋を乗せてもらった。内心いつ紙袋が破れるのかと、ヒヤヒヤしていたのでホッとした。


「次はキャロルさんとお揃いのモノを買いに行きたいな」

 そう言うとキャロルさんは「じゃあ、私の欲しい物でもいい?」と言って、私の手を引いて街の一角にある小さな化粧品屋さんに入った。


「色違いで口紅が欲しいな。ユイさん、言ってたでしょ『自分に自信がない』って。

 だけど口紅一つで気持ちって変わるでしょ? この世界に来た時、ユイさんお化粧してたじゃない。それにこれ使ったら、私にも新しい出会いあるかるかもしれないでしょ?」


 私の言葉を真剣に受け止め考えてくれたキャロルさんの優しさに、私の胸の奥が温かくなる。


「キャロルさん、ありがとう。でも、こんな安い物でいいのかな」

 どう考えてもワンピースのお礼としては、釣り合いが取れない。


「金額じゃないの。ユイさんとお揃いなのがいいんだよ」

「ねぇ、キャロルさん。一つ聞いていい?」

 私は前から気になっていた事を、口にしてみた。


「新しい出会いって言うか、新しい恋? それって年下の騎士さんが相手だったりする?」

 図星を突かれたのか、キャロルさんは一気に顔を赤くして「なんで?」と焦ったように問い返してきた。


「前、話を聞いた時は気付かなかったんだけど『一人だけ騎士団で、私を女性扱いしてくれる子がいる』って言ってたよね。年上や同期の人を『子』とは言わないよね。もしかして、その人の為だったりする?」


「そ、そんな事覚えてるの?」

「そして、それはケントさん!」

 キャロルさんは露草色の瞳を見開いて、口をパクパクさせている。


「なんで!?」

 どうやら私の勘は間違っていなかったようだ。

「あれから、じっくり観察したんだよね。そしたら、わかっちゃった」


 ケントさんは男性ばかりの騎士団の中でも、比較的華奢な体型の男性で、私と同い年の二十歳。キャロルさんより五歳年下になる若手騎士。


 彼は大雑把で無骨な男性が多い騎士団では珍しく、紳士的な対応をしてくれる男性で、食堂の入口で会った時には必ず、扉を開けて待っててくれたりする優しい人。それは私だけにではなく、他の女性騎士さんに対しても同じで、女性全員に分け隔てなく接しているのが目についた。


「私に特別優しい訳じゃないのは、わかってるんだけどね」

 キャロルさんはそう言って、手にしている口紅のケースの蓋を、開けたり閉めたりしている。


 実は先日ケントさんとこっそり話して、キャロルさんへの恋心は確認済みなのだ。もっと自分に自信が持てるようになったら、自分で思いを伝えたいと言っていたから、私は彼をこっそり応援すると決めた。


 彼の気持ちを知っている私としては、それを教えてあげたい気持ちになったが、私が言うのは約束違反になるのでやらない。


「なんか身近で手を打ったみたいだよね」


 キャロルさんがちょっと照れたように頬を染めて呟くと「それって私達の事言ってるのかしら?」とニコルズさんが、ちょっとムッとした顔で声を掛けてくる。その言葉の意味が分からない私に「ニコルズ卿の婚約者は、マードック副隊長なんですよ」とキャロルさんが教えてくれた。


「え~!!!!」

「そんなに驚くことでしょうか?」と、ニコルズさんは片方の眉だけをぴくりと動かした。

「いや......あの」


 頭の中に仏頂面のマードックさんが浮かび、私は思わず笑みを漏らせてしまった。「いけませんか?」と真顔で問いかけるニコルズさんに「笑ったりしてごめんなさい。愛を囁くマードックさんを想像したら可笑しくて」と言ってしまった。


「案外、可愛いんですよ」とニコルズさんはニコリと微笑んで「私にしか見せませんけど」と思い切り惚気を口にした後「申し訳ありません」と頭を下げた。


「お幸せなんですね。羨ましいです」

「はい。誰にも負けないくらいには」

 私の言葉に答えるニコルズさんは本当に幸せそうに、柔らかい笑みを見せてくれた。


「あ~!! もう、羨ましいよ~。ユイさ~ん」

 キャロルさんはその場で地団駄を踏んでいる。


「その為には、女性ということを意識させるのが一番ですよ」

 実体験に基づくニコルズさんの言葉は、私達を納得させるには充分だった。


「よし、これに決めた」

 そう言ってキャロルさんは、手の平にすっぽり収まるサイズの陶器で出来た丸い入れ物に入った口紅を選んで「これでお願いします」と私に手渡してきた。


「キャロルさん可愛い」

「何言ってるの。ユイさんもお揃いで使うんだよ」

 あっ......そうだった。


「副隊長のこと関係なく、一緒におしゃれしよう。私一人じゃ恥ずかしいでしょ」

 キャロルさんの言葉に頷くと、私は彼女が選んだ物より、少し色の柔らかな口紅を選んで購入し、二人で買ったばかりの口紅をさすことにした。


 鏡の前、二人並んで小指に付けた口紅を唇に薄く引いてみると、顔に赤みがさしほんの少しだけ可愛くなれた気がした。


「二人共似合ってますよ。これで女性扱いしない男なら、こっちからお断りすればいいわ」

 ニコルズさんはそう言って「可愛いですよ。二人共」と頼れるお姉さんのような表情で私達を応援してくれた。  


 これで少しは自分に自信持てるようになれるかな?





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