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47.【ベニモモ】 改

 お店を出るとそこには人だかりはなく、前回と同じような日常の風景がそこにあった。


「もう騒がれることはありません。ご安心ください」


 マードックさんの言葉で、ノアが普段の街の様子を見れるように、私が気兼ねなく買い物出来るように、宮廷が色々な配慮してくれているの事に気付き、感謝の気持ちでいっぱいになった。


「私達の為にありがとうございます」


 そう言って頭を下げると「ユイ様、頭を下げるのは止めてください」と言われた。以前レオさんにも言われたが、私はそれをやめるつもりはない。


「お礼を言う時の習慣なので、やめれないですね」


 私がそう言うとマードックさんは困った顔をして、頭をポリポリとかき「ユイ様に頭を下げられると、私が困るんです」と言われた。しかし「気にしないで下さい。私自身は平民なので。偉いのはノアだけですよ」と言って、私はキャロルさんと一緒に石畳の大通りを歩きだした。


 私とキャロルさんの後ろを、付かず離れずの距離を守りながら歩くマードックさんとニコルズさん。

「ノア、どこ行きたい? 何か見たいものある?」

 ノアにとっては退屈だった洋服店から出ると、私は肩に乗るノアの希望を訊ねた。


『美味しいもの食べたい』

「ノアは食べなくても成長できるのに、食べること好きだね」

 ノアの成長には私の魔力があれば充分なのだが、どうやら彼は食べることに興味をもったらしい。 


『だって、いつもユイが美味しそうに食べてるから』

「それって私が食いしん坊みたいね」


 私が沢山食べるのはノアの為なのにひどい! と怒ろうと思ったら『ユイはいつも幸せそうに食べてる』と言われ、否定できなくなってしまった。


「だってクックさんの作る料理、いつも美味しいんだもん。食事が口に合わないのって本当に辛いから、転移したのがこの国で本当良かった」

 心の中からしみじみと出た言葉に「そう言ってくれて嬉しい」と隣でキャロルさんが軽やかな笑顔を見せた。


 


 マルシェの行われている西の広場に私達が到着すると、広場は静まり返り、遠巻きにしながらも沢山の人の視線が集まった。しかしマードックさんが手を上げると、こちらに向いていた視線は分散し、いつもの賑やかさを取り戻す。


「マードックさんって凄いね」

「そりゃ、近衛隊の副隊長ですからね」


 そんな凄い人が私の護衛についてくれているのかと驚き振り向くと、マードックさんはさも当たり前と言うような表情で、私の後ろに立っていた。


「ユイ様どうかされましたか?」

 少し驚いたようにマードックさんが問いかけてくる。


「人ごみの中に入ってもいいですか?」

「大丈夫ですが、離れないようにお願いします」

 彼にそう言われて、私はキャロルさんに手を差し出した。


「手繋いでもいい? 私すぐはぐれちゃうの」

 前回のことを反省し、少し恥ずかしかったが彼女に手を繋ぐことをお願いしてみた。背に腹は変えられない。


「前回副隊長に怒られたらしいですね」

「うっ......それを言われると」

 くすっと笑いながら私の手を取るキャロルさんに「ユイさんの手小さいね」と言われた。


「前回、レオさんと繋いだ時にも同じ事言われました」

「副隊長とも手、繋いだの? それは聞いてなかったわ」

 あっ、しまった。


 自分から暴露してしまった事に焦っていると「お店に夢中になると周りが見えなくなるらしいって言ってたけど、まさか手を繋いていたとはねぇ」と、キャロルさんはニヤニヤしながら私の顔を見た。

 うぅぅ、余計なことを言ってしまった。


「違うんです。私がウロウロするから拘束されただけで、それ以上の意味は......ないと」

「それでも、副隊長が公の場で手を繋ぐ事はないと思うな」

「そう、なの......かな?」


 彼に凄く優しくされている事は分かっている。だけど、それが特別なことなのかは正直わからない。だって彼は言ったもの「誰かと付き合う気も結婚する気もない」と。


 だから彼が私に向ける好意は、親しい友人としてだと思うんだよね。それを勘違いする訳にはいかないし、そんな事したら今の友人関係も壊れてしまう気がして、なんだか怖い。


 彼に好意を持ってしまったら、きっと他の女性と同じように嫌われてしまう。そしたら彼の笑顔を近くで見ることが出来なくなる。そんなのは嫌だ。だから私は今のままでいい。




 人の多いマルシェの通りに入ると、背の低い私の肩だと周りが見えないのか、ノアは私の頭の上に乗ってきた。首を伸ばして、お店の前に並べられている商品を、興味深気に見始める。ちなみにノアは自分の重さを自在に操れるらしく、私に乗っている時に重さを感じた事は余りない。


「ノア、何か気になるものある?」

『あの赤いやつ何?』

 ノアの視線の先を見ると、前回は見かけなかった林檎に似た真っ赤な果物が山積みされていた。


「すみません。この果物はなんですか?」

 私が店主さんに話しかけると、お店の前にいたお客さんが驚いたように引き、少しスペースが出来た。


「えっ、あんたが......あなた様がユイ様だったんですか?」

「あっ、この前色々教えてくれた店主さんだ。この前はありがとうございました」

「今日はロブ・ナイト様と御一緒ではないのですね」

 ここでもレオさんと一緒だったことを覚えられているなんて......。


 苦笑いをしながら「これってどんな味ですか?」と問うと「ベニモモです。食べてみて下さい」と林檎より少し小さなその果物を、ナイフで半分にして渡してくれた。真っ赤な皮の中の実は薄いピンク色で、瑞々しい水滴がじわりと滲み出てきていた。


 手にしたベニモモを一口食べようと、大きな口を開けた所で「ユイ様お待ちください」とマードックさんに声を掛けられた。


「食べ物は......」

 大きな口を開けたままの私と目が合い、気まずそうな表情のマードックさん。


「あっ、大丈夫です。ケリー魔導師統括長に頂いた指輪があるので」


 私がそう言って、右手の人差し指に嵌められている指輪を見せると、彼は安心して後ろに下がった。今度こそはと思い切りかぶりつくと、口に入れた瞬間瑞々しさが口の中で弾け、すぐに甘さ、その次に酸味が襲ってきた。


「甘い。けど、すっぱ~い」

 めちゃめちゃ甘いのに、めちゃくちゃ酸っぱい。耳の後ろがキュンとなるほどの酸味に、顔のパーツが全部真ん中に寄ったようになった。


「こんな甘くて酸っぱいの食べたことない。これ美味しい」

『ユイ、僕もそれ食べたい』 

「酸っぱいけど大丈夫?」


 私がそう言って頭の上にいるノアにベニモモを差し出すと、鼻先をクンクンとさせて匂いを確認したあと、パクリと一口食いついた。ノアの反応を待ち、静まりかえるお客さん達。

 一口目を飲み込むと、ノアはそのまま残りを全て食べてしまった。


『美味しい。僕これ大好き』

 私の頭の上で嬉しそうに鳴き声を上げ、身体をプルプルと震わせるノア。

「凄く気に入ったみたいです」


 店主さんにそう告げると、周りにいたお客さんからも歓声と拍手があがった。そしてノアの為に10個買うと告げると「お代はいりません」と言われた。しかし「また買いに来たいので代金は払います。受け取ってくれないなら、もう買いに来ませんよ」と言うと「参りましたね」と店主さんは面白いくらい困った顔をした。


「では、10個で銅貨5枚でいいです」

「それじゃ安すぎませんか?」

「いや、それで充分です。他のお客さんにも、その値段で売ってやら。竜太子様が気にってくれたんだ、出血大サービスだ」


 店主さんの言葉を喜んだお客さんから「ユイ様の御陰で私達も得をしました」とお礼を言われた。そして私達から距離を取っていたお客さん達が、いつの間にか笑顔で近寄ってくれていた。後ろを振り向くと、マードックさんとニコルズさんが少し慌てていた。




毎日少しずつではありますが、ブクマや評価が増えとても嬉しく思っています。

どうもありがとうございます。



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