46.【贅沢な買い物】 改
店内に入ったのは、私とキャロルさんとニコルズさん。男性のマードックさんは、お店の入口で警護をしてくれている。
「いらっしゃいませ。ユイ様、2度目のご来店ありがとうございます。竜太子様、お会いできて光栄です」
そう言ってこの前と同じ、中年の女性店員さんが挨拶をしてきた。どうやら前もって、私達が来店するという趣旨の連絡があったらしい。そして大げさな歓迎は、私が好まないことも連絡済みだとか。
「覚えてくれてるんですか?」
「もちろんです。あのロブ・ナイト様がお連れした女性がまさか竜母様だったとは、知らなかったとは言えは失礼いたしました」
「ロブ・ナイト?」
「副隊長の呼び名です」
その言葉の持つ意味は、帰ってからキャロルさんに教えてもらった。レオさんはあれだけの整った容姿なだけあって、王都でも有名な騎士だと知り、彼を慕う女性が多いのも頷けた。そう言えば、あの時の女性はどうなったんだろう?
「今日はどのような服をお探しでしょうか?」
「今日はスカート、ワンピース、コートとニットが欲しいです。スカートは動きやすくて洗濯しやすいものを3枚程。ワンピースとコートのオススメはありますか? 次のお出かけの時に着たいので。ニットは軽く羽織れるものがいいです」
「かしこまりました。選んで参りますので少々お待ちください」
そう言うと、店内の服を色々とかき集め始める女性店員さん。私達もゆっくりと店内を回りながら、好みの服を手に取っては、鏡の前で合わせることを繰り返した。ノアは私の肩の上で、退屈そうにあくびをしている。
「次のお出掛けは、誰とですかねぇ」
キャロルさんがこっそり聞いてくる。
「決まってませんけど......」
頭に浮かんできたのは、レオさんの顔。
「決まってないけど、副隊長よね?」
バレているのはなぜ?
「......誘ってもいいのかな?」
「どうして? 副隊長は喜ぶと思うよ」
「気後れしてしまうんです。特に街では......」
ついキャロルさんには、本心を言ってしまった。
「???」
意味がわからないと言う表情を見せて、首を傾げる彼女。
「レオさんの隣に平々凡々な私がいていいのかな? みたいな。美人と言われるタイプじゃないのは分かってるんだよね」
お揃いの服を着て鏡の前に立った時の、あの居た堪れなくなった気持ちが忘れられない。
「それ言ったら、きっと副隊長は怒ると思うよ。副隊長は自分の容姿の事を言われるのが嫌いな分、他人の容姿についても絶対何も言わないの。人を見た目で判断する人が大嫌いだから、ユイさんがそんな事言ったら怒ると思う。まぁ仲間内では冗談で、揶揄うことはあるけどね。隊長の頭とか」
そう言って、和ませようとしてくれるキャロルさん。私の頭の中には、隊長さんの寂しげな髪の毛が浮かんで、笑いが零れた。
「そうだよね。ただの友達なんだし気にするのおかしいよね」
「例え恋人でも、周りは関係ない。それにユイさんは充分可愛いよ」
鏡の前で茶色いチェックのワンピースを合わせている私の後ろから、露草色の瞳が微笑んでくれる。
「ありがとう」
キャロルさんの柔らかな笑顔が、私の不安な気持ちを和らげてくれる。でもどうしてこんなに不安な気持ちになるのだろう......。
「ユイ様、このような感じでいかがでしょうか?」
そう言って店員さんはスカートを5点、ワンピースを5点、コートを3点、ニットのカーデガンを3点見せてくれた。スカートはこれから食堂で働く時に着る為の物で、膝下10cmに裾上げしてもらうことにした。そう、私は明日から食堂でお手伝いをすることになったのだ。
仕事の時は騎士服のシャツに、無地のスカートを履こうと思っている。臙脂色、茶色、深緑のスカートをそれぞれを1枚ずつ選び、ニットのカーデガンも仕事の時に着る用に白とグレーを購入。
ワンピースはさっき見ていた茶色のチェックと、店員さんおすすめの中からキャロルさんが2枚選んでくれた。コートは奮発して、フードにホーンラビットのファーがついた、ポンチョコートの黒いものにした。
全部で金貨2枚でおつりがちょっと貰えるくらいになった。うん、ポンチョコートが高かったかなと反省。
いつもファストブランドとか、アウトレットとかで服を買っていた私からすると、相当高い買い物したなと思う。これいつもなら、5万円で充分おつりくると思うんだよね。
この服、貴族御用達のお店で買ったらいくらになるんだろう? そもそもこんなカジュアルな服は、売ってないのかな? 私にはこういうカジュアルな服で充分だし、動きやすいのが一番なんだけどなぁ。
実は宮廷から、可愛らしい服を何点も頂いだいている。けれど正直動きづらく、普段は騎士服ばかり着ていたりする。国王陛下にお会いする時くらいしか着る機会がないものを、あんなにたくさん頂いても困るのだ。
購入した服の代金を払う時、裾直しが終わったら馬車に荷物を運んでれると、女性店員さんが言ってくれた。それは有難い申し出だった。
そう言えばお店を出る前、キャロルさんはニコルズさんに頭を下げ「ニコルズ卿、ここでの話は他言無用でお願いします」と言っていたけれど、そんなに秘密にするような話したかな?
そしてニコルズさんは「心得ております」と二つ返事で了承してくれていた。
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