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45.【キャロルは友達】 改

 あの飲み会から十日程たった今日、キャロルさんと一緒に街に買い物に行けることになった。もちろんノアも一緒だ。


 正直街の人がノアと私に対して、どんな反応をするのか心配ではある。だけど、ずっと王城だけで生活するのは息苦しくて、今の私にはとても無理。


 それにノアが街の様子を見たいと言ったこともあり、思いの外あっさりと外出を認められ、こんなことならもっと早くお願いすればよかったなと内心思ったくらいだ。


 ただし前回レオさんと二人で出かけた時とは違い、ノアが一緒にいる今日は、キャロルさん以外にも近衛隊の騎士さんが二人も付いてきた。


 一人は王城でお世話になったジェイク・マードックさん。三十歳ぐらいの金髪の体格のいい男性。もう一人は二十五歳くらいのピンクの髪が可愛いらしい、女性騎士のアデル・ニコルズさん。


 近衛隊の二人の制服は白い生地に金糸で縁どられた詰襟で、さすが王族を護衛する騎士さんの制服だけあって、魔物討伐部隊とは違ってキラキラしている。


 この制服を着たレオさんを想像して、私はこっそりニヤニヤしてしまった。だってどう考えたって、誰よりも似合っててカッコイイに決まってる。


 私の服装はというと、街に溶け込めるようにと、キャロルさんの洋服を借りて出かけることにした。だけどノアが一緒にいる時点で、街に溶け込める訳もない事を忘れていた。


 そう言えば、この世界に来た時には少しキツかったキャロルさんの服だが、今では余裕で入るようになった。この世界に来て食事の量もかなり増えたし、運動をしているわけでもないのになんで痩せたんだろう? と以前疑問に思ったとき、その理由をノアが教えてくれた。


『僕の為に膨大な魔力を作り出してくれてるからだよ』と。


 確かに食事の量が増えたのは、ノアと一緒に生活をするようになってからだ。極端に食べる量が増え「私どうした?」と不安になった時もあるが、今では好きなものを好きなだけ遠慮なく食べている。


 たぶん男性騎士さんと変わらないくらいは、食べていると思うんだよね。もしかしたら私の方が多いかも?


 最初は驚かれていた食事量も、理由が分かればなんてことはない。今では魔物討伐部隊の騎士さん達も、気にしなくなった。ノアとの生活が終わった後、私の食事量も自然に元に戻るのだろうかと、今はそっちの方が不安だ。


 騎士団の宿舎の前に迎えにきてくれた馬車に乗り込む時、差し出されたマードックさんの手の意味が分からずマジマジと見つめた。すると「ユイ様、手を添えて下さい」とキャロルさんに言われ、私は慌てた。


 苦笑いするマードックさんの手を取り馬車に乗り込むと、ノアを私の膝の上に乗せる。そしてニコルズさんマードックさんと向かい合わせに座わり、隣にいるキャロルさんに「まずどこに行きたいですか?」と聞かれた。


「今日はまず服が買いたいの。スカートとワンピースとコート、あとニットも。それとね、キャロルさんとお揃いの何かが欲しいなって」


「私とですか?」

「キャロルさんに貰ったワンピースのお礼。遅くなちゃったけど貰ってくれる?」

「お礼を貰う程のものじゃありませんよ」


「......」

「どうしました? ユイ様」

 気にしないようにしたけど、やっぱり私には無理だ。


「敬語はイヤ。キャロルさんは護衛じゃなくて、友達として一緒に来てもったんだよ」

「しかし......」

 キャロルさんは向かいに座っている、近衛隊の二人を気にしているようで、返事に困った様子を見せた。だけど「私が嫌なんです」ともう一度念押しすると「わかったわ」と言って笑ってくれた。


「もしかして、私すっごい我儘言ってる?」

 この国の常識を逸脱しているのではと、不安になり問いかけると『キャロルは友達だ』と私の膝の上で会話を聞いていたノアがそう言ってくれた。


「そうだよね。ノアもそう思うよねぇ」

 ノアの頬を両手で挟みウニウニするように触ると、前に座っている近衛隊二人の顔が引きつっている事に気が付いた。


「もしかして、竜太子様になんてことを......とか思ってます?」

「いえ、そのような事は決して」 

 二人の目が、泳いでいる。


「いつもこんな感じなので、気にしないで下さい。ねぇ、ノア」

 膝の上のノアの頭に頬ずりすると、ノアは満足気に「きゅぅ」と鳴き声をあげた。


「あの、ユイさん......どうしましょ」

 私の手を握りあたふたするキャロルさんの手を、私も握り返した。

「どうしたの?」


「今『キャロルは友達だ』って声が聞こえたんだけど、空耳かな? 勘違いかな?」

 キャロルさんの顔に、喜びの色が溢れている。


「えっ、キャロルさんに聞こえるように話したの?」

『だって友達でしょ』

 当たり前のことだと言わんばかりのノアの言葉に「やったね。嬉しいね」と、握り合った手をブンブンと振って喜んだ。


『そういうところが子供っぽいって言われるんだよ』

「ノア、なんで知ってるのよ」

 ムッとしてノアを見ると、彼は明後日の方を向いて『さぁね』と私をあしらった。


「誰に子供っぽいって言われたの? あっ、副た......い......」

 慌ててキャロルさんは口を抑え、先日レオさんに言われた言葉を思い出した私は、ちょっと膨れっ面になった。


『そういうところも』

「ふふふっ、ユイさんと竜太子様って親子って言うより兄弟みたい」

「最近ノア生意気なの」

「竜太子様を生意気と言えるユイさんが凄いけどね」


 そう言われると、確かにそうかもしれない。国王陛下でさえも跪かせる存在だと言うことを、私はついつい忘れてしまっている。だけど


「まぁいいか。ノアはノアだもんね」

「きっと、そういうユイさんが好きなんでしょうね。竜太子様は」


 私にとってノアは子供であり、弟であり、恋人なのだ。前に座っている近衛隊の二人は、かなり怪訝そうな顔をしているけど、私には関係ない。




 暫くして服飾関係のお店が立ち並ぶ通りに着くと、私は差し出されたマードックさんの手を取り、馬車を降りた。こういうお嬢様扱いは、ちょっと苦手だな。


 大きな通りには人通りも多く、そこに宮廷の紋章の入った馬車が止まれば、人の目を引くのは当たり前。しかもその馬車から降りてきた私の肩には、竜太子であるノアが乗っているのだ。騒ぎにもなるだろう。そんなことは覚悟の上だ。


 馬車を止めてもらったのは、前回レオさんと服を買いに来たお店の前。貴族御用達のお店を紹介されたが、自分に見合う服でいいと言って断った。


 先月から竜母の私に対してお給金が出るようになり、私はそれで買い物をしようと思っている。何でも言えば欲しいものは購入してくれるらしいが、私はそれを断固拒否した。


 だって充分なお給金をもらってる上に、食費も部屋代も出させてもらえないのだ。つまり使うところがないのに、たくさんもらっても意味がない。


 お給金は金貨5枚。

 日本で言えば50万円ってところだろうか。


 エイベル宰相に最初10枚を提示され、それは多過ぎるから2枚でいいと言うと「勘弁してください」と言われた。そして最終的にお互いが妥協して、半分の5枚で落ち着いたのだが、きっと今日たくさん買い物しても3枚は残ると思うな。


 この国の貨幣は大雑把に言えば、こんな感じ。


 大金貨=1,000,000円

  金貨=...100,000円

 大銀貨=.....50,000円

  銀貨=.....10,000円

 大銅貨=.......1,000円

  銅貨=..........100円  


 食べ物は比較的安いが、それ以外の生活用品は高めな感じがする。前回レオさんに買ってもらったワンピースが、銀貨1枚と大銅貨5枚もすると分かったとき、申し訳ない事をしたなと思った。だからレオさんにも、ちゃんとお返しをしたいなと思ったのだ。


 そう、今日はレオさんへのお礼も購入したいと思っている。だからレオさんが一緒じゃない方がよかったんだよね。だって驚かせたいでしょ!?


 でも、まずはキャロルさんの見立てで、私に似合う服を選んでもらおう。久しぶりの買い物にちょっと......いや、かなりワクワクしている。


 私達を遠巻きに取り囲む人の前を通って、私はニコルズさんの後をついてお店の中に入った。


   

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