36.【この気持ちはなに?】 改
最初は十人程度の予定だった飲み会も、私の歓迎会という名目になった為に、第三部隊の全員、約五十名が参加する事に。当初の予定よりも大人数になった事をクックさんに伝えると、嫌な顔せず「仕方ねぇな。準備してやるべ」と言って、夕食の料理を多めに作ってくれた。
材料費は隊長さん負担。しかもみんなが気を使うからと、彼は最初の乾杯だけで帰ってしまい、益々申し訳ない気持ちになった。二人には、明日もう一度ちゃんとお礼を言おう。
食堂が落ち着く七の刻過ぎに、奥のスペースを貸切、宴は始まった。ちなみにノアは私の隣、テーブルの上でノア専用のクッション入りの籠に座っている。
「ユイ様、第三部隊へようこそ。そして隊員諸君、連日の魔物討伐ご苦労。身体よりも精神的に疲れているのではないかと思う。なので......
今日は俺の奢りだ、遠慮せずに残さず飲んで食べて騒げ!! 調理長には十の刻までは騒ぐ了承を得ている。遠慮はするな。乾杯!」
「「「「「かんぱ~い!!」」」」」
隊長の挨拶が終わると、男性の低く太い声が歓喜に満ちた声を上げ、エールが注がれたグラスが頭上高く掲げられた。私は自分の前に座っているレオさん、隣のキャロルさん、その前のウイルさんとグラスを鳴らし、それに口を付ける。
口にしたお酒は、ビールの一種のエール。想像していたより飲みやすく、ゴクゴクと喉を鳴らして飲むと、キャロルさんに驚かれた。
「ユイさん大丈夫? そんなに強くはないんだよね!?」
「大丈夫。だってキャロルさんが送ってくれるでしょ!?」
揶揄い気味に言うと「そ、そうね。うん、任せて。それに、私が酔っても副隊長がいるしね」彼女はそう言って、レオさんにお願いするように視線を向けた。
実はキャロルさんも、それ程お酒に強いわけではないらしい。
「レオさんは強いの?」
目の前に座る彼に問いかけると、すでにグラスが空になっていた。
「殆ど酔ったことはないな」
「じゃあ安心だね。よし、飲もう!」
「安心ねぇ......ユイ様は送り狼って言葉、知ってる?」
エールをもう一口飲んだ所で、ウイルさんがレオさんの横顔を見ながら聞いてきた。
「知ってますよ。でもレオさんはそんな人じゃないので、大丈夫です」
「レオだって男だよ?」
レオさんがちょっと咽せた。
「レオさん大丈夫?」と私は、おしぼりを手渡す。
それを受取りながら「お前は何を言ってる」と、ウイルさんを睨みつけているレオさんの顔が、少しだけ赤い気がする。
『僕がいるのに、そんなことさせるか』
ノアが不機嫌な声で答える。
「ふふっ、そうだねノア」
ノアの言葉を伝えると「そうだった。竜太子様という壁があった~」とウイルさんが手を額に当てて困った顔をしている。......なんでだろ?
『僕と同じ位ユイの事を好きで、僕と同じ位強い男じゃなきゃ認められない』
「それって、私に恋人が出来るのは無理ってことよね?」
ノアに向けた言葉を聞いて「「「え!?」」」と驚き、私の顔を見つめる三人。
「ノアと同じ位強い男じゃなきゃ、認めないって言われた」
「「......それは、難しいな(難しいね)」」
キャロルさんとウイルさんが、面白いくらい困った顔をしている。レオさんは黙ったまま、二杯目のエールを一気に飲み干した。
「まぁ、いいか。今は考えられないし」
「ニホンに帰りたいから?」
キャロルさんがまた、寂しそうな表情を見せる。
「帰りたいっていうか、五年後の想像が付かないからかな。ノアが竜王様になってから、自分の将来を考えようかなって思ってる。自分の役目が終わったら、元の世界に戻る方法を探そうと思ってるし」
「帰る方法が分ったら、帰っちゃうの?」
「......わからない......かな」
それが今の本心だ。元の世界に帰ることを諦めたわけじゃないけれど、今はこの世界が嫌な訳でもない。有希と健太にもう会えないのは辛いけど、ノアやキャロルさん、レオさんに会えなくなるのも嫌だ。どっちも好きで、どっちも諦めたくない。私は我侭だ。
私は手にしていたグラスに残っているエールを一気に飲み干し、隣にいるノアの頭を撫でた。
『ユイ、ずっと一緒だよ』
「そうだね、ノア」
ノアの言葉に笑顔で答えて顔を上げると、レオさんと目があった。彼の深い紫の虹彩が寂しそうに見えるのは、私の願望かもしれない。私がいなくなることを、彼に寂しいと思って欲しいと、心の奥で願っていることに気がついてしまった。
モヤモヤするこの気持ちは、一体なんなんだろう。
「ユイさん帰っちゃヤダ! 私はユイさんが大好きだ~!!」
「今日三回目の告白だね。キャロルさんもう酔ってる?」
「酔ってません」
私に抱きつきながら答えるキャロルさんは、既に顔が真っ赤で、間違いなく酔っている。まだエール一杯目だと言うのに、大丈夫だろうか。
「キャロルとユイ様は、今日あちこちでイチャイチャしてたらしいね」
「イチャイチャ?」
レオさんの疑問に「練習場と広場で、愛の告白してたらしい」と、ウイルさんが返事を返す。
「だって私達、両思いだから」
キャロルさんの言葉に「ねぇ~!!」と、私は首を傾げて賛同し、二人でまた笑いあった。
楽しい宴はまだまだ始まったばかりだ。
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