35.【愛の告白?】 改
ブクマ、評価していただき、ありがとうございます。
宿舎に着くとキャロルさんは、汗をかいたから着替えてくると言って、食堂棟の奥にある女性宿舎へと急いでいった。女性宿舎というのは木造の洗濯棟三階にあり、洗濯棟や食堂棟で働く女性従業員、女性騎士専用の宿舎で、男子禁制になっているとのこと。
女性宿舎は、男性宿舎とは違い基本二人部屋。ただし騎士は、新人のときから個室が与えられるらしく、それだけは良かったことだと、キャロルさんが前に言っていた。
ここに来た当初、客間ではなく女性宿舎でいいと私は言った。しかし安全面を考慮すると、客間の方がいいと言うことで、今の部屋を使うことになった。しかし竜王の結界で守られている今なら、女性宿舎でもいいのではないかと思ったりする。
それでも「何かあったときに、隊員が直ぐに駆けつけられないようでは困る」とレオさんに言われると、諦めるしかなかった。今の客間なら一二階に必ず誰か男性騎士がいるが、洗濯棟は昼間、作業場以外誰もいなくなるというのが一番の理由。
ちなみに三階は、隊長さんと副隊長のレオさんの執務室兼寝室があるのだが、隊長さんは結婚している為、夜は自分の家に帰る。だから寝室に泊まることは殆どなく、実質レオさんと私だけになるのだ。
だから何と言うわけではないけれど、正直レオさんじゃなきゃ、嫌だったかもしれない。
キャロルさんが着替えに戻っている間、私は食堂棟と洗濯棟の間にある広場で、彼女が戻ってくるのを待っていた。前には食堂棟、後ろには洗濯棟、両端には宿舎が四棟ならんだかなり広めの広場の中央。
ここにも大きな楓の木が植えられており、離れたところから見ると、赤く色づいたブロッコリーのようだ。四百年という長い年月を、ここで過ごしている楓の木。赤と黄色が混じった葉の間から、きらきらと優しい木漏れ日が差し込み、私はその太い幹に触れ上を見上げた。
「ユイさんお待たせ。どうしたの?」
服を着替えて戻ってきたキャロルさんが、柔らかな声で問いかけてきた。
「今までの竜母様も、こんな風に楓の木を見て、もみじを、日本を思い出してたのかなぁって」
「モミジって楓に似てるのよね?」
「似てるんだけど、もっと小さな葉で、もっと紅く色づくとっても可愛い木」
「ニホンに帰りたい?」
寂しそうにも、不安そうにも見える表情で、問いかけてくるキャロルさん。
「帰りたくないとは言えない。けど、今はこの世界も好き」
そう答えると、彼女は何故か泣きそうな顔をしながら、私を抱きしめてきた。
「どうしたの?」
肩にいるノアも、私と一緒に首を傾げている。
「ユイさんが好きだ~!!」
「うん。私も好きだよ。これってさっきと反対だね」
くすくすと息をもらせて笑うと『何やってんの』とノアが肩の上で呆れたように呟いた。
「愛の告白?」
「そう愛の告白」
私達は顔を見合わせて笑いあった後、昼食を取るために、食堂へ向かって歩きだした。
食堂に入りいつものように、窓際の席にキャロルさんと向かい合って座った。
二人で一緒に「「いただきます」」をして、メインのとんかつにかぶりついた時、第三部隊のケントさんがキャロルさんに「今日皆で飲みに行こうって言ってるんですが、キャロルさんもどうですか?」と話しかけてきた。
「飲みか。明日休みだけど......」
キャロルさんは躊躇い考え出した。
「飲みって街に行くの?」
疑問を素直に口にすると「ユイさんも行く......のは無理よね」と、至難なことだというように、キャロルさんに言われ、私もコクりと頷き返した。
「俺もユイ様に来てほしいっす」
ケントさんもこう言ってくれてるが......。
テーブルに肘をつき顎を乗せた手で、頬をペチペチと軽く叩きながら考えるキャロルさん。
「さすがに夜の街には行けないね。でも私も飲みに行きたいな」
「ユイさん強いの?」
「強くはないけど、少しは飲めるよ」
「よし、どうにかしよう!」
そう言って彼女は勢いよく立ち上がり、調理場にいる調理長のクックさんに声を掛けた。
「調理長~! 今日の夜、食堂借りること出来ない? ちゃんと片付けて、迷惑は掛けないからお願い」
大げさな仕草で顔の前で手を合わせるキャロルさんは、片目を開けてクックさんの顔を覗き込む。
「なにすんだべ?」
「ユイさんの歓迎会まだやってなかったから。でもユイさん街へは行けないでしょ?」
「ユイ様の歓迎会って言われたら断れねぇべ」
クックさんは頭をポリポリ掻いている。
「じゃあ、いいのね」
「ほんじゃ、残り物でよければ、食べ物も置いといてやらぁ。ちゃんと片付けるべな」
「「「やった~!!」」」
嬉しさのあまり、ケントさんも一緒に三人でハイタッチしてしまった。こうやって急遽、私の歓迎会という名目で、飲み会が決定した。
ただし騒いでもいいが十の刻終了の時間厳守。もちろん、この後レオさんもお誘いする予定だ。




