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31.【早く君に会いたい】 改

「そう言えば、竜王の森の魔物って本当に増えたの?」

心配していたことを、二人に尋ねてみた。


「ユイさんが卵と一緒にここに来た翌日から増え始めて、今は通常の5倍は出現してる」

「5倍......」

 レオさんの答えに絶句する私。たぶん顔も引きつっていることだろう。


「それでも今は、治癒魔法が出来る魔導師が一人同行してくれるようになったから、楽になった。疲れたら疲労回復の魔法をかけてもらえるからな。まぁ、魔導師は魔力回復ポーションを飲んだりしてるから、大変なんだろうが」


 今の魔物討伐の状況を、淡々と説明してくれるレオさん。魔導師さんが同行していなかった時よりは楽になったと言うけれど、それでも体力的にも精神的にも辛いだろう。


「疲れてるのに、会いに来てくれてありがとう」


 感謝の気持ちを込めて、二人ににっこりと笑いかけると「私達がユイさんに会いたかったのよ」「気にすることじゃない」と、二人も優しい笑顔を返してくれる。改めて、三人で過ごす時間が楽しいと思った。


 きっとまた、こんな時間が当たり前に過ごせるようになれるはず。私は国王陛下が言った言葉を信じて、寂しい日を乗り越えるんだ。


「ユイさん、頼みがあるんだ」

 突然レオさんが、少し硬い声でそう言った。


「なんですか?」

「久しぶりにユイさんの歌が聞きたい。隣の部屋から聞こえてきていた歌が聞こえなくて、ちょっと寂しい」


 聞こえていると聞いてはいたけど、自分が思っていた以上に筒抜けだったのかもしれないと思い、私は恥ずかしさで顔を手で被った。


「副隊長それって、愛の告白に聞こえますよ」

 驚いてキャロルさんの顔を見ると、呆れたような表情をレオさんに向けている。


「キャロルさん、しょ、しょんな訳ないじゃないですか」

 焦りすぎて噛んでしまった。


 キャロルさんの言葉にレオさんは何も答えず、ベッドの隣に置かれたピアノの椅子を引いて、私に座るように促した。


「レオさん、ちゃんと否定しないとダメですよ!?」

「いいから、弾いてくれないか?」

 レオさんの声が、いつもより甘く聞こえるのはきっと気のせい。


 レオさんにとっては、気にすることでもないってことなのね。一人でドキドキしちゃった。私は熱くなった頬を摩ると、レオさんが待つピアノまで歩き、その側にあるベッドに卵を優しく下ろした。


「ちょっと待っててね」と、いつものように卵に声をかける。

「ユイさんは、そんな風にいつも卵に声をかけてるの?」

「私の声聞こえてるかもしれないでしょ? 私の声覚えてもらえるかなって」

「自分のお腹に話しかける、妊婦さんみたいだな」

「ふふふっ、私にも母性ってあったみたい」

 愛する人の子供を抱いている未来の自分を想像して、ちょっとニヤニヤしてしまった。


「それでレオさんは、どんな歌がいいんですか?」

 傍らに立つ彼を見上げながら、問いかける。


「ユイさんが良く、部屋で口吟んでいる歌なんだが......」

「どれだろ?」

「ゆっくりした歌なんだ」

 レオさんの言葉を聞いて、私が口吟む定番の歌に目星を付け弾き始めた。


「私、ユイさんの歌聞くの初めてよ」

「そうだったね」


 最初に頭に浮かんだのは、今は離れている友達を思って歌った歌。彼女が大好きで、よくカラオケに行くとせがまれて歌ったっけ。


 二曲目は、ちょっと切なくて甘いラブソング。いつかこんな恋がしてみたいなと思ってる。

 三曲目は、お母さんに感謝の思いを伝える歌。この曲は確か食堂で歌ったはず。

 四曲目は、大好きな気持ちが溢れて止まらないって感じの男性が歌う歌。こんな風に思われたら、彼女は嬉しいだろうなぁって思う歌。


「レオさん、今歌った中に好きなのありました?」

「最後の曲だ」

「えっ......レオさん、こう言う歌好きなんだ。意外」

 なぜだか私が、空恥しい気持ちになった。


「どう言う意味の歌なの?」

 キャロルさんが、興味津々な表情で問いかけてくる。

「えっとね、恋人のことが大好きで大好きで堪らない男性の歌だよ。まぁ、レオさんは言葉の意味わからず聞いてたよね」


「それを選んじゃう副隊長って......」

 キャロルさんがニマニマしている。レオさんとイメージが合わな過ぎて、面白いのだろう。


 レオさんはと言うと、思いも寄らない歌詞だったのか、口元を手で覆い照れているのを隠しているよだ。照れた顔をしているレオさんは、いつもと違ってちょっと可愛い。


「この部屋でも歌ってるのか?」

「副隊長、話を変えましたね」

「そんなんじゃない」

 ちょっと冷ややかな声のレオさん。


「ここにきて歌うのは初めてかな。いつもはピアノを弾くだけ」

「どうして?」

 キャロルさんが首を傾げた。


「私が歌う時って楽しい時、機嫌が良いときだけなの。寂しい気持ちでは歌えないから、歌いたいと思えなかった」

 私がそう言うとキャロルさんが、後ろから私を優しく抱きしめてきた。


「キャロルさん?」

「寂しいのはユイさんだけじゃないからね」

「はい」

 友達が自分と同じ気持ちでいてくれるだけで、寂しくても私は強くいられる。


 その時突然、コトッコトッと聞き慣れない音が聞こえた。三人で辺りを見回す。今度はコツコツという音が聞こえる。




 もしかして......


「「「ゆれてる?」」」





 三人で上から卵を覗き込んだ。






「もう孵るのか?」

「予定日までは、まだ一週間あるはずなんだけど」

「胎動みたいなものなのかな?」

「ユイさんの歌に反応したのかもな」

「それじゃあ、本当に妊婦さんみたいだね」

 三人で顔を見合わせクスクス笑って、私は卵を優しく撫でた。








 早く君に会いたいな。






今日のお話、みなさんは誰の何の曲を思い浮かべましたか?

人それぞれ思い浮かべる曲は違うと思ったので、詳しくは書いていませんが

それでいいかなぁと。



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