3.【発見】 改
俺の名はレオ・クラネル。宮廷騎士団第三部隊の副隊長を任されている。
俺達の第三部隊は三日前から竜王の洞窟のある竜王の森北側で、異世界から召喚されてくるはずの女性の捜索を行なっている。第一部隊は南側、第二部隊は西側、第四部隊は東側の捜索を分担して担当する。その他の部隊は、各地の魔物の討伐を任されることとなった。
そして俺達は今、首から上と下肢は雄鶏、胴と翼はドラゴン、尾は蛇という魔物コカトリスの群れと交戦をしている。
普段ならこんな浅い森でコカトリスの群れと遭遇することはない。もっと森深くに行かなければ出会わないような魔物に、今日はすでに三回も遭遇している。しかも今回はBランクのコカトリスが群れで現れたのだから、堪ったものではない。代わりと言ってはなんだが、ランクが低い魔物との遭遇は減少している。
竜王様の魔力が不安定になってからというもの、竜王の森に出現する魔物のランクも遭遇する回数も上がってきている。
そして三日前ついに竜王様が崩御されたと通知があり、結界の効力低下を懸念した矢先のこの状況。
結界が弱まったことで、高ランクの魔物が出現しているのだろうか?
国外からの侵入が理由なら、地方でも高ランクの魔物出現回数が上がるはずだが、今のところそういう報告はない。それに、それだとランクの低い魔物の出現率が減った理由がわからない。
かといって、竜王様の崩御と無関係とも思えないのだ。もしかすると結界の強度ではなく、竜王様が森に不在なこと自体が原因なのかもしれない。
どちらにしても竜王様の存在の偉大さに今更ながら驚かされる。当たり前だと思っていたものの有難さに、失ってから気付くというのはよくある話だ。
前竜王様への感謝の念をもって、次代の竜王様の為に力を尽くすことを改めて誓った瞬間でもあった。
コカトリスの群れの討伐は、いつもより苦戦を強いられた。それもそのはずだ。すでにAランクの魔物と二回も戦った後なのだから体力の消耗が激しい。その上、普段の討伐なら治癒魔法の出来る宮廷魔導師が各隊に三名は帯同するところを、回復ポーションの携帯のみとなっているのだから。数に限りがある回復ポーションを、体力の回復のためだけに使用することは出来ない。
魔物との遭遇率が上がっている為魔力の温存を考えると、魔法の使用も身体強化など最低限となる。あとどれくらいの魔物と遭遇するか予想が立たない為、余力を残す必要が生じる。つまり剣術だけが自分を守る方法であり、気力と体力の消耗が普段の比ではないのだ。
宮廷魔導師の帯同がないことで、いつも通りの戦い方が出来ないことが何より辛い。それでも宮廷魔導師は、結界維持の為の魔力の供給を優先するしかないのだ。
コカトリスを討伐し魔核を回収した俺達は、異世界から召喚されるであろう女性の捜索に戻った。
捜索開始から三日目。いつどこに現れるかわからない為、王都からそう遠くない森だと言うのに野営をやらざるを得ない。魔物の出現率が高い今、女性が夜に出現した場合手遅れになる可能性が高いため、交代で夜通しの搜索にあたっているのだ。
国王陛下から提示された期限まであと十一日。
捜索開始から十二日目。
騎士団全体に女性を見つけられていないという焦りと、連日連夜の魔物討伐による疲労の色が隠せなくなってきている。
本当に異世界から女性が召喚されてくるのだろうか。焦りから竜王様の言葉を否定するような言葉が頭に浮かび、頭を振ってそれを打ち消した。それでも『もしかするとすでに魔物に......』そんな風に、再度悪い方に向かおうとする思考。
いや、諦めるにはまだ早い。必ず見つけ出せるはずだ。この国の未来は俺達騎士団に掛かっている。
朝食の黒パンにチーズを挟んだものをかじりながら、俺はもう一度気合を入れ直して立ち上がった。
午前中の捜索を開始するために討伐服の上に鎧の胸当てを装着していると、夜の捜索をしていた班が帰還してきたのが音や気配でわかった。しかし、いつもと何か様子が違う。
胸騒ぎを覚えテントを出て隊長の下へ急いで向かうと、隊員の一人が右太ももの肉を噛み千切られるという大怪我をおったことを知った。救護テントの人山の中に負傷した隊員がいた。
同行していた隊員に聞いたところ、夜の捜索を打ち切り野営地に戻る途中、大型のホーンラビットに遭遇し負傷したという。夜の捜索中に魔物と四度遭遇し疲労困憊のところを、背後から突如襲われたらしい。応急処置として回復ポーションを飲ませて止血したが、ここではそれ以上の処置は出来ない。
いつもなら、宮廷魔導師の回復魔法ですぐに治せる程度の傷なのに......。俺と同じように何も出来ない事に苛立ちを隠そうとしない隊員達に、負傷した隊員が何ども謝罪の言葉を口にする。
「迷惑かけてすまない。自分の体力を過信してしまったみたいだ。役立たずですまん」
そんな彼を攻める奴も、情けないと感じる奴も、いるわけがない。
「今回たまたまお前が狙われただけだ。今は誰が大怪我をしても不思議じゃない。みんな体力も気力も限界は超えてる。俺だってそうだ。謝る必要なんかねぇよ」隊長の言葉に皆が頷く。
そう、いつ誰が怪我をしてもおかしくはない状況なのだ。
準備が完了した者から馬に跨り、班員が揃ったら捜索に出発する。
今日は竜王の森の北側近くに広がる草原の方から森に入ることになっている。街道を左に曲がればもうすぐ草原が見えてくるという辺りで、身体強化の魔法をかけている俺の耳に、誰かを呼ぶような女性の声が聞こえてきた。こんなところに普通の女性がいるわけがない。もしかして......。
「向こうから女の声が聞こえた。急げ」
逸る気持ちそのままに馬の脇腹を思い切り蹴り、声がした方へ全速力で向かった。すると草原の中を必死の形相でこちらに向かって走ってくる女性の姿が......。その後ろには五匹のゴブリン。
腕を掴まれ組み敷かれた女性の叫び声により一層馬のスピードを上げ、勢いそのままに背負ったバスターソードを抜いて五匹のゴブリンの首を一気に切り落とした。
数秒遅れて到着した部下に女性の発見を知らせる花火を打ち上げさせると、俺は意識を失った女性を肩に担ぎ上げ馬の背に飛び乗った。
自分の前に横座りになるように女性を下ろすと、念の為女性と自分をロープで縛って固定をした。
帯同していた部下に隊長からの指示を待つようにと現場待機を命じ、一人の部下だけを共だってその場を離れる。隊長が待機する野営場までの道、共だった部下に隊長への伝言を頼むと、俺は服装をみる限り異世界人だと思われる女性を連れて、王城敷地内にある騎士団宿舎に向かった。
意識のない女性を落とさないように、右手で彼女の体を抱え込んだ。逸る気持ちを抑えながら片腕で轡を操り、ほんの少し早足で街道を進む。すると王都正門まで残り半分くらいの距離の所で、女性が意識を取り戻した。
ゆっくりと目を開けたあと、馬に乗っていることに驚いた様子の彼女に「大丈夫か?」と声を掛けると、それまでの事を思い出したのか顔を青ざめさせ小さく震えながら、俺の胸に顔を埋めて泣き始めた。
そりゃそうだろう。知らない世界に来ていきなりゴブリンに襲われたら、この俺でも泣きたくなる。彼女の体に回した手で背中をそっと摩ると、途切れ途切れの声が聞こえた。
「あり、がと...ございま、す。もう、ダメ...と、おも…た」
「安心しろ、もう大丈夫だ。これから騎士団の宿舎に向かう」俺の言葉にコクコクと頷く彼女。
「馬のスピードを少しあげるから、しっかり捕まってろ」
そう言うと、彼女は俺の脇腹のあたりの服をぎゅっと握って、より一層胸に顔を埋めてきた。
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